その他
富士通の赤字プロジェクト撲滅戦略 民需では「フェーズ別契約」進む
2006/09/25 21:10
週刊BCN 2006年09月25日vol.1155掲載
富士通の「SIアシュアランス本部」は、黒川博昭社長の肝いりで設置された。同本部は、PM(プロジェクトマネジメント)経験のあるベテラン担当者54人(専任は40人)の組織。本部内には、商談の発生時から見積りの妥当性やリスク抽出をする「商談・プロジェクト監査室」、プロジェクトの遂行に関する統一的なガイドを実施したり、プロジェクトの計画書や工程設計書の作成を支援する「プロジェクトガイド室」、プロジェクトの契約条件を個別に精査し、状況に応じ契約の諾否を判断する「契約・制度審査室」の3部門を設けている。これに加え、今年6月には、より実践的なPM教育や人材育成を行う「PMプロフェッショナル室」を新設した。
経営判断で赤字商談の受託も
■「一括契約」を見直す
同本部では、3部門での活動に加え、プロジェクト計画書の作成ガイドラインやテンプレート集、ユーザー企業や協力会社との役割分担方法、スケジュール立案に必要なガイド集や書式などのフォーマットを整備してきた。ただ、「フォーマットを『埋めればいい』という安易な考えをもつ作成者が出る心配がある」(梅村良・常務理事SIアシュアランス本部本部長)と、無条件にフォーマットを使うことは強制していない。
企業などの規模や業種、システム内容によって、契約方法や要件定義、仕様書の作成方法、スケジュール管理などは異なり、“杓子定規”に対応すると、プロジェクト自体が破綻する可能性があるためだ。梅村本部長は特に、契約書を交わす段階を問題視する。「簡単な内示書だけを交わし、契約内容や予算が青天井になっているケースなど、受注段階ですでに赤字になっている場合がある」ためだ。そのため「受託条件明細書」を交わし、ユーザー企業などとの役割分担を明確にしている。
最近では、要件定義や設計・開発、ユーザー企業が担う運用などを別に委任する「フェーズ別契約」を推進し始めている。曖昧なまま「一括契約」で受注することで、想定外の手戻りや再開発が発生した場合、案件によっては無償で引き受けざるを得なくなることを防ぐためだ。「フェーズ別契約」を徹底することで、変更案件が発生した場合、追加契約をすることができる。この契約方法は、民需案件で浸透してきたという。しかし、官公庁や自治体、社会インフラ案件では、競争入札を経て「一括契約」する仕組みが壁となり、実施できていない。
■横展開の可否で判断
一方で、新規分野にチャレンジする「戦略案件」と呼ぶ制度も設けた。昨年度からは、赤字プロジェクトに陥ることを承知で契約する特別損失予算「アシュアランス勘定」をあらかじめ設け、戦略的に請け負うべき案件の獲得を目指す。対象は、大規模案件で深耕ができ、事例をソリューション化して横展開できる案件で、2-3年以内に利益拡大が具体的に見込めることが条件になる。同本部が内容を審査し、社長ら役員が参加する「経営会議」で許される損失額を決定する。「アシュアランス勘定」の損失額は、昨年度が金融1件、自治体2件の約20億円、今年度は流通業や官公庁案件で適用している。例えば、ある自治体向けに構築したアプリケーションを、その県内の複数市町村が共通利用することが見込める場合などが、それに当たると見られる。
2-3年前から大手SIベンダーや中堅SIerなどで、「赤字プロジェクト」が多発した。これを機に、各ベンダーは損益管理を徹底し始めた。顧客側とベンダー側の双方が示す仕様書の食い違いや、詳細設計のミスや不明確さ、役割分担の不備──などを見直す機運が生まれ、赤字が大幅に減った。しかし、案件獲得に至る“現場”では、富士通に限らず、さまざまな問題がいまだに内在しているといわれる。
受注段階ですでに赤字であったり、プロジェクト発足時に見切りスタートして迷走したり、PMが多忙でプロジェクト進捗のチェックが甘くなるなどの要因が、富士通に限らず大手SIベンダーを中心にあるようだ。富士通に関しては、全国にSE子会社を抱え、事業所も網羅しているため、他社が手に負えない案件を頼まれるケースが多く、「毒饅頭を食べさせられることがある」(梅村本部長)という。こうした場合は、「いきなり食らいつかずに、皮から毒味」(PM研修会の資料)するよう比喩を交え提言している。大型システム案件の「品質管理」を徹底する動きは、まだ緒についたばかりだ。「現場力」を高める富士通の動きは、他のベンダーの参考になるとともに、実行すべき課題でもあろう。(谷畑良胤)
富士通の「SIアシュアランス本部」は、黒川博昭社長の肝いりで設置された。同本部は、PM(プロジェクトマネジメント)経験のあるベテラン担当者54人(専任は40人)の組織。本部内には、商談の発生時から見積りの妥当性やリスク抽出をする「商談・プロジェクト監査室」、プロジェクトの遂行に関する統一的なガイドを実施したり、プロジェクトの計画書や工程設計書の作成を支援する「プロジェクトガイド室」、プロジェクトの契約条件を個別に精査し、状況に応じ契約の諾否を判断する「契約・制度審査室」の3部門を設けている。これに加え、今年6月には、より実践的なPM教育や人材育成を行う「PMプロフェッショナル室」を新設した。
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