世界のパソコン製造をリードする台湾ITベンダーに、異変が起きている。世界同時不況による需要減退で受注激減の辛酸をなめた台湾ITベンダーは、自社ブランドの強化や未開拓市場に進出し、情報家電・アプライアンス製品への応用をより強力に推進。ビジネススタイルを大きく変化させた。6月2~6日まで台湾・台北で開催された「コンピューテックス台北」では、台湾ITベンダーの変化がよく現れており、持ち前の経営スピードの速さで危機を乗り越える姿が目立った。(安藤章司●取材/文)

“ネットブック”で波に乗る

世界のIT業界を動かす

 東京よりも少しばかり蒸し暑い6月2~4日、台湾では世界中の顧客を招いて大規模なIT見本市兼商談会「コンピューテックス台北」が開催された。リーマン・ショックから3四半期が経過。金融が落ち着きを取り戻したこともあって、「予想以上の人出」(日本人バイヤー)との声が聞かれた。台湾ベンダーの多くは、この時期に合わせて新製品や試作品を披露する。向こう1年間のIT業界の動向を予測するうえで、重要な役割を果たす見本市なのだ。台湾ベンダーの背後には、中国に広がる巨大なITプロダクトのサプライチェーンがあり、「台湾ベンダーの動きが、世界のIT業界を動かす」(同)とまでいわれる。

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 実際、台湾ITベンダーの世界のITプロダクトに占めるシェアは高い。台湾の政府系研究機関である資訊工業策進会の調べによると、世界のノートパソコンに占める台湾ベンダー製の比率は2008年の推計値で93%、マザーボードは同93%、液晶モニターは同70%(図1参照)。実際は大手パソコンメーカー向けOEMが多くを占めており、表立って台湾ベンダーの名前が出るケースはまだ少ない。それでもこれだけ高いシェアになると、OEM先のベンダーを通じて世界を動かすこともまんざら無理なことではない。

 こうした「いけいけどんどん」のムードに冷水を浴びせたのが、世界同時不況だった。台湾のIT業界も成長に急ブレーキがかかり、主要OEMベンダーの2009年の生産台数の伸び率は、前年比で半減する見込み(図2参照)。大手ITベンダーでさえ伸び率が大幅に鈍る状況下では、中小への打撃は避けられず、「09年の受注高は台湾のIT業界全体で前年比2割減」(台湾の大手ITベンダー幹部)とまで危惧されている。


 だが、危機に直面した台湾ITベンダーの動きは早かった。台湾アスーステックコンピュータは昨年度第4四半期(08年10~12月期)、急速な市場環境の変化で主要事業が赤字に転落したものの、商品戦略や販売戦略、コスト管理を素早く組み替えることで「今年に入り、月を追うごとに利益率が改善している」(沈振来CEO)と、回復の手応えを感じている。“5万円ノートパソコン”と呼ばれるネットブックなど、不況に強い製品ラインナップを増やすことで、不況下で逆にシェアを伸ばす“ウルトラ技”を見せた。

中国など新興市場を狙う

 今回の大型不況によって、台湾のITベンダーは、「自社ブランドによる製品づくりを重視するメーカー」と「OEMに徹するメーカー」という二極化がより進んだとの見方がある。消費減退で販売価格を下げざる得ない状況になると、粗利低下分のしわ寄せを最も受けやすくなるのがOEM中心のメーカーである。アスースはOEM事業の弱点を早くから察知し、自社ブランドとOEMの開発体制を明確に分ける手を打った。これによって自社ブランド事業の経営スピードが速められ、競争力を高めることができた。


 最大のライバルであるエイサーは、M&Aによってゲートウェイやイーマシーンズのブランドを手に入れ、世界での販売を拡大した。台湾エイサーの王振堂CEOは、「世界で受け入れられる製品づくり」を掲げて規模のメリットを追求。ネットブックや、軽量薄型のノートパソコンでありながら10万円を切る低価格帯の製品を投入するなど、消費を刺激するマーケティングを矢継ぎ早に推進する。アスースと同様、パソコンビジネスで世界トップの座を狙う構えだ。不況で消費に勢いがないなか、高級ブランド指向で高価格帯の商品をメインとしてきた日系パソコンメーカーは、世界市場、とりわけ中国や東欧、南米といった新興市場で不利な戦いを強いられている。


 パソコン業界だけではない。エイサーから独立した台湾ベンキューは、自社ブランドのディスプレイ製品を中心に情報家電分野への進出に余念がない。同社の王文副会長は、「ディスプレイセントリックなビジネス展開」を掲げ、テレビ顔負けの高精細な映像を映し出すディスプレイ製品を続々と投入。地域的には「不況による傷が比較的浅い中国や中南米への大型投資を検討している」(王副会長)と、ディスプレイを切り口とした情報家電ビジネスの基礎固めを新興国で行う考えを示した。高精細な映像を伝送する世界標準のHDMI規格などが一般化し、IT産業と情報家電の垣根が低くなったことも、ベンキューにとってプラスに働く。

 次週は、台湾の大手周辺機器やネットワーク機器ベンダーの動きを追う。