2004年11月、奈良県で起きた元新聞販売員による児童誘拐・殺害事件。それを機に「子どもの安全」をめぐる議論が活発化した。住田典子さんも2児の親。その当時、遺体が発見された平群(へぐり)町の隣り、生駒市の小学校に2年生の長男が通っていた。
「不審者が出たとか、近隣で起きた危機情報をすぐに受けられる仕組みがあれば対処しやすい。ITの出番だと感じたんです」
NTTデータが始めた「FairCast─子ども安全連絡網」は、住田さんの発案で生まれた。学校や自治体がソフトで危機情報を作成、受信者に送る。受信する機器を選ばないのが特徴で、自宅の電話や携帯電話、メール、FAXのどれでも選択できる。これまで外出などで、「情報をリアルタイムに受けることができない」という親の不安を解消させた。今年4月に開始し、すでに50以上の保育園や小学校から受注。約1万5000世帯が利用している。
とはいえ、道のりは険しかった。NTTデータ一筋だが、総務業務が中心で、すべて初めての試行錯誤の繰り返し。ビジネス化のきっかけは、同社が定期的に行う新規ビジネス創出プロジェクトに応募し採択されたことだが、1度は落選。初期費用105円、月額42円という「こだわり続けた」破格値が足かせに。全国の自治体や学校に足を運んで声を拾い、ニーズがあることを証明。年商約9000億円を稼ぐSI最大手の上層部を熱意で説得し、同社にとって異色のビジネスを立ち上げた。
「赤字は出さない。だけど、利益が出たらその分はサービス強化に使いたい」
儲からないかもしれない。それでも、社会的貢献度は大きい。ユーザー目線でその仕事を第一線で仕切っている。
プロフィール
住田 典子
(すみだ のりこ)大阪府出身。1992年、NTTデータ入社。社長秘書など総務関連の仕事に従事。育児休職中に子どもが通う小学校のPTA役員を経験したなかで、従来の電話連絡網では迅速・正確な情報共有をはかることが難しいと感じていた。奈良県で起きた児童誘拐・殺害事件を受け、復職後、社内の新規事業支援ファンドに応募し、「FairCast(フェアキャスト)─子ども安全連絡網」をビジネス化した。子ども安全連絡網は7月19日に全国一斉にサービスを開始。今年4月1日、NTTデータの地域子会社であるNTT関西からNTT東京本社に転じた。