都内にある雑居ビルの一室、古澤豊樹はスタートアップ企業のオフィスでSEとして開発に没頭している。この仕事は、実質、古澤自身がとってきたもので、しかも成功報酬型に限りなく近い形態。人月で確実に売りが立つ従来の受注形態とは大きく異なる。

古澤が、この仕事に飛びついた動機は、「自分のやりたいことと、技術者としてのキャリアパスが合致した」からだ。
医師や流体力学の専門家らで立ち上げたスタートアップ企業Cardio Flow Design(CFD)は、スーパーコンピュータ(スパコン)を使って心臓血管の血流をシミュレーションし、予測医療に役立てるサービスを手がける。
CFDの立ち上げの話を聞いたのが2015年。古澤が30歳になった年でもあり「このチャンスを逃がすわけにはいかない。自分がやりたい」と上司に訴え、NECソリューションイノベータとCFDのオープンイノベーション方式のスキームを組み立てた。
受け身の受託開発ではキャリアパスを描きにくい。だったら、「SE自らが仕事をとりにいき、あわよくば新規事業の立ち上げにつなげてやる」。古澤は、起業家が集まる交流会や、ネット上のコミュニティにも顔を出す。「オープンであることが、IT技術者としての生存戦略」。それを実践したのがCFDとの協業というわけだ。
技術者は、「筋のいい技術」を身につけてキャリアを伸ばすことが勝ち残るポイントとなる。古澤はスパコン・シミュレーションと医療を融合させた領域に、その可能性を見出した。30代で一気に勝負を賭けるSEの生存戦略である。(文中敬称略)
プロフィール
古澤 豊樹
古澤 豊樹(ふるさわ とよき)
1985年、東京都生まれ。11年、早稲田大学大学院先進理工学研究科卒業。同年、NECソフト(現NECソリューションイノベータ)入社。13年、NECに出向。スーパーコンピュータ関連事業に従事。15年、NECソリューションイノベータに戻る。