日本オラクル(新宅正明社長)は大型案件などに際して、パートナー同士が連携してシステム構築や事前検証に当たれる横断的なチャネル体制を築く。データベース(DB)やミドルウェアの新版、買収で取得した新アプリケーションなど、オラクル製品の数は急速に増え、SIerが単独ですべての技術や導入ノウハウを習得するのは困難になっている。そこで、ミドルウェアでは、SOA(サービス指向アーキテクチャ)などのテーマ別にパートナーの「コンソーシアム」を設立。アプリケーションでも、業種や業務別にパートナーを組織して、技術トレーニングを強化するほか、共同で事前検証体制の構築や案件発掘計画の立案などを行う。11月までに具体的な計画をまとめる予定だ。
SIerが共同で構築や検証を分担
テーマ別に「コンソーシアム」設立

日本オラクルは、今年度(2007年5月期)の売上高を前年比10.3%増の1010億円と予想。営業利益、経常利益とも10%以上の成長を目指す。また、3年後には、業務アプリケーション分野でSAPジャパンを抜き国内トップシェアの獲得を明言している(本紙7月10日号で既報)。反面、「ビジネス規模は、これまでに比べ急速に大きくなる。そのため、パートナーが枯渇する可能性がある」(三露正樹・常務執行役員アプリケーション事業統括アライアンス統括本部長)と、チャネル戦略の再構築を急ぐ。
計画によると、DBやミドルウェアでは、再販権を持たない「メンバーパートナー」を対象に、SOAやセキュリティ、BI(ビジネス・インテリジェンス)などのテーマ別に複数の「コンソーシアム」を組織する。この「コンソーシアム」メンバーに対し、改めて最新の技術や導入ノウハウなどを伝授するほか、「コンソーシアム」内で事前検証できる要員を養成する。
同社の「Fusion Middleware」は、企業

システムのニーズに応じて、BIやデータ統合、サービスバス、プロセス統合など、取扱製品が急速に増加している。「パートナー1社で、すべてを取り扱うのは無理。パートナーは得意分野の製品に特化し始めている」(前田浩・常務執行役員システム事業統括アライアンスビジネス統括本部長)という。しかし、大型案件は、多くのミドルウェアを利用したシステム構築になるケースが多いため、「こうした案件に対し、複数のパートナーでテーマ別に迅速に対応できるようにする必要がある」(同)と、「コンソーシアム」を組織化することにした。
「メンバーパートナー」の多くは、オラクル製品のうち自社の必要な製品に関する技術ノウハウをもつ。ただ、全製品を熟知していないことから、大型案件の発掘に苦労している。また、高い技術力をもつ小規模SIerは、財務力などを理由に与信で弾かれ、大型案件に加われないケースがある。こうした場合に「日本オラクルが組織した『コンソーシアム』ならば、サポート体制も万全で案件を獲得しやすくなる」(前田常務執行役員)というわけだ。
一方、業務アプリケーションではまず、業種や業務別に既存パートナーを組織化する。業種や業務別に必要な人材の養成計画や市場性に応じた攻略方法など「ビジネスプラン」を同社とパートナーが共同で立案する体制を築く。
こうした施策は、クロスライセンス契約を結んでいる旧日本ピープルソフトと旧日本シーベルの日本オラクルインフォメーションシステムズ(OIS、米オラクル子会社)のほか、ミドルウェアのパートナーとも共同で進める。
昨年11月には、物流管理製品をもつ米ジーログを買収。「IT化が遅れている物流業界向けに、パートナーを組織して、オラクル製品と連携したシステムを提案していく」(三露常務執行役員)などを計画している。これまでは「案件単位でパートナーへ割り振っていた」(同)が、業種や業務別のパートナー組織体で活動することを増やす。
特定分野に強みもつ企業と提携 日本オラクルには、相次ぎ買収したJDエドワーズ、ピープルソフト、シーベル、オラクル製品の「Oracle E─Business Suite(EBS)」の4製品がある。従来は、本社のERP(統合基幹業務システム)としてEBSを導入した大企業の場合、海外拠点はオラクル以外の他社製品でつなぐケースが目立った。だが、今後は、海外拠点についてもJDエドワーズなどで結合させることが可能になる。
現在、既存パートナー数は、EBSが約100社、JDエドワーズとピープルソフトが各25社程度、シーベルが10社余り。三露常務執行役員は「目標とする事業規模を考慮すると、最低でもパートナー数を倍増する必要がある」という。だが、「単純に倍増するのではなく、業種や業務を軸に特化技術をもつSIerやISVなどのパートナーを募る」という。
同社の業務アプリケーションは、昨年度の売上高が前年比25.9%増の32億9400万円。今年度は36.6%増の45億円を予想している。これにOISの売上高を合算すると、前年比66%の高い伸びになる計画だ。
調査会社「IDC Japan」によると、2年以内にERM(エンタープライズ・リソース・マネジメント)やCRM(顧客情報管理)を導入する計画のある従業員5000人以上の国内大企業は、10%に満たない。大企業向けの業務アプリケーション市場は飽和状態で、需要が潤沢とはいえない。
少ない大型案件を確実に獲得する上では、企業システムをSOA化してデータ統合するなど、複雑なインテグレーションノウハウが必要になる。
特化分野に高度な技術力をもつSIerやISVを横断的に束ねる今回の日本オラクルのパートナー再構築は、企業システムが進化する上で、プラットフォームベンダーが当然取り組むべき戦術といえる。