「いつか、京都に帰りたい」。笑顔を見せて、そう記者に語りかける日本IBM東京基礎研究所の比戸将平・副主任研究員の出身地は、実は千葉県なのだ。大学生と大学院生の時代を京都で過ごし、「京都・観光文化検定試験」の3級をもっている。「人がほとんど訪れない小さなお寺を回るのが好きだ」そうだ。
寺社めぐりの趣味は比戸にとって、「仕事とのバランスをとるため」の重要なものだ。比戸は東京基礎研究所の数理科学グループで、温度や速度などのデータを解析し、IBMが展開するソリューションの技術基盤となる研究に携わっている。顧客から、工場の生産設備などに関する課題をヒアリングし、数学的なアプローチで解決方法を提案する。大学院でシステム科学を専攻し、ベンチャー企業のアルバイトでは3Dソフトを開発した経験をもつ比戸は、「理論と現実の間を自由に行き交うことが今の仕事の魅力」と表現する。
IBMに入社したのは、「ここで最高水準の研究ができる」と考えたからだ。これまでの約5年間、数回にわたって国際学会で論文を発表するなど、研究者としての実績を積んできた。「実際に取り組んでみたら、自分と世界先端技術との距離がそんなに遠くないことに気づいた」と自信満々だ。今は仕事のかたわら、京都大学の社会人向け博士課程に通っており、博論の執筆を進めている。今後は、「大きなお客様がついているプロジェクトで中心的な役割を担いたい。そろそろ自分がリードする、そういうお年頃だ」という。
比戸は、寺社めぐりだけでなく、茶道も趣味としている。「和」の世界に没頭して、研究の課題を考えるエネルギーを補給する。(文中敬称略)
プロフィール
比戸 将平
(ひど しょうへい) 2006年、京都大学大学院修士課程修了後、日本IBMに入社。同社東京基礎研究所数理科学グループの一員として、データ解析に関する研究に従事。顧客の課題を数学的なアプローチで解決するデータマイニング・機械学習の先端手法について研究開発を行う。そのかたわら、博士号取得を目指して、08年から京都大学大学院の社会人博士課程に在学している。