オランダに本社を置くElastic(エラスティック)は、情報システムの性能や情報セキュリティの脅威をリアルタイムで測定するビジネス領域へ進出したことで、昨年度(2022年4月期)の連結売上高を前年度比41.7%増の8億6200万ドル(約1120億円)へと大きく伸ばしている。日本法人でも「グローバルと同様の伸び」(山賀裕二・日本法人代表)と好調に推移しているという。従来の企業向け検索エンジンで培った“情報収集”の技術を生かすことで、性能やセキュリティ脅威を見つけ出す機能を拡充したり、メガクラウドベンダーや販売を担うSIerとの協業を積極的に進める。
山賀裕二 日本法人代表
もともと「Elastic」は、OSSとして開発された検索エンジンで、検索性能の高さが評価されて多くの企業ユーザーで活用されてきた。エラスティックは、この検索エンジンの性能の高さを応用して、情報システムの稼働状況をリアルタイムで検知するオブザーバビリティ(可観測性)と呼ばれる分野や、セキュリティの脅威となるファイルやログを探し出す分野に進出。情報セキュリティでは、ファイアウォールを突破してユーザー企業の情報システム内部に入り込んだ脅威に対処するEDRへの投資が盛んで、脅威の情報を検索するエンジンとしての応用を進める。
検索機能によって集められたデータを分析することで、ほかにも「売れ筋の商材の動きを追跡したり、工場の生産設備を制御するセンサーとつないでIoTの情報を集めたりといった分野にも応用できる」(山賀代表)は話す。
製品の基本的な料金体系は、検索データベースの容量に応じて課金する仕組みであるため、すでに導入済みユーザーであれば、検索で集めたデータベースを可観測性やセキュリティ、IoTなどに追加費用を抑制しつつ応用範囲を広げやすいという。並行してアマゾン ウェブ サービスはじめメガクラウドのサービスと組み合わせることで、クラウドビジネスを展開しているSIerやサービスプロバイダー経由での販売も増えている。
新領域における製品開発の先行投資がかさんだことで、グローバルでの昨年度の営業損益は1億7300万ドル(約225億円)の赤字だった。サブスクリプション方式で使うユーザーが増えていることから、将来の黒字化を視野に入れつつ先行投資を行っている段階と見られる。
国内販売では、野村総合研究所やキヤノンITソリューションズ、伊藤忠テクノソリューションズなど大手SIerがビジネスパートナーとなっているほか、セキュリティに強いラックもパートナーとして加わっている。山賀代表は「国内では企業向け検索エンジンの印象が依然として強い」とし、可観測性やセキュリティ脅威への対応といったエラスティックが推し進める新領域で強みを持つパートナーの裾野を広げていく。5月にはクラウドネイティブでビジネスを伸ばすスタートアップ企業を担当する専任チームを新設しており、製品の活用の幅を広げていく体制づくりに力を入れている。
(安藤章司)