商社勤務で、ユナイテッド航空の座席番号30Cをビジネスホテル代わりに使っていた。機長直筆の感謝状も何通かもらった。IT(情報技術)が分かり、日本語での営業トークも抜群。だが、10年も30Cに座り続けると、さすがに疲れた。
「愛する妻と、サンフランシスコの海辺でのんびり暮らしたい。仕事は、9時-5時の適当なものを選んで、生活の豊かさを味わいたい」と思った。
次の仕事を探していると、ベンチャー企業のデータコアが、日本法人を仕切らないかと話を持ちかける。ストレージ管理のソフトウェア会社だった。
「異なる種類や容量のストレージを仮想化して管理するソフトウェア…。時流に乗った仕組みでひかれたが、また30Cに寝泊まりするのは御免だ」
疑心暗鬼で製品の検証を始めた。市場性、技術力、製品投入のタイミング、すべて完璧だった。
「これなら行ける。ストレージ管理ソフトで世界を制覇できる」と直感した。「妻を拝み倒し、3年間だけ時間をもらった。妻には米国でコンピュータ学校に通ってもらうことで折り合いをつけた」。
2000年7月に立ち上げた日本法人のビジネスは順調に拡大。このまま行けば、アジアの本命・中国にも進出できる。30Cに揺られる暮らしは当分続くが、「次の北京は妻も連れて行きますよ」と、少し余裕が出てきた。3年間の大きな進歩だ。
プロフィール
ピーター・トンプソン
(ピーター・トンプソン)1967年米アラスカ州生まれ、ミネソタ州育ち。ミネソタ州ガスタヴァス・アドルファス大学卒業。在学中、関西外国語大学に留学。留学中に将来の伴侶となる日本人女性と出会い、92年に結婚。89年、専門商社の稲畑産業入社。ニューヨーク支社、東京本社、米サンフランシスコ拠点などに勤務。00年、ストレージ(記憶装置)管理ソフト開発のデータコア・ソフトウェア入社。現在、同社アジアパシフィック担当副社長兼日本法人代表取締役社長。