その他
価格…、販売店施策…。悩み多いメーカー パネルディスカッションで思わぬ本音
2003/02/03 21:12
週刊BCN 2003年02月03日vol.976掲載
「低価格化で市場拡大ができるのか」、「いや、われわれが何もしなければ、直販メーカーがシェアを伸ばすだけ。対抗策を打つべきだ」。社団法人日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)の新春特別セミナーで、NEC、富士通、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、マイクロソフトの大手ITベンダー5社の幹部が顔を揃え、「e-ソサエティを支える決め手はこれだ」をテーマにパネルディスカッションを行った。通常、こうした場では本音を隠した発言が目立つのに対し、低価格化、販売店施策、中小企業市場開拓といったテーマで、メーカーの思わぬ本音が垣間見える内容となった。(三浦優子●取材/文)
JCSSAの新春特別セミナー
■日本HP、「台風の目」宣言 波紋を呼ぶ価格引き下げ戦略
JCSSAは販売店が参加する組織だけに、パネルディスカッションでは、スピーカーは聴衆が「プロ」であることを意識して発言を行う。それだけに、思わぬ情報が飛び出す時もあるが、あえて本音を隠した発言にとどまってしまうことも少なくない。
しかし、今年の新春懇親会は、スピーカー自身も思わず熱く反論してしまい、会場が沸く場面が度々登場した。
そのきっかけとなったのは、自ら今年の取り組みとして「台風の目になる」ことを宣言した、日本HPの馬場真・取締役副社長。同社は1月8日付で、IAサーバーの価格を最大で35%引き下げるとの発表を行ったばかり。その点について質問を受けると次のように答えたのだ。
「(IAサーバーの価格を35%下げることで)販売店さんが利益を取れるのかは非常に難しい問題だ。しかし、市場全体を見ると流れが大きく変わり、成長産業から成熟産業へ(IT業界自身が)変わっている。今までのメーカー、販売店が主張してきた『これを買いなさい』というアピールは通用しなくなっている」
「しかも、恐ろしいことに直販ベンダーの売り上げが大きく伸びている。われわれはメーカー自身の生き残りをかけ、ビジネスを大きく変えていかなければならないのではないか。お客様に支持されないメーカーは、なくなっていく。確かに価格は厳しいが、なんとか一緒にビジネスを行っていく糸口を見つけていきたい」
サーバー市場は、出荷台数でこそ前年を上回るものの、金額では前年を割り込む状況が続いている。例えば、NECの小林一彦・執行役員常務カンパニー副社長は、「02年度のハードウェアの実績としては、技術的には他社に先行する商品を出すことはできたものの、台数で10%増と伸ばしても、単価ダウンにより売り上げはほぼ横ばいにとどまった」とコメント。
富士通の伊東千秋・執行役プラットフォームビジネス企画本部長も、「02年度はほぼ前年並みの見通し。コンシューマ向けは堅調であったが、コーポレートビジネスはコンシューマよりも厳しい」と、市場が冷え込んでいる様子をうかがわせる。
価格の引き下げ戦略は、シェアが拡大しても、売り上げは伸ばせない状態に陥る可能性のある施策だ。だが、日本HPは、02年が「合併に明け、合併に暮れ、活動が一時滞った」だけに、あえて波紋を巻き起こしても市場に一石を投じる必要があると判断したようだ。
さらに、馬場副社長の冒頭の発言通り、直販メーカーであるデルコンピュータはこの1年、IAサーバー市場で大幅にシェアを伸ばした。この動きは、日本HPならずとも、見過ごせない動きである。事実、NECの小林執行役員常務は、価格引き下げに否定的な発言をしながらも、追随するか否かについては、「イエスであり、ノーだ」と微妙な発言を行っている。デルが追い上げる市場では、価格競争もやむなしという側面があるということだろう。
■パートナーとの関係も転換期に、ITは成長産業から成熟産業へ
対パートナー施策という点でも、メーカーは大きな転換期を迎えていることをのぞかせる発言が飛び出した。
NECの小林執行役員常務は、昨年12月に発表した新しい販売店施策が好評であることを強調。「さらに販売店施策を強化していく」と、販売店とのつながりの深さが武器だとアピールする。
日本IBMの橋本孝之・BP&システム・PC事業担当取締役は、「コンピュータ業界がスタートして40年になるが、世界、日本ともに成長率が2年続けて前年割れとなるのは初めての経験。今後の方向は、新しい価値を求めていかなければならない」と指摘する。
同社はe-ビジネスオンデマンドのように、従来型のハード販売にとどまらない、新しいソリューションの提案を開始しており、新しい価値の創造という方向に敏感に動き出しているようだ。
富士通の伊東執行役は、富士通のビジネスがパートナーに依存する比率が高いことを前提として、IT投資が従来とは異なり「ビジネスプロセスの改革や新規ビジネス立ち上げなど、企業存亡に関わる内容になってきた。そのため、従来のようなスピードでシステム構築をしていたのでは間に合わない」と、販売店に対してもソリューション構築の短期化の必要性を強調した。
パートナーと共にビジネスを進めていくという方向性は変わらないものの、パートナーとの関わり、求める内容は各社各様。そうした多少の違いはあるものの、総じていえば、各社のパートナー施策自体が大きく変化してきたことは間違いない。
各社が今後の注力ポイントとして挙げたのが、中小企業マーケットへの取り組み強化である。
マイクロソフトの眞柄泰利・取締役OEM営業本部ゼネラルビジネス統括本部東日本・西日本担当は、「IT推進全国会というパートナー組織で、全国の地場ディーラー、中小企業を回ったが、驚くほど市場が開拓されていない」と訴えた。
さらに、「パソコン産業が誕生して20年余りの時間が流れ、スタート時点で行ってきた自ら動き回って、ビジネスを活性化するというフレキシブルさが失われつつある。20年前は、当社の社長だった古川(享・現米マイクロソフト副社長)自身が店頭に立ってお客様に製品をアピールした。今はメーカー自ら、汗をかいて市場を活性化するという努力が欠けているのではないか。中小企業の経営者は、ITだけにとどまらない経営コンサルタントを求めている」と指摘する。
確かに、IT業界が成長産業から成熟産業になったことで、「パソコン産業の黎明期にあった熱気がない」と指摘されれば、その通りとしかいえない部分はある。
市場活性化のために、メーカー、販売店ともに汗をかいて市場を盛り上げていく努力――。それが求められているということを、いま一度、思い起こさせるパネルディスカッションだった。
「低価格化で市場拡大ができるのか」、「いや、われわれが何もしなければ、直販メーカーがシェアを伸ばすだけ。対抗策を打つべきだ」。社団法人日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)の新春特別セミナーで、NEC、富士通、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、マイクロソフトの大手ITベンダー5社の幹部が顔を揃え、「e-ソサエティを支える決め手はこれだ」をテーマにパネルディスカッションを行った。通常、こうした場では本音を隠した発言が目立つのに対し、低価格化、販売店施策、中小企業市場開拓といったテーマで、メーカーの思わぬ本音が垣間見える内容となった。(三浦優子●取材/文)
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