セキュリティ各社が、大手企業へのソリューション展開において、攻勢を強めている。マカフィーは、ハイタッチ営業部隊を強化。トレンドマイクロは、今年4月から大手企業に対するアプローチをSIerとともに展開するパートナープログラムを立ち上げた。また、シマンテックは、今年、年商1000億~3000億円規模の企業を「Big Enterprise」として、産業別に編成することで営業を強化している。
単品売りからソリューション展開へ
 |
| 「パートナーとの間に築くエコシステムが重要」と語る河村浩明社長 |
従来、セキュリティメーカーでは、ディストリビュータを介した、シングルポイント製品のライセンス再販などが売り上げの多くを占めていた。しかし、各社の昨今の動きとしてシングルポイントをプロダクトアウト型に販売していくのではなく、顧客の課題解決を軸として、統合ソリューションとして販売する方向に進んでいる。
シマンテックの河村浩明社長は「従来のチャネルパートナーだけでなく、ソリューションを補完し、当社がもっているソフトウェアを他のソリューションと効果的に組み合わせてデリバリしてくれたり、コンサルティングしてくれたりするパートナーとのエコシステムが構築できるかどうかが重要だ」と話す。
同社は、ハイタッチ営業部隊をもってはいたものの、これまで「Big Enterprise」と位置づける1000億~3000億円の市場にほとんどアプローチできていなかったという。同社は、産業を金融、製造、通信、公共、流通・サービスの五つに区分して、人員増強を含めた営業体制の強化を行っている。河村社長は「例えばバックアップソフトをポイント制で販売していたら大型案件は出てこないし、顧客にとって重要なパートナーにはなれない。もっと大きな課題で捉えて、『御社のストレージ管理をぜひ当社とやりませんか』と提案する。まだ結果は出ていないが、見込みとしてはかなり大きな案件が続々と出てきている」と成果を披露する。現在、導入・設定などを担うパートナーは選定中で、各業種に向けて個別のイベントなどの開始に着手する段階だという。
一方、トレンドマイクロは、エンタープライズソリューションを拡販するための「認定ソリューションパートナープログラム」を今年4月にスタートさせた。顧客のシステムの設計、導入、構築を行う有力なSIer30社と組み、ミッション・クリティカルなシステムに同社のソリューションを導入していくための技術支援を展開する。
マカフィーは、エンタープライズの営業を強化。エンタープライズセールスにおいて、ハイタッチの人員を増強している。日本オラクルでパートナービジネスやエンタープライズ営業の責任者を務めた茂木正之氏が、エンタープライズのソリューションビジネスを統括する。パートナーとともに通信事業者、金融、官公庁などの開拓を進めていくとしている。
【関連記事】セキュリティメーカーの戦略転換
大企業、クラウドをターゲットに
シマンテックの河村浩明社長は、セキュリティツールの販売上の問題について、「ソリューションセリングができていない」と指摘する。シングルポイントの製品をメインに据えた、量を売るビジネスは限界を迎えているというのだ。さらには、DLP(Data Loss Prevention)などのように、単品を販売するビジネスモデルでは、ユーザー企業に導入することが難しい製品も増えている。
シマンテックは今年、パートナー施策を強化し、ストレージ、セキュリティといった同社の事業分野を、9つの専門スキルに分類・体系化し、それに伴う技術、販売面の支援を行うことで、パートナー自身の強みを組み合わせた形で、複雑化する顧客の課題を解決するためのソリューションとして提供していく戦略に切り替えた。
また、今年6月にクラウドサービス事業者や通信事業者に向けて専門営業部隊を新しく発足させた。プライベートクラウド、パブリッククラウド向けのソリューションを展開し、クラウドサービスプロバイダに製品導入を進める。SaaSでパートナーと組み、シマンテックが提供する製品に、パートナーが得意とする技術や課金のシステムなどを組み合わせたものをクラウドサービスプロバイダを通じてユーザーに提供していけるような仕組みも構築する予定だという。
クラウド・仮想化などが盛り上がりをみせ、プライベートクラウドを中心に採用が進んでおり、社内システムとクラウドのハイブリッド型のシステムなど、顧客のIT環境が複雑化している。そんななか、パートナーと組んで大企業のシステム構築における戦略立案から参加し、製品を組み込んでもらうという方向を各社が狙っている。今後、導入が増えるクラウドが大きなビジネスチャンスとなる状況下で、クラウドサービス事業者に対するアプローチもさらに積極的な動きを示しそうだ。(鍋島蓉子)