営業組織をもたず、クチコミ中心で、これまで日系企業を中心に1000社を超える顧客を中国で獲得してきたITベンダーがある。林博之が率いる上海林博之計算機科技だ。
「先駆けて中国現地ビジネスの経験を積んだことが、他社との最大の違い」と林。初めて中国を訪れたのは2000年。急速に発展していく活況ぶりに衝撃を受け、進出を決意した。当時、現地向けビジネスを手がける日系ITベンダーはほとんどなかった。進出当初は、顧客のニーズを知るために、法人・個人にこだわらず、会う人すべてにITの悩みを聞いては、「自分にできることなら何でもやった。パソコン修理など、無償で引き受けた案件も数知れない」。
林がそのなかで磨きをかけたのは、顧客の心に響く対話力だった。中国に進出している日系企業には、専任のIT担当者がいないケースが多い。IT環境を整備したくても、何をしたらいいのかわからない。「ITにくわしくない人の不安を払しょくするためには、いかに多くの情報を伝えて、問題の原因や解決策を理解してもらえるかだ」。そのせいか、林は今回の取材中にも活発に話しかけてきた。懸命な姿勢に、自然と引き込まれてしまう。
中国は人脈社会。「林さんは必ず解決策を提示してくれる」と、評判がクチコミで広がって、問い合わせが増えた。データセンターサービスを皮切りに、ハードやソフトの販売、システム構築、ネットワーク工事など、総合的なITサービスを提供するまでに事業領域を拡大している。
「最近では、中国のお客様の間で、東南アジア地域への進出をサポートしてほしいという声が上がっている」。今年末には、タイに現地法人を設立する予定だ。対話力を武器に、今後はアジアの顧客の心もわしづかみにしていく。(文中敬称略)
プロフィール
林 博之
林 博之(はやし ひろゆき)
1977年生まれ。少年時代はプログラミングに没頭する生活を送った。高校生になると、個人でパソコン通信(BBS)によるIT機器の通信販売を開始。95年に、その延長でヒロプロジェクト(現ワールドネットワークアソシエイツ)を設立。大学卒業後の2000年、中国に進出し、IT製品販売やシステム構築、データセンターサービスなどのIT総合サービスを提供する上海林博之計算機科技を設立した。