カシオ計算機(樫尾和宏社長)のグループ会社で、山形県東根市にあるデジタル機器の生産・製造拠点の山形カシオ(佐藤清志社長)では、同社独自の「レーザー&LED(発光ダイオード)ハイブリッド光源」を搭載したプロジェクターを一貫生産している。2014年4月までは、中国のEMS(受託生産)会社で一部を生産していた。10年に「脱ランプ光源」を宣言し、全機種を半導体光源に切り替えたが、分散生産だと歩留まりが悪いことなどを理由に、部材調達を含めすべての工程を山形カシオに移管した。カシオ計算機は、多用途に使え安価で高輝度の半導体光源プロジェクターとして、国内一貫生産で15年にエントリーモデル、16年にアドバンスドモデルを発売。その実現に山形カシオの「自動化」を含めた生産・製造の技術革新があった。現地を取材した。
中国EMSから完全移管

山形県東根市の「東根大森工業団地」にある山形カシオ
山形カシオは、JR東北新幹線の「さくらんぼ東根駅」から車で5分程度の場所に位置し、「佐藤錦」で知られるさくらんぼ畑を抜けた「東根大森工業団地」にある。カシオ計算機は、アナログをデジタルにし付加価値製品の開発で市場を創造してきた。同社の先端製品は、山形カシオで生産・製造している。

山形カシオ
工藤幸弘
DPJ製造部長 例えば、デジタルカメラは、1995年に「QV-10」を世界で初めて市場に投入。時計や電卓、電子辞書、電子楽器などの製品もデジタル化してきた歴史がある。カシオ計算機は、プロジェクターにおいて、10年に水銀を含む「ランプ光源」から全製品を半導体光源に切り替えることを決断した。だが、「よりコストパフォーマンスのよいプロジェクターを生産するための生産革新は、一筋縄ではいかなかった」と、山形カシオの工藤幸弘・DPJ製造部長は振り返る。数年を要したが、今では、他の製品で培った生産・製造技術やノウハウを生かし、国内一貫体制を築くことに成功している。
プロジェクターを「ランプ光源」(アナログ)からレーザー&半導体光源(デジタル)化に至るまでには、生産・製造上のハードルが多くあった。要約すると、レーザー&LEDのハイテク技術の生産が安定しないだけでなく、レンズなどの光学調整技術が多く存在し製造工程が長くなっていた。また、技術の進化が速く技術トレンドを早期にキャッチアップする必要があった。これに対し、中国EMSからすべての工程を山形カシオに移管し、他の製品などで得た製造技術でラインを短縮するなど、「『All CASIO』で開発から生産体制を構築した」(工藤部長)という。
10年に「脱ランプ光源」を宣言し、製品化してきたものの、高度な技術を用いているため製造原価が重くのしかかり、販売価格で他社同等製品に比べ高く、同一価格帯の水銀方式に比べ輝度が低かった。そこで、生産・製造工程の多くで、人が介在するとばらつきが出る部分の「自動化」に取り組んだ。

本体組立も最小人数で効率よく行う
「自動化」の部分では、例えば光源効率を上げるため、中国EMSから移管時に「レーザー光源自動組立装置」を開発し、レーザー光源のアッシー24個の組付を自動化した。従来は、1cm程度のレンズを人が装着していたが、この装置で自動化することで、製造効率が25%アップし輝度のばらつきが半減、歩留まりの改善で出荷遅延がゼロになったという。歩留まり改善例としてはこのほか、以前は目視で調整していた光学調整をデジタル化し、最終投映品質を数値化した。同社が「国内一体開発の初成果」(工藤部長)と呼ぶ15年発売の初号機「XJ-V1」は、以前の機種に比べて歩留まりが約1割アップした。
生産キャパを現在の2倍へ
工藤部長は、「山形カシオでは、『自動化ありき』で生産工程を設計している」と話す。自社開発のソフトウェア技術を使ってデジタル部分を調整・検査したり、ロボットを応用し組立自動機を自社開発する。部品調達も、「東北地域からほとんどを調達している」(同)。つまり、製造技術、自動化技術、部品調達の一体化でものづくりをしているのだ。
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レンズ組込作業など
半導体光源の主要部品の製造では「自動化」が進む
プロジェクターの工場内は、光源から完成品までワンフロアで一貫生産している。このワンフロアには工程別に、レーザー光源、レンズユニット、投映レンズ、光学モジュール、光学調整、本体組立、本体検査、最終外観、IQC(抜き取り検査)、資材倉庫、OQC(開梱チェック)、梱包出荷までの機能が揃う。「東京・羽村にあるR&D(羽村技術センター)でプロジェクターを設計しているが、羽村と山形の一貫体制で、設計から修正、試作までのリードタイムを大幅に削減できた。輝度が2000ルーメンを超える半導体光源を使ったプロジェクターを年20万台以上も生産・製造できるのは、カシオ計算機だけだ」(工藤部長)と、胸を張る。
中国EMSから移管したことで、光源効率の改善が超短焦点モデルで15%アップ、エントリー/アドバンスドモデルで38%アップした。また、山形生産を前提にした設計・生産・製造などの「新設計モデル」では、中国EMS時に量産・出荷まで1年を要していたが、超短焦点モデルで10か月に、エントリー/アドバンスドモデルで9か月に短縮した。工藤部長によれば、「17年までに年生産のキャパシティを現在の倍の40万台にするほか、光源効率を70%アップ、量産・出荷を6か月までに短縮する」としているほか、「『デジタル光源ライン』を完全自動化する」と、高い目標を掲げ「自動化」技術を今も磨いている。オフィス利用だけでなく多用途に広がるプロジェクター。顧客の要望に幅広く応え、市場シェアを安定的に確保するために、山形カシオの技術開発はとどまることがない。