バリオセキュア・ネットワークス(3月1日付でバリオセキュアに社名変更)やNTTデータイントラマートがそうであるように、グーグルなどに対抗して、クラウドサービスの接続基盤として国産の「PaaS」が増えてきた(
『週刊BCN』2012年11月12日号で既報)。オンプレミス(企業内)やクラウドサービスを問わず、一つの基盤で連携する日本国内での試みは、まさに旬を迎えている。その狭間で、「クラウドインテグレータ」を標榜し、その先頭を走るのはテラスカイだ。(取材・文/谷畑良胤)

セールスフォース・ドットコムの日本でのビジネスは、拡大の一途を続けている(写真は、同社のイベントで講演する日本法人の宇陀栄次社長) セールスフォース・ドットコム(SFDC)の元社員で、それ以前には日本IBMにも所属していたのがテラスカイ社長の佐藤秀哉だ。もともとサービス形態で企業システムを構築するビジネスに造詣が深かった。テラスカイは、2003年にSFDCのコンサルティング会社として設立され、現在の売上高の8割は、SFDCの基盤上で利用するサービスのシステムインテグレーション(SI)が占めている。
同社を独立系ソフトウェアベンダー(ISV)と呼ぶには、少し違和感がある。だが、「3年をめどに、プロダクトのサービスを半分にする」(佐藤)としており、クラウドと現システムをつなぐ「SkyOnDemand」やSalesforce.comの画面作成ツール「SkyVisualEditor」などの比率を上げるべく、事業領域を拡大中だ。創業時から、いやそれ以前からSalesforce.comのインテグレーションを知り尽くしていることもあり、同社の二つのプロダクトは、世界を見渡しても競合製品が見当たらない。絶対的な地位を確立しつつあって、事業上のリスクといえば「競合がいないこと」(同)くらいだ。
その佐藤が「最大のライバル」と捉えているのが、国内に根強く残る“手づくり”、つまりスクラッチ開発だ。テラスカイは、クラウドサービスのSIでは先駆者だが、クラウドが拡大しなければ、同社のビジネスも伸びない。
10年ほど前、SAPジャパンの関係者にこんなことを聞いた。「SAP ERP(統合基幹業務システム)」のカスタマイズ率は、平均すると、欧米企業に比べて日本企業は2倍以上に達する。それをリプレースする時には、カスタマイズした箇所を再びカスタマイズする。その“エコシステム”が日本のIT産業を潤してきたのは、事実だろう。日本企業の「自作指向」が改まらない限り、クラウドサービスが企業システムの主流になる日はこない、というわけだ。
テラスカイの2012年度(13年2月期)の業績は、非常に好調だった。売上高は非公表だが、伸び率は前年度比で約50%増を記録した。好業績をけん引したのが、2010年10月にリリースした「SkyVisualEditor」だ。Salesforce.comの標準レイアウトでは実現できない自由なレイアウトや入力支援機能をもつ画面をノンコーディングで作成できるツールだ。
この製品は、マイクロソフトの開発ツール「Visual Basic(VB)」のような役割を果たす。昨年から今年にかけて、損保ジャパンから35万ID、日本郵便から15万IDの受注が決まっている。ここだけをみても、クラウドサービスが勃興期から成長期へと向かう過程にあることがわかる。
「SFDC関連のSIをしているなかで、自社の利用に見合った画面をSalesforce.com上でつくってほしいという要請を受けることが多かった」(佐藤)。こうした経験から生み出されたヒット製品が「SkyVisualEditor」だ。生半可なITベンダーでは、成し得ない領域だ。同社は、これらをもって昨年9月に米国市場に参入している。ただ、単なる画面開発ツールと捉えてしまうと見誤る。そこに潜む同社の戦略は、奥が深い。[敬称略]