一般消費者からの問い合わせやクレーム処理などを行うコールセンター。かつては電話による対応が大半を占めていたが、CTI(コンピュータと電話/FAXの統合)技術の発達によって情報をデータベース化し、CRM(顧客情報管理)戦略として活用するケースが増えている。そうしたコールセンターにおける「顧客コミュニケーションプラットフォーム」としてビッツテージ(丸山勇人社長)が提供するパッケージが「inspirX(インスピーリ)」。同社は2005年7月、オープンソースを使ったこれまでのプラットフォームを強化するため、IBMのデータベース「DB2」とウェブアプリケーションサーバー「WebSphere」を採用して同製品を強化した。その効果は、新たな顧客獲得となって早くも現れてきている。
コールセンター向けソフトでIBM採用
アライアンスで販路拡大へ パフォーマンス増大に有効

ビッツテージは、コールセンター向けコンサルティング・アウトソーシングを手がけるバーチャレクスのIT戦略子会社として00年3月に設立。「通常、コールセンターはテレマーケティング会社、ITベンダーなど数社が関係して立ち上げるが、それらをワンストップで提供できるのが当社グループの強み」(齋藤誉・セールス&マーケティンググループジェネラルマネージャー)という。
そうした実際のコールセンター運営経験から生まれたのが「インスピーリ」だ。設立当初は市販ソフトでの対応も検討したが、満足できるものがなく、自社開発にこだわって製品化した。それだけに「かゆいところに手が届くソリューション」(齋藤マネージャー)と自信を見せる。個別の顧客向けに提供していたが、評価が高いことから02年秋にパッケージソフトとして販売を開始。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや日興コーディアル証券などは代表的なユーザーである。
「インスピーリ」は電話やメール、FAXなどマルチチャネル化している現代の煩雑なコミュニケーションを一元管理するのが基本コンセプト。カスタマイズを想定してアプリケーションプラットフォームはJavaベースで開発し、再利用性や他のプラットフォームとの連携性を高めているのが特徴だ。
「インスピーリ」はこれまで、製品コストを削減するためにオープンソースのミドルウェアを採用していた。だが主要ターゲットとするミッドレンジ規模(50席前後)のコールセンターに拡販していくには不安があった。
最適なソリューションはないかと探していた矢先、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)から「DB2」や「WebSphere」を活用したソリューションの提案を受けた。「DB2もWebSphereも非常にリーズナブルになってきた」と判断し、早速検討を開始。社内のエンジニアに両ミドルウェアのマイグレーションを検証させたところ、1か月間で稼働までの検証ができた。その迅速性や有効性などを評価して、05年11月から日本IBMとの本格的な協業を開始した。
「DB2」と「WebSphere」を採用したことで、オープンソースを使った従来のソリューションの2倍のパフォーマンスを生んだ。コールセンターにおけるパフォーマンスの重要性は、問い合わせへの対応やクレーム処理が迅速化して消費者への信頼を向上させ、運用コストを削減し、業務を効率化することを考えれば論を待たない。協業により、その年に新規顧客を獲得できた。

同社は今期(06年12月期)、80社3000ライセンスを販売し、前年比170%の売上高を見込んでいる。このうち40%近くを日本IBMとの協業で達成する計画だ。「新しいプラットフォームであり、販路が増える。とくに日本IBMユーザーへの説得力は大きい。中堅中小のコールセンター市場に向けては日本IBMのゼネラル・ビジネス事業との協業が期待できる」とみる。
これまで同社のパートナーは、電話交換機などハードウェアを扱うベンダーが中心だった。だが、日本IBMとの協業によって、ソフトウェア面でパートナー事業が実現した。すでに両社は共同セミナーも始めた。「もともとオープンソース路線で取り組んできたので、DB2の無償版『Express C』を利用して、ミッドレンジより小規模のユーザーにも展開したい」と、さらなる波及効果を期待している。
【ユーザー事例】ネットプライス高性能、変更の柔軟さで採用
インターネット通信販売を事業の柱に、オークションサービスなどを手がけるネットプライス(佐藤輝英社長)は、携帯電話を使うモバイルコマース「ちびギャザ」とパソコンを使うウェブコマース「ネットプライス」に大別され、扱う商品が生活雑貨、ブランド、サプリメントなど週700-800アイテムにおよぶ。これに対してコールセンターではウェブサーバーとデータベース用サーバーを各1台導入し、30席体制で対応していたが、「売上増に比例して顧客からの問い合わせが急増し、システムがトラフィック量に耐えられなくなってきた」(佐竹秀文・カスタマーリレーションディビジョンCS担当ディレクター)と、新たなソリューションの導入に迫られていた。
同社はサイバーエージェントの関連会社として99年1月に設立。トラフィック増を受け、「データウェアハウス&CRM EXPO」をはじめ、展示会などでコールセンター向けソリューションを調査。多くの中からビッツテージ「inspirX(インスピーリ)」の導入を決めた。決定した理由について佐竹ディレクターは「カスタマイズが柔軟であり、パフォーマンステストの結果も満足のいくものだった。また、すでに基幹システムにIBMのDB2を導入しているため、インスピーリとのデータベース連携もスムーズにいくと予想された」という。
実は、基幹システムと有効な連携を図るため「インスピーリ」を約30%、カスタマイズしている。顧客からの問い合わせの7-8割はメールとなり、よりスムーズな処理をするためのカスタマイズが必要であった。不要メールの一括削除機能や期間限定・個数限定のギャザリング販売方式に対応できるメール振り分け機能などを柔軟なカスタマイズで簡単に対応できる「インスピーリ」を評価した。
「インスピーリ」は今年4月中旬から稼働を開始。導入効果を語るには少し時間が必要だが、同社では、人的リソース対応と業務改善などで大きな効果が得られると期待している。
例えば、人的リソースでは「売り上げが2倍になったとしても、比例した追加人員をコールセンターに投入せずに必要最低限の人員体制で対応できる」と見込む。同社の売上高は、05年度(05年9月期)が前年比140%増の約100億円と、毎年右肩上がりで推移しているだけに、人員増をしなくて済むのは、利益獲得のうえで大きな効果といえる。
業務改善面では、旧システムでできなかった過去の購買履歴と新着履歴の同時閲覧が可能になる。「このためより多くの顧客へ迅速な回答ができ、顧客に今まで以上の安心と信頼を感じてもらい、今後もネットプライスでのショッピングを楽しんでもらうことができる。また同時に、対応コストも削減できる」。同社のコールセンターが、CRM(顧客情報管理)の重要拠点となる日は近そうだ。