介護・福祉事業者向け業務ソフト開発のワイズマン(盛岡市、南舘伸和社長)は、クラウドコンピューティング型データセンター(DC)サービスを活用して、大幅なコスト削減を進める。サービス開始から5年間で従来比2割程度のコスト削減を目指す。同DCサービスはSIerの新日鉄ソリューションズ(NSSOL)が開発した「absonne(アブソンヌ)」で、サーバーやネットワーク機器などハードウェア一式をNSSOLが購入。ワイズマンはハードへの投資や所有リスクを軽減できる。NSSOLは、ハードウェア部分を将来的に他のユーザーと共有するモデルを構築し、より一層の効率化を図る。(安藤章司●取材/文)
ハード購入不要で投資リスクも軽減
ユーザー増加でコスト膨張の恐れ
ワイズマンは、介護・福祉事業者向け業務ソフトでトップクラスのシェアを誇る有力ソフト開発ベンダーである。介護・福祉の事業所は全国に約10万あり、うち約2割のシェアを握る。しかし、個々の事業所の規模は平均して小さく、情報システムをエンドユーザー自身で管理・運用するのは荷が重い。そこで打ち出したのがASP(アプリケーションの期間貸し)化だ。自前でサーバーなどの機器を用意しなくても、ネットワーク経由で業務システムを利用できるため、運用管理の手間が省ける。ワイズマンでは2005年からASPサービスを本格的にスタート。これまでおよそ3000ユーザーをASPに移行させてきた。
ところが、ここで大きな課題に突き当たることになった。ASPユーザーが増えるのはいいが、サービスを提供するための情報システム投資が予想以上に膨らみ始める危険性が出てきた。同社は05年当初の第一次ASPサービスから段階的にシステムを増設し、現在では第三次まで拡張。ユーザーが増えるごとに、サーバーやネットワーク機器などを買い増するものの、「大口で機材を調達できるわけではないため、どうしても割高になる」(ワイズマンの佐山国央・ASP事業統括部運用管理課長)というように、メーカーへの価格交渉力で限界があった。ハード購入は先行投資であり、その分リスクも増える。
○所有から利用へ“渡りに船” そこへ飛び込んできたのが、新日鉄ソリューションズ(NSSOL)からの「ハードウェアを購入しなくても大丈夫」という提案だった。NSSOLのデータセンター(DC)とは、第一次ASPサービスのときからのつき合いがある。ワイズマンのASPサービス用の機材は、NSSOLのDCにホスティングしてきた。こうした機材類は基本的にワイズマンの所有物で、DCの場所を借りているにすぎない。NSSOLの提案内容は、DCの場所のほか、サーバーやネットワーク機器も利用できる“クラウド型DCサービス”でコストを削減するというもの。利用開始から5年間で2割程度のコスト削減が可能で、「まさに渡りに船」(佐山課長)。ニーズにぴたりと合致したのだ。

NSSOLが提案したクラウド型DCサービスの「absonne」は、NSSOLが自身の費用で独自にハードウェアを調達し、コンピュータのリソースのみを貸し出すものだ。従来の「ユーザーによる所有型から、利用型へ」(NSSOLの大城卓・業務役員ITエンジニアリング事業部長)と、大きく踏み出した。ワイズマンによれば、通信が途切れても、瞬時に別の通信回線に切り替える最新のネットワーク機器によって、「サービスレベルは従来のホスティングよりも向上している」(佐山課長)と、条件に不満はない様子。こうしたネットワーク機器は1台あたり1000万円を超えるものもあり、自社でおいそれとは購入できないが、NSSOLはある程度の台数を揃えることで1台あたりのコストを抑えている模様だ。
“規模の経済”が成功へのカギ
ワイズマンとNSSOLは、アプリケーションの反応速度や障害発生時の対応などのサービス水準をあらかじめ取り決め、NSSOLはこれに基づいてサービスを提供する。さらに、NSSOLはSIerとして長年培ってきた知見を生かし、「最もコストを抑えられるシステム構成や運用方法を考案する」(鎗水徹・営業企画部戦略ソリューション企画営業グループシニア・マネジャー)余地が広がる。つまり、ユーザーとの間で取り決めた所定のサービスレベルさえ堅持すれば、ハード調達時のボリュームディスカウントや運用の自動化など、創意工夫によってコストを削ることができる。
ただし、現時点のabsonneは、まだコストを大幅に削減できる水準までには拡大しきれていない。クラウドは、システムの規模が大きければ大きいほど経済的なメリットを得やすい。強固な収益体制の確立に向け、absonneユーザーをさらに増やしていく必要がある。折しも、不況に直面し、速やかにITコストを削減をしたいユーザーからの「引き合いは非常に多い」(NSSOLの大城業務役員)と、追い風が吹く。
一方、ワイズマンは、absonneを活用した第四次ASPサービスを、今年度第3四半期(09年10-12月期)をめどにスタートさせる。absonneによって、ASPサービスにかかるコスト膨張の抑制にめどをつけた同社は、ASPサービスのユーザー数を2010年3月期までに現在の約3000件から4000件へ増やす計画を立てている。本業である介護・福祉事業者向け業務ソフトの開発に専念できるプラス効果も大きい。ユーザーの利便性を高め、「より使いやすいシステムへブラッシュアップする」(ワイズマンの南舘伸和社長)ことで、シェア拡大を推し進める。同社の佐山課長は、「さらに踏み込んで、OSやミドルウェアなど共通基盤的なソフトウェアもクラウド化してほしい」と、NSSOLに注文をつける。基盤ソフト部分のクラウド化も、将来に向けたクラウドサービスの発展の方向性の一つとして期待が高まる。
事例のポイント
・ハードウェア購入は先行投資であり、その分リスクも増える
・餅は餅屋。ITインフラのコスト削減はSIerに汗をかかせよう
・ユーザーはコアコンピタンスに専念。本業のビジネスを伸ばせ