勤務時間は自由だし、自分の好きなところで仕事してもいい──。西新宿にあるソフト開発のあくしゅのオフィスは、誰かがいるかもしれないし、誰もいないかもしれない。しかし、技術者たちは、自分が最も集中できる時間帯と場所で、次世代コンピューティングを支える新しいソフトウェア基盤を、日夜つくり続けている。
あくしゅの創業者で、ソフトウェア技術者の山崎泰宏は、「宮大工のようなすばらしい職人集団をつくりたい」と考えて、ソフト開発の理想の会社を目指して、脱サラ、起業した。物理的な工作物とは異なり、ソフトウェアは一度つくってしまえばネットワークを通じて世界中に配信できる。「一品モノで終わらせず、世界中のユーザーに使ってもらう」と、配布はオープンソースソフト方式にして、開発言語は日本発のオブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」を選んだ。
鍵になるのは、ソフトウェア・デファインド(ソフトウェアによる定義)によるデータセンター(DC)やネットワークの仮想化技術だ。「この技術を使えば画期的な小型化が可能となり、将来的には、ラック1本、パソコン1台の大きさで、今のDC設備一つ分のパフォーマンスを発揮できる」と、山崎はみている。
あくしゅの先見性を評価したSIerの京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、あくしゅの現行製品でクラウド基盤の「Wakame-vdc」を自社のクラウドサービスの基盤として全面採用。利便性の高い管理画面など、KCCS独自の付加価値を加えながらビジネスを伸ばしている。山崎は、こうした実績を糧にしながら、「近未来のコンピューティングを支えるソフトウェア基盤をつくる」と、目を輝かせる。(文中敬称略)
プロフィール
山崎 泰宏
山崎 泰宏(やまざき やすひろ)
1977年、北海道生まれ。02年、会津大学大学院修了。同年、NTTデータに入社。06年、あくしゅを創業し、現在に至る。