NECは、DXの成果がより厳しく問われる時代を背景に、2024年から「BluStellar(ブルーステラ)」という価値創造型の新たなブランドを掲げ、事業モデルの変革を推進している。NEC自身のビジネスを進化させるのと同時に、これまでNEC製品の販売を担ってきたパートナーに向けても「BluStellar共創パートナープログラム」を開始し、パートナーが顧客に対してより高い付加価値を提供するための後押しをしている。新しいパートナープログラムのねらいと、それによってパートナー各社のビジネスにはどのような可能性が生まれるのか、NECに取材した。
顧客のDXをゴールまで支援する 価値創造モデル「BluStellar」
DX推進の機運の高まりから、ここ数年で日本社会のデジタル化は一気に加速した。それと同時に、ユーザー企業のITベンダーに対する期待は、従来のようなデジタル化に至るまでの道筋や道具立ての“提案”にとどまらず、その先にある明確な“成果”や“価値”を求める形へと変化している。
このため、顧客ごとにOne to Oneで課題解決を図っていく受託開発型のビジネスを中心にしていた大手ITベンダー各社は近年、実際に成果を上げた成功パターンをパッケージ化し、ユーザーに具体的な価値を素早く提供する“オファリング型“のビジネスモデルを積極的に取り入れている。オファリング型のビジネスは、成功パターンを示したユースケース、テンプレート化されたアーキテクチャーと必要なプロダクト・サービス、その導入ステップ、導入後の運用・保守モデル、さらに成果指標(KPI)をまとめ、One to Manyの「再現性のある価値パッケージ」として提供するもので、ユーザーはその中から自社の課題に合ったものを選んでいくことで導入実現性も高まり、ゴールを見据えた安心感の下で迅速に課題解決に向かうことができる。
NECは、24年5月に価値創造モデル「BluStellar」を発表した。BluStellarは、NECが19年から本格的に取り組んできたコアDX事業の実績とNEC自身のDXの成果をもとに、コンサルティングからサービスデリバリー、運用・保守という一連のサイクルをフルサポートする構成となっている。メニューは、コアDX事業の中で徹底的な取捨選択・標準化を経た数百におよぶ「プロダクト&サービス」や多数の「オファリング」、実践をもとにオファリングを束ねて型化した「シナリオ」群で構成され、それらの実装を1万人超のDX人材がサポートする。
BluStellar
事業推進部門長 吉本 裕
BluStellar事業推進部門の吉本裕・部門長はBluStellarの考え方について、「DXの支援にとどまらず、企業の人材確保、社会における少子高齢化、インフラの老朽化など、単にテクノロジーだけでは解決できない国内の大きな課題に対して、われわれが培ってきたナレッジや経験値をモデル化・アセット化し、それらをまとめてテンプレート化した“価値創造モデル”を提示し、お客様と実装のゴールを共有しながら課題解決を図っていくもの」と説明する。
自らがデジタル成功体験を創る「クライアントゼロ」の合理性
BluStellarにおいて象徴的なキーワードとなっているのが、「クライアントゼロ」である。NEC自身、100年以上の歴史がある企業であり、同社が抱える課題は日本企業の共通課題といえる。そこでNECが自ら0番目の顧客(クライアントゼロ)となって最先端のデジタル技術を活用して課題解決を図り、その成功体験やノウハウをモデルとして提示する。「クライアントゼロとは、NECがどうやって自社の課題を乗り越えたのか、システム化をどう実現したのかという生きた経験をリファレンスとして提供するもの。そのシナリオの中に、われわれやパートナーのプロダクトや部品群、オファリングが含まれる」と吉本部門長は解説する。
NECでは19年以降、DX人材を招へい・育成し、オファリングを推進するためのビジネスグループやコンサル部隊、専門チームを作り、グローバルベンダーとのパートナーシップも拡大して体制の整備を進めつつ、24年にBluStellarというブランドの下で、従来のDX事業を価値創出の視点から再構築した。つまり、これまでと地続きのビジネスであり、ITサービスを提供するベンダー各社も、この変化と無関係ではいられない。
吉本部門長は「顧客課題に対してOne to Oneで製品を提供したり、個別にヒアリングをしてシステムを開発していく従来型のビジネスモデルと、BluStellarは共存するものだ。ただ、多様化する顧客の課題とテクノロジーの進化によって、SIもこれから進化していく。インテグレーションもモデル化し、一から作るのではなく、市場にあるクラウド環境などを活用した構築モデルを型として用意し、効率的に行えるようにしていく必要があるだろう」と話し、ITビジネスそのものが変化の端境期に来ている現状を示唆する。
販売店のBluStellar型ビジネスを支援する 共創パートナープログラムが誕生
サービスの規模や課題の内容、さらに成功モデルがNECによるクライアントゼロに依拠している点を踏まえると、BluStellarのターゲットは大企業や国レベルの課題解決を目的とした最先端のDX領域というイメージを抱くかもしれない。しかし、吉本部門長は「必ずしもそうではない」と説く。NECは、同社の製品やサービスを取り扱う全国のパートナーに対しても、「BluStellar共創パートナープログラム」を新たに用意し、パートナーと共にBluStellarビジネスを強化・拡大するための取り組みを行っている。
吉本部門長は、NECがパートナーに同プログラムへの参加を呼びかけている背景として、「社会やマーケットがITベンダーに求める要件が変化している」点と、「課題は共通していても、顧客のレンジや規模感によって解決するための手法が変わる」点を挙げる。「『NECが変わるからパートナーの皆さんもそれに合わせてほしい』ということではなく、ニーズや社会課題の変化に合わせて、ビジネスモデルも変えていく必要があるということをお伝えしたい。私たちがパートナーの皆さんに訴求したいのは、『BluStellarのプロダクトやサービスを扱ってください』ということではなく、お客様の課題に伴走する『BluStellar型にシフトする』ことだ」と吉本部門長は話す。また、BluStellarというブランドを立ち上げたことで、既存のNECパートナー以外のIT企業からも、NECとの協業に関心を示される機会が増えているという。
パートナー各社の強みであるインテグレーション力や商材に、例えばNECのアナリティクスやセキュリティーなどのノウハウや、プロダクト、サービス、クライアントゼロの知見を加えることで、「パートナー各社の強みがある市場や領域、ターゲット、マーケットに対して価値が出せるモデルを一緒に作っていきたい。そしてその事例・ユースケースをたくさん作り、それをOne to Many化していきたいというのがNECからのメッセージだ」(吉本部門長)。
こうした取り組みにより、パートナーは従来のプロダクト販売や個別SIにとどまらず、自社の得意分野を生かした再現性のある提案モデルを持つことが可能になる。
BluStellar共創パートナープログラムは、オファリング領域で「デジタルID」「エッジプラットフォーム」「ハイブリッドクラウド」「マニュファクチャリング」「RPA」「生成AI」などのジャンルを用意しており、それぞれでパートナーとの共創を進めている。
これらの提供価値について吉本部門長は、「これからの顧客ニーズの変化に対応していくためには、1000社の1000の課題を個別に解決していくのではなく、パートナー各社がそれぞれ強い領域、目指すターゲットやマーケットをあらかじめ宣言し、『このケースでこういう実例がある』というテンプレートや価値創造モデルを示し、解決策を提供してくのが有効だ」と話す。
パートナーとの新しい価値づくりの体制を構築するため、同プログラムでは、NECが「売り物」「売り方」「仕組み」の三つの側面から伴走型で支援を行う。
売り物に関しては、オファリング領域の強化を継続的に実施していく。直近では、中堅・中小企業向け生成AIのプログラムが追加され、従来用意されていたヘルスケアのオファリングに加えて、オンプレミス型生成AIモデルが登場している。
売り方については、売れ筋の事例から成功要因を抽出・分析し、型化した「アプローチパターン」のシナリオを示し、顧客課題・提供価値・競合優位性・パートナーのメリットを可視化して提供。さらに、知見を持ったNECのメンバーがアプローチ手法やモデルを一緒に考える、売り方モデルのフィッティングも実施する。
仕組みの部分では、体系化されたDXの人材育成メニューを用意し、ベースとなるスキルの習得に加えて、新たな価値創出活動に特化したビジネス企画やコンサルスキルなどの研修も行う。
「われわれは、いわゆるプロダクト販売型のビジネスモデルを全てDXや変革を支援する形へシフトすべきだと思っているわけではない。今後、その部分もより専門化・高度化していくだろう」と吉本部門長は話し、次のようにメッセージを送った。「NECはパートナーの皆さんを、単にわれわれの商材を販売してくれるだけの存在ではないと認識している。われわれはBluStellar共創パートナープログラムを通じ、それぞれのパートナーが得意な領域でどんな価値を提供いただけるかディスカッションし、日本の企業や社会の課題解決や変革を支援するとともに、パートナー各社の成長にも寄与していきたい」。
BluStellar共創パートナープログラムの枠組みでは、NECとパートナーとの協業による新たなDX商材も誕生している。本記事の後半では代表的な事例である、大塚商会と共同開発したオンプレミス型の生成AI専用サーバー「美琴(みこと) powered by cotomi」と、共創パートナーによる新たなビジネス展開の可能性について解説する。
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