生粋のプログラマであり、クリエイター。久納孝治の頭脳には、今後30年間にわたる開発ロードマップがすでにある。その到達点は、「日常の生活をもっと快適に」というひと言に集約される。自分のためにカスタマイズされたソフトウェアを、あらゆるデバイス環境で利用できる環境をつくる。それが世の中をポジティブに変えていくと信じて疑わない。
久納の才能は、大学在学中に働き始めたITベンチャーを皮切りに、多くのベンダーに大きな成果をもたらしてきた。休日の余暇に、自分のために開発・公開したSkypeと携帯メールを連携させる仕組みが、Skype開発者の目にとまり、公認のAPIに採用された実績もある。「この時は、インターネットが“世界”とつながっていることをあらためて実感しました」。そう淡々と語る表情には、まったくてらいがない。
2012年、クラウドを活用したアプリ開発者向けのテスト・検証サービスを展開するカトマックを設立し、1年後、その先進性に目をつけたNTTレゾナントが同社を買収。久納は取締役に就任した。もともと、自分がプログラマとしてやりたい仕事に集中するために一人で立ち上げた会社だったが、「基本的には以前とやっていることは変わらないし、ユーザーの拡大やサービス品質の向上という面でパワーアップできた」と語る。
これからの久納のビジネスのテーマは、すでにあるロードマップのなかから、適切な技術を適切なタイミングで市場に出すこと。2000年代初頭、名刺ベースのSNSを開発したが、時代を先取りしすぎて受け入れられなかった苦い経験がある。「世の中のトレンドをみることは大事。でも、やはり“プログラマとしての自分”が何をしたいかは根底のところで大切にしたい」。
プロフィール
久納 孝治
久納 孝治(ひさの こうじ)
中学3年生でプログラミングを始めた。2000年、電気通信大学に入学。在学中に、ITベンチャー企業であるエグゼコミュニケーションズの開発部部長に就任。その後、アプレッソ、イーフローなどで活躍し、2012年4月に、カトマックを設立。今年5月、同社を買収したNTTレゾナントテクノロジーの取締役に就任した。