店頭流通

<BCN REPORT>CES2006 熱いパフォーマンス合戦を展開

2006/01/16 16:51

週刊BCN 2006年01月16日vol.1121掲載

 世界最大の国際家電見本市「コンシューマ・エレクトロニクス・ショウ(CES)2006」が1月5-8日の4日間、米ラスベガス(ネバダ州)で開かれた。次世代DVD規格を巡る「HD DVD」対「ブルーレイ・ディスク(BD)」の両陣営の争い、PDP(プラズマディスプレイパネル)、LCD(液晶ディスプレイ)、プロジェクションが入り乱れた薄型テレビの大型化競争に加え、ゲーム分野ではマイクロソフトの「Xbox 360」対ソニーの「プレイステーション3(PS3)」という構図もエスカレートしそうな様相を呈した。また、家電が主役であるCESの場で、ヤフー、グーグルといったネットビジネスを代表する2大企業のトップが相次ぎ基調講演を行ったことも、今後のデジタル家電の行方を示唆する象徴的な出来事だった。(小寺利典●取材/文)

激突!次世代DVD、市場で勝ち残るのはHD DVDかブルーレイか

コンテンツを制するものが、情報家電市場を制す
ヤフー、グーグルも参戦

次世代ゲーム機Xbox対PS3のバトルもエスカレート

 1月4日夜。CESの前夜祭を飾るメインイベントとして午後6時30分から行われたビル・ゲイツ・マイクロソフト会長の基調講演の興奮もさめやらない午後9時過ぎ、「HD DVD」対「ブルーレイ・ディスク(BD)」の熾烈な争いが幕を開けた。

 先陣を切ったのはHD DVD陣営。HD DVD規格に基づくコンテンツやハードウェアの開発・普及促進に努めるHD DVDプロモーショングループの藤井美英代表(東芝執行役上席常務デジタルメディアネットワーク社社長)は、世界各国の記者を集めてのプレスカンファレンスで、「東芝は本日、HD DVDプレーヤー2機種を499.99ドル、799.99ドルの価格で3月から販発売開始すると発表した。販売にあたってはベストバイやシアーズ、アマゾンなどの協力を得る。また、コンテンツは2006年中に200近いタイトルを用意する」と宣言した。

 500ドルを下回る価格で次世代DVDプレーヤーが投入されることに、CESに集まった業界関係者からの驚きの声も少なくなかった。BD陣営のパイオニアが同日発表したBDプレーヤーが1800ドル、翌日、韓国サムスン電子が発表したBDプレーヤーでも約1000ドルという値付けがなされている点からすれば、HD DVD陣営の中核メンバーである東芝はかなり戦略的な価格設定を行ってきたことになるからだ。

 「いろいろマーケティングを行った結果、消費者に受け入れられないはずがないと確信するようになった」と藤井代表。HD DVD陣営は、HD DVDかBDかの判断は技術的な仕様よりも「消費者が使い勝手で判断してくれる」と自信を深めており、カンファレンスにはマイクロソフト、インテルからもゲストスピーカーを招き、パソコンとの親和性に優れる点などをアピールした。

 また、BDに比べ映画業界からの支持に劣るとされる弱点を払拭するかのように、ユニバーサルスタジオ・ホームエンタテインメント、パラマウントピクチャーズ、ニューライン・ホームエンタテインメント、HBOビデオ、ワーナー・ホームビデオの社長や幹部5人がゲストで登場し、絆の強さを見せつけた。

 一方、翌1月5日の夕刻には、BDの普及促進活動を行うブルーレイ・ディスク・アソシエーション(BDA)がプレスカンファレンスを開き、開口一番「BDの最終規格が完全に固まった」と宣言した。この意味合いについて、カンファレンスに臨席していたソニー・コンピュータエンタテインメントの久夛良木健・代表取締役社長兼グループCEOは、「もともとPS3はわれわれ独自の仕様で製品化するのでなく、最終仕様が決まらない限り出さない方針でいた。今回の表明を受け、(製品化の)ベストの日を決めたい。規格決定をねばり強く待っていて良かった」と述べ、いよいよPS3の発売が秒読み段階に入ったことを示唆した。

 BDAのカンファレンスにゲストスピーカーとして招かれた米デルのマイケル・デル会長は、「顧客はデルがBDを支援することを喜んでくれている。顧客はすでに現行のDVD以上に対応できるディスプレイモニタを持っているし、50GBという大容量があればシングルディスクでリッチなコンテンツが楽しめるようになる」と歓迎の意向を述べた。

 また、ソニー・コンピュータエンタテインメントの久夛良木社長は、「BDは技術的に正しい。やはり中途半端なものはやりたくなく、ハードルは高い方が良い。ただ、普及しなければこれまでやってきたことが無駄になってしまうわけで、やる以上は徹底的にやる」と、次世代規格争いで“両雄並び立つ”場面は毛頭想定していない。

 実際、BDの普及はPS3の成否にかかっているともいわれる。この構図がCESでのソニー対マイクロソフトのゲーム機バトルにも色濃く反映された。ソニーのハワード・ストリンガー会長兼CEOは1月5日午前の基調講演で、同社が今年目指す4つの重点分野として「e-エンタテインメント」「デジタルシネマ」「HD(ハイデフィニション)」と並び、文字通り「プレイステーション3」を掲げた。

 PS3のマーケティング担当者が「われわれはPS3でXbox 360を打ち負かしていく。ゲームはハードだけではエンタテインメントを楽しむことができない。キラーアプリケーションが必要で、われわれはパートナーシップを組んで着々と準備を進めてきた」と強調。これを受け、ストリンガー会長兼CEOは「PS3は06年以降の重要なプロダクトになる。PS3のパワーは今後どんどん拡張していく」と並々ならぬ意志を表明した。

 これに対し、マイクロソフトのゲイツ会長も基調講演でXbox 360を取り上げ、「発売からちょうど1か月経過したが、極めて好調な勢いを示しており、これまでのゲーム機のなかで最も売れ行きが良い」としたうえで、「06年6月までに全世界で450万-550万台が出荷される」との見通しを語った。

 さらに、「Xbox 360のユーザー10人のうち9人がHD(ハイデフィニション)テレビをすでに持っているか今後購入の予定であることから、Xbox 360がすでにHDテレビ用の強力なアプリケーションとなっている」と述べ、06年6月までに50本以上のHD対応ゲームを提供する予定を明らかし、PS3を強く意識したコメントを展開した。

薄型テレビ、日韓の大型化競争が過熱

 薄型テレビを巡っては昨年、PDPテレビ、LCDテレビ各社による大型化競争が激しく繰り広げられたが、今年のCESはさらに拍車がかかった。PDPでは、松下電器産業が世界最大と銘打ち103型フルHDテレビの試作機をブース内シアターの目玉に据え、見学者の足を止めさせる一方、1インチの差で韓国サムスン電子、LG電子が102型フルHDテレビをそれぞれのメインスペースに展示。日韓の“1インチ争い”としてCES会場を沸かせた。こうした試作機競争と並行して、LG電子は1月4日のプレスカンファレンスで、71型PDPテレビの量産開始も発表した。

 また、LCDではソニーやサムスン電子が82型フルHDテレビを出品し、PDPとの競合領域にLCDが踏み込みつつあることを印象づけた。シャープは昨年秋に発表した65型LCDテレビ「アクオス」の展示と併せて、プレスカンファレンスでは亀山工場(三重県)の紹介を大々的に行い、世界の報道関係者にLCDの量産体制をアピールした。このほか、米国で需要が根強いプロジェクションテレビも三洋電機などの各社ブースに軒を連ねたほか、CESの会期中、日本からは松下電器が世界最大の生産能力を持つPDPの新工場を、約1800億円かけ兵庫県尼崎市に建設するというニュースも飛び込むなど、薄型テレビを巡る話題は今年も事欠かなかった。

 これまでのCESは家電や電子機器といったハードウェアが中心的役割を果たしてきたが、今年は新たな流れとしてヤフー、グーグルという2大ネットビジネス企業が注目を集めたのも見逃せない。CES2日目の1月6日、ヤフーのテリー・セメル会長兼CEO、グーグルのラリー・ペイジ共同創業者が基調講演の壇上に相次ぎ登場したが、こうしたイベントは過去になかったこと。ハード機器と、ネットサービス、コンテンツサービスが不可分な関係になりつつあることを改めて印象づけた。

 ヤフーのセメル会長兼CEOは冒頭、「世界には9億台のパソコン、20億台の携帯電話があり、すでにネットへのアクセスの半分がパソコンを使ってない」と説明したうえで、新サービス「ヤフー・ゴー(Yahoo Go)・デスクトップ」の強化版や、「ヤフー・ゴー・モバイル」「ヤフー・ゴー・TV」を紹介した。ヤフー・ゴーはブラウザベースのサービスでなく、ブラウザを開かなくてもデスクトップ上から検索機能、アドレスブック機能、カレンダー機能などが利用できるようになっており、「どこからでも、どのデバイスからでも利用できる」(セメル会長兼CEO)のが特徴だ。

 このうちヤフー・ゴー・モバイルは、パソコンのユーザーアカウントを携帯電話にもってくることができ、ユーザーが持つ複数のパソコンアカウントを携帯電話から自在に扱える。これにより、携帯電話をなくしたり、別の通信キャリアに乗り換えたりしても、それまでのデータをヤフーのセンター側に残せ、例えば携帯電話に大量に蓄積された写真データが新しい端末に移せないという事態などが回避できる。また、テレビ向けのヤフー・ゴー・TVは、写真、音楽、ビデオなどの検索がキーボードなしで操作できるようになっている。

 一方、グーグルのペイジ共同創業者は、同社の各種アプリケーションサービスをワンクリックで無料ダウンロードできる「グーグル・パック」のほか、新しい目玉サービスとして「グーグル・ビデオストア」を発表した。このサービスは、ビデオや映像のサーチ機能に加え、視聴側とは逆の立場から「誰もがここを通じて自分が制作したビデオが売れる。価格も自由に決めることができる」(ペイジ共同創業者)のが特徴。コンテンツの提供にあたっては米3大テレビ局の1つであるCBSやNBA(全米バスケットボール協会)などと提携し、人気番組を有料配信する仕組みも整えた。

 グーグルといえば無料サービスを前提に成長してきた会社だが、ペイジ共同創業者は「従来通り無料でなければ利用したくないというユーザーもいれば、お金を払ってでも良いコンテンツがあれば欲しい人もいる」と述べ、コンテンツビジネスを収益事業として成長させていく可能性も示唆した。

 ネットビジネス企業も加わり年々盛り上がりを見せるCESだが、今年は例年にも増してエンタテインメント色が強く、基調講演のゲストスピーカーには俳優のトム・ハンクス氏、トム・クルーズ氏をはじめ、ハリウッド関係者や3大テレビ局の首脳陣・キャスター、トーク番組の人気タレントなどが入れ替わり登場し、話題を振りまいた。こうした傾向はエレクトロニクス業界が急速にコンテンツ業界との関係を深めていることの証左であり、今後はコンテンツをうまく取り込めた企業だけが生き残っていける時代を迎えることになるだろう。
  • 1