独自に開発したクラウド型の統合ユーティリティ・データセンターサービス「absonne(アブソンヌ)」を武器に、2008年10月以降、相次いで大型受注を決める新日鉄ソリューションズ(NSSOL)。研究の主体となったのは横浜にある同社システム研究開発センター。通称、“シス研”だ。大学でソフトウェア開発を学んだ内藤誠は2002年の入社後すぐにシス研に配属され、基盤技術の研究に従事する。
華々しい受注成果の一方、一筋縄ではいかない場面も多かった。個々の要素技術を「顧客企業のビジネスに役立つシステムに組み上げ、かつ自社の収益の柱に育てる」ことがシス研のミッションだが、「口で言うほど簡単ではない」のが、最初に仕事に取り組んだときの率直な印象。グーグルやアマゾンなどコンシューマを主なターゲットとするクラウド型サービスが注目を集める。理論的にはビジネス向けにも同様なサービスを提供することが可能であり、absonneはこうした柔軟なユーティリティサービスを目指した。だが、前者はサービス品質を保証しないベストエフォート型。一方、absonneは「サービスレベルを約束したアウトソーシング型」と、性質が全く異なる。
データベースのチューニング一つをとっても、開発元の米ソフトベンダーのカンファレンスに足を運び、「開発キーパーソンと人脈をつくる」ところから始めた。高度な技術サポートは、「国内の代理店では対処しきれないケースが多い」からだ。こうした取り組みにより、absonneの完成度は飛躍的に高まった。システム運用の自動化など、収益力を向上させるうえで欠かせない課題はまだ残るものの、5年余りの研究が一応の実を結ぶ。
国内はもとより、世界でもSIerがクラウドをビジネス化しているケースは稀。競争優位性は十分にあり、「グローバルで通用するサービスに育てる」と、さらに磨きをかける。(文中敬称略)
プロフィール
内藤 誠
(ないとう まこと)1980年、東京生まれ。02年、会津大学コンピュータ理工学部卒業。同年、新日鉄ソリューションズ入社。横浜のシステム研究開発センターで統合ユーティリティ・データセンターサービスやクラウドコンピューティングの研究に従事。