日立情報システムズが今中間期の営業利益が当初予想より15億円減少すると発表した。不採算プロジェクトが多発し、価格折衝が不調に終わったためという。踏み込んで話を聞くと、不採算プロジェクトの損失は20億円だったことが明らかになった。プロジェクト・マネジャーの有資格者は272人で、同社のシステム品質向上への取り組みは業界トップクラスにある。にもかかわらず20億円もの損失が発生した。その背景に何があったのか。
民需と公共で合計10件が赤字に
早期のリスク把握 機能せず

発表によると、今中間期決算の売上高は前年同期比0.5%増の860億円で変更はないが、営業利益は当初予想より15億円減の32億円(前年同期比26.9%減)、純利益は8億6000万円減の17億8000万円(同17.4%減)となる見込みという。具体的には、
(1)プライム受注した民需系大型プロジェクトに大幅な仕様変更が発生し、手戻りと追加作業によって原価が増加した。これによる営業利益は14億円のマイナス。
(2)地方公共団体の合併に伴うシステム統合プロジェクトで不都合が発生し、その修正と安定的な運用、品質保証に伴う追加作業が原価増となった。これにより同6億円のマイナス。
(3)これに対し中堅・中小向けシステム案件の受注好調により同3億円のプラス。
(4)緊急コスト削減策によって2億円の利益上乗せ。
差し引きして営業利益は15億円の減額となる──という。また「今中間期で損失処理を行い、下期に影響を残さないため、通期予想でも営業利益の減少が15億円を上回ることはない」(原巌社長)としている。
まず14億円の損失を計上した民需系大型プロジェクトは計3件。うち2件は親会社の日立製作所経由で受注したもので、原価増にかかわる価格折衝が不調に終わったことから、今中間期に損失計上する。原社長の説明によると「2件は今年度中に収束するが、1件は2008年までかかる」という。損失14億円のうち5億円は引き当てで、残り9億円は棚卸し資産の評価減で処理する計画だ。
また6億円の損失が確定した地方公共団体システム統合(オープン化対応)は7件で、すでにカスタマイズ修正を完了し安定稼働に入っている。損失6億円は今中間期の欠損で処理することになる。「市町村合併に伴うシステム統合、リプレース案件を80団体から受注、うち今春に44自治体で一斉稼働に入った。税制の改正に対応し切れなかったのが原因」(原社長)という。
併せて原社長は今後の事業方針として、Web2.0への対応やソフトウェア・サービス事業の強化、ネットワークサービスを軸とする海外事業の積極展開、コンサルティング事業への進出を示し、「向こう5年以内に売上高3000億円、業界トップ10入りを目指す」と明言した。堀越彌・前社長は「最初の3年は緩やかな上昇カーブ、残りの2年で一気に」という急成長路線を示していたが、原氏は「スタートダッシュが肝要」と路線を修正する考えを明らかにした。
今中間期で損失を処理することに加え、「大型案件に適合したプロジェクトマネジメントの強化」を今年度中に完了、併せてチャレンジング事業を継続・拡大する。10月25日に予定している中間決算説明会で公表するはずだった新5か年事業計画の一部を前倒しで発表したことからは、事業の拡大が順調に続くことを証券アナリストに印象づけるねらいが読み取れる。だが実態はどうか。
同社は272人のプロジェクト・マネジャー有資格者を擁し、PMO(プロジェクト管理オフィス)、品質保証部門の設置などで早期のリスク把握を徹底していたはずだった。ところが「結果として管理機能が十分に作動していなかった」と認めざるを得ない事態に陥った。06年度売上高予想1770億円から3000億円、業界トップ10入りという掛け声は勇ましいが、「プロジェクト管理品質の劣化が顕在化したとすれば、致命的な原因が内在しているのではないか」という声も聞こえてくる。
他山の石の教訓生かせず
背景に規模拡大のあせり
日立情報システムズの売上高は2001年3月期1102億円から2006年3月期1690億円と1.5倍に急増したが、原巌社長は「その主な要因はM&Aにあって真水の増加分は業界平均水準」と分析する。「M&A」とは、01年の日立情報ネットワーク(HiNET)、04年の日立ネットビジネスとの合併を指すが、親会社依存度4割という企業体質の改善を急いだことが背景にあるようだ。
また「市町村合併を機に一気のシェア拡大をねらった結果、手を広げすぎた」という関係者もいる。マイクロソフトと提携して開発したサーバー統合型自治体向けパッケージ「e─ADWORD」をベースに、02年12月に市町村合併プロジェクト推進本部を発足させて受注拡大を図ってきた。「予想以上の80自治体から受注した結果、ベテランSEの手が回らなかった」とは、プロジェクト管理品質の劣化ばかりでなく、外注戦略の失敗も意味している。合併に伴う他社システムからのリプレースに際して、データ構造が開示されない事情を考慮すると、やはり「身の丈」の問題に帰結する。
大型案件のプライム受注の失敗は、04年度からITサービス業界で多発、なかには「SI契約から撤退し派遣契約に切り替える」と言い出す大手企業もある。また市町村合併に伴うシステム統合、ダウンサイジング案件でも損失計上が相次ぎ、日立ソフトウェアエンジニアリングの関連会社であるアイネスが赤字に転落したのは周知の事実。
“他山の石”の教訓が生かされなかったのは、日立情報システムズの損失だけにとどまらない。
【記者の眼】 緊急会見を知らせるメールが飛び込んできたのは9月20日午後1時過ぎ。当日の午後5時半から東京・大崎の本社で証券・金融アナリスト向けの社長会見を行うという。
会見は原社長自身がディスプレイにパワーポイントの資料を示しながら行われ、質疑応答にも原社長が中心となって対応した。この6月に堀越彌氏からバトンを受けて社長に就任したばかりだが、強気と沈着冷静を織り交ぜた手腕が期待された。その3か月後の会見が業績の下方修正だった。努めて冷静を装っていたが、さぞ口惜しかっただろうと推測する。