愛知県豊川市に本社を置く精密切削工具大手のオーエスジー(石川則男社長)。海外展開を急ピッチで進めており、全売上高のおよそ半分を海外市場で稼いでいる。日本オラクルの統合基幹業務システム(ERP)「Oracle E-Business Suite R12」(EBS)を導入し、日本ユニシスとインフォシスが提供するクラウド型アプリケーション保守サービスを採用した。
オーエスジー
会社概要:1938年3月、大沢秀雄氏が大沢螺子研削所を創立し、タップ、ダイスの製造販売を開始。1963年6月、オーエスジーに社名を改称。精密切削工具などの製造販売を手がける。2011年11月期の連結売上高は809億590万円。
サービス提供会社:日本ユニシス、インフォシス
プロダクト名:クラウド型アプリケーション保守サービス
「Oracle EBS」環境をグローバルでサポート

園部幸司常務(右)と、竹下恵介IT推進センター長
「システムを無事に立ち上げることができたという意味では100点満点。しかし、本来目指すべき目標に到達したかどうかという意味では50点」。辛口の点数をつけるのは、「EBS」の導入プロジェクトを統括したオーエスジーの園部幸司・常務取締役管理間接部門担当だ。同社は、プロジェクト(PJ)が頓挫しかける事態に陥りながら、本格稼働にこぎ着けた。園部常務は、「ようやく、いかに『EBS』を活用するかを検討するスタートラインに立った」と意気込む。
システム刷新のそもそものきっかけは、1992年に販売子会社であるオーエスジー販売と合併したことだった。合併前は、受注処理のメインフレームと生産管理のメインフレームが並存していた。個々の製品の製造原価が把握できず、「非常に大ざっぱだった」と園部常務は振り返る。
業務改善の一環として、プロジェクトチームを結成したのは2006年半ば。それまでも試行錯誤を重ねていたが、メインフレームのリプレースのタイミングが決め手になった。だが、2008年に入り、プロジェクトチームが策定した計画、すなわち財務会計や販売管理、生産管理などに「EBS」を利用する計画をいったん凍結することになった。園部常務は、「ユーザー部門個々の意見にとらわれすぎて、本来目指すべきものが多少ぶれていた。追加投資がどれだけになるのか、本当に立ち上がるのか、経営陣が疑心暗鬼になってしまった。そこで、システムのあり方を改めて論議した」と経緯を語る。
その後、竹下恵介氏(IT推進センター長)がプロジェクトマネージャーとして、ユーザー部門と経営陣との調整のために現場をかけずり回ることになった。園部常務は、プロジェクトを成功に導いた竹下センター長を、「営業や製造といったIT部門以外との交渉力や熱意、強い信念をもっている人物」と評価する。竹下センター長は、最大でおよそ150~160人のメンバーとのコミュニケーションを図ってきた。加えて、社内の各部門の優秀な人材の協力を取りつけるために奔走した。だが、実際にはそう簡単に人材を融通してもらえなかったという。
経営陣の理解を得られにくい事情について、園部常務はこう説明する。「役員のほとんどは海外勤務の経験がある。海外の企業では、まずはシステムを立ち上げてみようという意識が強い。一方、“日本的なやり方”ではシステムの立ち上げに完璧を求める。こうしたギャップがあったので、日本ではなぜこれほど時間がかかるのかといぶかしがられた」。
苦心の末、2010年12月、同社はオラクルのサーバー仮想化ソフトウェア「Oracle VM」を利用し、日本ユニシスのIaaS「U-Cloud IaaS」上で、「EBS」の環境を構築した。本番システムを日本ユニシスのデータセンターに預け、追加開発やテスト用途の予備システムをクラウド上で活用している。インフォシスが、インドのグローバルサポートセンターから「EBS」の保守を行う体制を築いた。
オーエスジーは、プロジェクトの開始当初からクラウドの利用に着目していた。メインフレームを利用した基幹系の時代からホスティングを利用していただけに、抵抗感はなかった。「すべて自前でシステムを抱え込むのはかえって足かせになる。自分たちが得意な業務に専念するのがいいと判断した」と園部常務。
今後は、“日本的なやり方”にこだわらず、海外拠点のメンバーとの情報共有を通じて、グローバルな視点で経営に生かすシステムを展開していく構想をもっている。(信澤健太)
3つのpoint
・システムを抱え込まない
・経営陣とユーザー部門の擦り合わせ
・グローバルな視点でのシステム展開