米ヒューレット・パッカード(HP)は、10月下旬、日本とアジア太平洋(AsiaPacific&Japan=APJ)地域の報道関係者を招いたクラウド関連イベント「HP CLOUD & INNOVATION」を、シンガポールのコンベンションセンターで開いた。アジア各国から招いた記者は、総勢約100人。米HPのAPJ担当幹部も勢揃いした。「クラウドを伸ばす余地が、APJではとくに大きい」という考えを示すような内容で、新興国が多いアジア諸国でクラウドの主導権を握ろうという米HPの思惑が垣間見えた。(取材・文/木村剛士)
アジア各国から記者が参加
多くの外資系IT企業は、世界市場をいくつかの地域ごとに区分けし、その地域ごとに統括拠点を設置してグローバル展開する。米HPも例外ではない。アジア・パシフィック地域に属する国を一つのセグメントとし、シンガポールに統括拠点を設置する。今回の「HP CLOUD & INNOVATION」は、そのシンガポールの中心街にあるコンベンションセンターで開いた。報道関係者に限定したイベントで、日本のほか中国、韓国、タイ、ベトナム、インドなど、アジア諸国の記者を約100人集めた。
イベントのテーマはクラウド。早朝から夜まで1日のスケジュールで、米HPの幹部によるIT基盤を支えるハード・ソフトの特徴/オンプレミス型システムからクラウドに移行するためのコンサルティングサービスの強み/新たなファイナンシャルプログラムなどを披露した。ユーザーがクラウドに移行するときの課題、それを解決する技術やソリューションを「移行」や「運用」など、ライフサイクル別に説明。米HPのクラウドユーザー4社を招いたパネルディスカッションも開催した。
世界で販売する新製品もこのイベントで初めて発表。マイクロソフト製品向けの仮想化ツール「HP VirtualSystem for Microsoft」と、HPのUNIXサーバー「HP Integrityサーバー Superdome」のアプリケーションを仮想化環境へ移行させるための「HP Virtual System for Superdome2/HP-UX」などを披露し、クラウド環境の構築・運用に必須の仮想化ツールだとアピールした。また、米HPの製品・サービスのデモンストレーション・プレゼン施設「HP Cooltown Innovation Center」も公開し、HPがもつソリューション群の優位性を説明した。
新興国でのクラウド拡大を意識 米HPは、これまでもAPJ地域で特定の製品・サービスをアピールするイベントを開催してきたが、クラウドをテーマに各国の記者を集めたのは今回が初めて。その背景には、「アジアには、クラウド事業を拡大するチャンスが多い」(米HPでクラウド関連のマーケティングを手がけるSteve Dietchバイスプレジデント)という認識がある。

米HPでクラウド関連のマーケティングを手がける Steve Dietchバイスプレジデント
アジアには、現状のIT市場規模はまだ小さいものの、成長余地が大きい新興国が多くある。イベントでゲストスピーカーとして登壇した米国の調査会社フォレスターのアナリストは、アジアのIT市場動向を説明したプレゼンのなかで、2011年のIT投資額が多い国を予測した資料を示した。そのなかで、上位5か国にアジア・パシフィック地域の中国、韓国、インド、オーストラリアがランクされている。こうした状況を踏まえて、米HPは力を注ぐクラウド関連製品・サービスをアジア・パシフィック地域で一気に売り込もうとしているわけだ。

製品・サービスのデモとプレゼン施設「HP Cooltown Innovation Center」
「APJ」という呼び名はなくなる?
IT業界には、「AsiaPacific&Japan」を略して「APJ」と呼ぶ企業や人が多い。アジア・パシフィック地域のなかでは、日本は突出した成長国で、他国とは別に戦略を考える必要があり、世界で展開するIT企業は、日本法人を特別扱いしていた。それがAPJという言葉に反映されていた。しかし、それは過去の話になりつつある。日本は現在世界第3位のITマーケットであるものの、今後の成長率でみれば、中国やインド、オーストラリアに劣る。日本の成長率はほぼ横ばいという見解を多数の調査会社が示している。
今回のイベントは、APJ地域に限定した内容だけに、アジア・パシフィックを意識した米HP幹部のコメントが多かったが、特定の国に言及する場合、そこで名前が挙がるのは、インドと中国だった。日本にフォーカスした発言は皆無だったといっても過言ではない。APJという言葉は死語になり、「APC=AsiaPacific&China」や「API=AsiaPacific&India」という言葉に置き換わることもあり得るのではないだろうか。今回のイベントを通じて、記者はそう感じた。