8年ぶりにトップが交代する野村総合研究所(NRI、藤沼彰久会長兼社長)は、2015年までに連結売上高ベースで平均年7%の成長を狙う収益基盤づくりを本格化させる。営業利益率は平均15%を目指す。4月1日付で新社長に就任する嶋本正専務が明らかにした。NRIの弱点とされる産業分野と、成長が期待できる中国市場を重点的に伸ばすことなどで目標を達成する構えだ。
売り上げ7%成長、基盤つくる
SI業界トップ集団の“優等生”と評されてきたNRIだが、経済危機による証券業の不振で、業績に停滞感が漂う。直近の売り上げ構成比をみると、約7割が証券を中心とする金融系が占めるだけに深刻だ。来年度(2011年3月期)以降は、証券などの金融系に明るさがみえていることから、このまま業績が停滞し続けるとは考えにくい。だが、嶋本次期社長が掲げる連結売上高“7%成長”にはほど遠い状況。そこで打ち出すのが、一般産業やグローバルでのビジネス展開の加速である。
NRIの強みである顧客企業のビジネス戦略をナビゲーションする“コンサルティング”と“ITソリューション”との連携を強化することで、これまで十分に開拓できていなかった産業分野のIT需要の取り込みを本格化。コンサルティングはNRIの強みの一つであり、製造や医療、公共などの非金融分野で大手優良顧客を多数抱える。経済危機で落ち込んだ非金融系の戦略コンサルティング事業も、今年度(10年3月期)上期を底に回復基調にある。同社はコンサルティングで関係を深めた顧客のIT投資を着実に受注することで、ビジネス領域を拡大させる。
例えば、3000万円の大型コンサルティング案件を受注したとしても、その後の「数十億円、100億円超えのSI・アウトソーシング案件に結びつけられるかどうかを重視する」(嶋本次期社長)。業界トップの有力顧客には、役員クラスの人材を張り付け、コンサルティングとSI・アウトソーシングを一体として提案する体制を4月1日以降、より強めていく。嶋本次期社長は、「産金交代させる」(=産業と金融の比率を変える)と“参勤交代”にかけた分かりやすいメッセージを社内で使うなど、構造改革に取り組む。2015年には金融と非金融の比率は今の約7対3から、6対4程度に改善する方針だ。
また、中国などへのグローバル展開も重視する。4月からの組織改編ではアジアシステム事業本部を拡充。直近の売り上げに占める海外比率は数%にとどまるが、中国に進出する日系企業や地元有力企業からの受注を拡大することで、早い段階に「売り上げ構成比で2ケタ台にもっていきたい」(同)と意欲を示す。ライバルのNTTデータは、海外のSIerのM&Aや合弁を積極的に進めており、NRIも現地法人の人員増やビジネスパートナーとの関係強化などを通じて、事業拡大を進める。
金融や流通など強みをもつ業界では、ITソリューションの部門そのものに業務ノウハウが蓄積されているため、コンサルの比重はそれほど大きくなくても済む。だが、SI実績がまだ少ない産業分野や海外市場では、コンサル部門との連携が欠かせない。中国では、コンサルをメインとするNRI上海のビジネスが先行し、SIが主軸の「NRI北京が少し遅れて後を追う」(藤沼会長兼社長)構図だといい、海外でも両事業のより密な連携が課題になっている。産業分野の開拓とグローバル事業の伸展などによって、売り上げ年7%成長、営業利益率15%の収益基盤を2015年までにつくる高い目標を掲げるNRI。再び高成長、高収益の体制に戻せるかどうか──。“嶋本新政権”の手腕に期待が高まる。
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産業分野で“中核顧客”獲得へ
野村総合研究所(NRI)は、今般の経済危機で「証券など金融系のIT需要に依存することの不安定さを改めて感じた」(嶋本正専務=次期社長)と話す。金融依存は、同社のアキレス腱であり、ここがダメージを受けると業績にダイレクトに響く。
NRIは、ターゲットとする業界で中核となる顧客と組み、その業界全体で共通して使えるITプラットフォームを構築。共通部分は複数の有力客でシェアすることで、顧客あたりのITコストを下げ、いわゆる“NRIモデル”と呼ばれる高収益の仕組みを築いてきた。証券では野村證券であり、流通サービスではセブン&アイ・ホールディングスなどが中核顧客に該当する。
しかし、非金融・流通分野では、中核となる顧客が絶対的に不足している。これを打開するため、例えば、産業系の顧客向けのアカウント営業を強化したり、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)や情報セキュリティ、医療・ヘルスケアなどの分野を重視するなど、成長の柱を複数打ち立てる。海外展開もそのうちの一つだ。
2015年には、BPOで200億円、セキュリティで200億円、医療・ヘルスケアで200億円、海外では売上高比率で2ケタの目標を掲げるなど、まとまった売り上げ規模に育てる。人員リソースの側面でみると、同社はおよそ年5%増の採用・増員を続けていることから、売り上げはこれを上回る同7%成長を目指す。
連結売上高を8年間で約1000億円伸ばすなどの敏腕ぶりを発揮した藤沼彰久会長兼社長は、自身を“金融一本足打法”と揶揄。この弱点に危機感を示しながらも、金融系依存から完全に脱却するまでには至らなかった。今後、落ち込んだ証券などのIT投資が復活すると、再び金融への依存度が高まるリスクも潜む。依然として厳しい受注環境ではあるが、嶋本次期社長には、目先の売り上げにとらわれすぎない難しい舵取りが求められそうだ。(安藤章司)