世界同時不況の影響で一気に冷え込んだパソコン市場は、2010年、急回復した。買い替えを控えていたユーザー企業・団体が、一気にリプレースに転じたのが要因だ。1500万台に到達する可能性もある。スマートフォンの台頭とシンクライアントの着実な浸透で、存在感が薄れていたパソコンは、見事なV字回復を果たした。この成長は持続するのか、一度撤退した国産メーカーも再登場した状況下における、メーカーのシェア争いは――。(文/木村剛士)
figure 1 「市場規模」を読む
V字回復果たしても先行きは暗い!?
経済全体が不況の影響をまともに食らった2009年、国内のパソコン出荷台数は08年比5.4%減で1343万台で、直近5年間で過去最悪の結果を出した。それが一転、2010年はV字回復を果たしそうだ。通年で09年に比べて12%積み増して1504万台に到達する見込み。データを提供してくれたIDC Japanによれば、「1500万台超えを実現したら、それは過去にない大規模な台数となる」。IT投資を控えざるを得なかったユーザー企業・団体が、今年に入って一気に買い替えたことで、メーカーは爆発的に出荷台数を伸ばした。09年秋に発売された「Windows 7」の存在も新たなパソコンを購入、移行させる要因となった。しかし、リプレース需要がけん引役になった点は、裏を読めば、今後に不安が残る。ユーザー企業・団体のパソコン買い替えサイクルは5年。その間に大きな買い替え需要はないはず。事実、IDC Japanでは11年以降の4年間、2010年を上回ることはないと予測している。
国内クライアントPCの出荷台数予測
figure 2 「売れ筋」を読む
ネットブックは終焉へ、前年比2割減
パソコンのタイプ別でみると、ノート型が全体の約70%を占めている。ノート型を細分化してみると、A4型・その他(ディスプレイがA4サイズ)が54.4%で、モバイルタイプ(ディスプレイがB5サイズ以下または本体重量が2キログラム以下)が12.9%と、A4サイズが主流であることがわかる。この傾向はここ数年同じで、2010年に大きな変動はなかった。ただ、特徴的だった点が一つある。モバイルタイプのなかで「ネットブック」と呼ばれる超小型モデルが前年に比べて大幅に落ち込んだことだ。日本電子技術産業協会(JEITA)のパソコン調査部門担当者は、「09年に比べて約20%は落ち込んだ」と説明している。エイサーなどの外資系メーカーがけん引役を担って急成長し、PC市場で主役を演じていたのはすでに過去の話。ネットブック市場が終焉を迎えた印象は強い。ネットブックは単価が低く、このモデルが落ち込んだことで、若干ではあるものの販売金額は伸びた。
タイプ別の販売台数比率(2010年4~10月)
figure 3 「勢力」を読む
国産勢強し、首位はNEC
市場が元気を取り戻しただけに、大半のパソコンメーカーが2009年を上回る実績を残している。勢力争いをみると、国産メーカーが上位を独占し、それを外資系メーカーが追う構図になっている。NEC、富士通、東芝が上位3位を占め、4位に日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、5位にデルがランクインしている。この5社で約70%のシェアを握る。デルはx86サーバーでも伸び悩んでおり、ハードの販売で最近精彩を欠いている。図には登場しないレノボ、エイサーの2社は、グローバルシェアでいえばトップ5に入る強豪だが、日本市場では存在感を示せていない。台数は前年を上回る結果が出ているが、NEC製パソコンを販売する、あるシステムインテグレータ(SIer)の社長は、「確かに今年、台数は伸びた。しかし、利益への貢献度はかなり低い。メーカーもかなり苦しいだろう」と漏らしている。シャープは今秋、パソコンの生産を09年時点ですでに打ち切り、PC事業から撤退していたことを発表した。「新コンセプトの戦略的モバイル機器『GALAPAGOS(ガラパゴス)』」にリソースを集中する」と表向きは話しているが、採算が取りにくいパソコンに見切りをつけたとも受け取れる。台数は伸びても、利益を捻出するのに苦労する状況。「利益なき繁忙」で、メーカーは消耗戦を続けなければならない可能性が高い。
国内クライアントPC出荷台数、上位5社のシェア
figure 4 「チャネル」を読む
ウェブ直販の台頭
企業・団体が利用するコンピュータのなかで、パソコンの流通経路は最も多様化している。図に示したのがその主な方法だ。サーバーやストレージ、ネットワーク機器などのハードウェアや、ミドルウェア、アプリケーションソフトと比較して、ユーザーはシステムインテグレータ(SIer)などのIT企業を経由せずに、自ら購入作業を行うケースが多い。サーバーやソフトと異なり、業務に利用可能にするまでのセットアップ作業など、IT企業に頼らなければならない部分がないからだ。そのため、家電量販店やメーカーの直販サイトでユーザー自らが購入するという方法が、サーバーやストレージと比較して高くなる。ある国産メーカーのPC担当者は、「販社のことを考えると、あまり大きな声では言えないが……」と前置きしたうえで、「直販サイト経由の販売は、毎年増えている。今では、全体の10%程度を占めるまで成長している」と話している。利益率の低いパソコン販売事業は、SIerにとってメリットが薄い商材。加えて、販社を頼らず購入しようとするユーザーの動き――。販売台数が伸びても、パソコンを販売するITベンダーのうま味はそれほどなく、市場の出荷台数ほど販売が伸びたという感触を得にくい流通構造がある。
パソコンの主な販売経路