クラウドの境界線がより曖昧に

 IaaSやPaaSといったインフラ寄りのサービスで市場拡大を牽引してきたアマゾン ウェブ サービス。同社は「Amazon Web Services(AWS)」について、クラウドサービスと表現しており、IaaSやPaaSという用語は使っていない。ユーザーに最適なサービスを提供するというスタンスにおいて、カテゴリ分けは関係ないということだ。であれば、オンプレミスに進出する可能性もゼロではない。領域拡大の動きを裏づけるかのようなサービスが動き始めた。(畔上文昭)

クラウドはSaaS領域に向かう

 IaaS/PaaSから、SaaSへ。アマゾン ウェブ サービスが、ソフトウェア領域へとサービス拡大を狙うかのような動きをみせている。
 
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コンタクトセンターソリューションで提携を発表するアマゾン ウェブ サービス ジャパンの岡嵜禎・技術統括本部本部長(写真右)とセールスフォース・ドットコムの御代茂樹・プロダクトマーケティングシニアディレクター

 同社が新たに提供を開始したクラウド型コンタクトセンターサービス「Amazon Connect」は、コーティング不要で、マウスによる操作のみでコンタクトセンターで必要とされる環境を実装できる。自動応答の内容、電話番号の選択、オペレータへの転送方法などを設定するだけで、コンタクトセンターの運用を開始できるサービスである。システム構築不要という点では、まさにSaaS領域のサービスといえよう。

 IaaS/PaaS市場において他の追随を許さないアマゾン ウェブ サービス。米調査会社Synergy Researchによると、2017年第2四半期において、世界のIaaS/PaaS市場の約34%のシェアを獲得している。続くマイクロソフトは、急成長を続けているもののシェアは約11%に過ぎない。アマゾン ウェブ サービスの強さが際立っている。

 競合他社は、IaaSに独自性を見出すのではなく、PaaSへ、そしてSaaSへと注力分野を変えることで、クラウド市場で存在感を示そうとする傾向がみられる。アマゾン ウェブ サービスとの勝負を避けたかたちだ。

 一方で、SaaSは、グローバル大手クラウドベンダーにとって注力すべきポイントとなっている。というのも、安価なSaaSはパートナー企業にとって営業のきっかけを与えてくれるドアノックツールとなるからだ。現在でもクラウドに対する認識が低い地域は多く、クラウドサービスを提案するにはきっかけが必要とされている。マイクロソフトやグーグル、オラクルなどでは、安価なSaaSを提供しており、各社のパートナーにおけるドアノックツールとなっている。

 アマゾン ウェブ サービスは、ドアノックツールとなるようなサービスを提供していない。地方での展開やパートナー戦略を考慮すると、いずれは進出する可能性がありそうだ。同社が掲げるビジョンは「地球上で、最もお客様を大切にする企業であること」。ユーザーはすぐに利用できるサービスをクラウドに求めているとしたら、SaaS分野への進出は必然の流れといえよう。

 なお、アマゾン ウェブ サービスは、Amazon Connectにおいて、セールスフォース・ドットコムのAIプラットフォーム「Salesforce Service Cloud Einstein」との連携を発表している。コンタクトセンターにおいて、顧客情報と連携した対応を実現する。SaaS市場の先駆者であるセールスフォース・ドットコムとの提携というところがポイントである。

クラウドがオンプレミスへ

 オンプレミスに対するユーザーニーズは根強い。一時は、すべてのIT環境がクラウドに向かうとされたが、最近では適材適所の方針が根づきつつある。まずはクラウドを検討する「クラウドファースト」も、クラウドを優先するのではなく、システム担当者が会社に提出するための証拠として、検討するというスタンスに変わりつつある。

 また、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)のように、クラウドのメリットをオンプレミス環境に適用するという動きも、ユーザー企業における適材適所の方針を後押ししている。マイクロソフトやオラクルも、そうした動向を強く意識したハイブリッドクラウド戦略で売り上げを伸ばしている。

 では、アマゾン ウェブ サービスはどうか。クラウド一辺倒かと思いきや、適材適所を意識した動きをみせている。それが、エッジコンピューティング向けIoTソリューション「AWS Greengrass」だ。ローカルに置き、センサから得たデータの処理を行い、加工済みのデータをクラウドに送る役割を担う。つまり、アマゾン ウェブ サービスが提供するオンプレミスのソフトウェアである。
 
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 アマゾン ウェブ サービス ジャパンの岡嵜禎・技術統括本部本部長は、AWS Greengrassを「クラウドの拡張」と表現した。クラウドのためのソリューションということだが、アマゾン ウェブ サービスにとっては、IaaSかPaaSかと同様、クラウドかどうかも関係ないとのことだろう。ユーザーニーズを優先しての取り組みである。

 AWS Greengrassを提供する背景として、アマゾン ウェブ サービスは、図のようにローカルで処理することの価値を用いて説明している。

 想定している現場は製造工場。国内はネットワーク環境が充実しているが、海外では通信速度の問題がある。また、センサから大量のデータを取得する場合は、すべてをクラウド上に置くと保管コストが膨大になってしまう。地域によっては、データを扱うためには法律を考慮しなければならない。以上のことから、オンプレミスの必要性を説明しているのである。

 AWS GreengrassはIoT向けソリューションだが、エンタープライズ分野においてハイブリッドクラウドが主流になるとすれば、アマゾン ウェブ サービスもクラウド領域の拡張へと動く可能性が高い。マイクロソフトやオラクルとは、まったく違うアプローチだが、クラウドファーストやクラウドセントリックといったクラウド一辺倒の流れに変化の兆しがみえつつあるといえそうだ。