
井出裕二が中国行きを熱望した背景には、「自らが生み出した製品を、自らの手で売る」という強い思いがあった。この実現にあたっては、現地に赴くことが不可欠な要素だった。
日本では、エンジニアとして長年、銀行向け業務システムの導入や自社製品の開発に携わってきた。地域金融機関向けソリューション「BANK・R」はその一つだ。井出は、同製品の海外展開プロジェクトにも立ち上げから参画。ローカライズにあたってはアジャイル開発の手法を取り入れ、現地の法制度改正など、ニーズの変化に柔軟に対応できる体制を整備し、技術者としての仕事をまっとうしてきた。
しかし、実際には海外でのBANK・Rの販売は苦戦を強いられた。製品の良し悪しだけでなく、営業面での文化や商慣習の違いが壁となったのだ。井出にとって、自らが開発した製品はわが子同然。悔しさと同時に、腹の底で熱い思いが込み上げてきた。「自分が売ってみせる」。中国行きを決心した。
念願が叶い、今年1月、正式に赴任。現在は製品の開発から営業、導入までの役割を一手に担う。中国に加え、東南アジアまでを駆け回り奮闘。半年間で、インドネシアでの案件獲得に成功した。最近では、井出の発案で、リース・ファイナンス業向け基幹システム「Lamp」にもアジャイル開発の手法を取り入れるなど、技術者としても会社に大きく貢献している。
趣味は釣り。年数回、佐賀県玄界灘まで大物のヒラマサを釣りに出かけるほどの入れ込みようだ。ただし中国では、あまり釣りの機会に恵まれない。「代わりに、仕事で世界の大物を釣り上げたい」と、井出は穏やかな表情の奥にある熱い思いをのぞかせる。(文中敬称略)
プロフィール
井出裕二(いで ゆうじ)
愛媛県出身。2002年、神戸大学大学院の情報知能工学科を修了後、電通国際情報サービス(ISID)に入社。エンジニアとして、金融機関向けのシステム導入や自社製品の開発に携わる。16年1月、中国現地法人の上海電通信息服務(ISID上海)に出向。営業職と技術職を兼務し、海外における自社製品の開発・販売・導入に従事している。