つくり手の動き――――仮想化ソフト開発ベンダー編
仮想化“御三家”の争い
戦線拡大で総力戦へ 急成長が見込まれるシンクライアントビジネスで、中核的な役割を果たすのが仮想化ソフトベンダーである。シンクライアントそのものは90年代からすでに実用化されているが、それに“仮想化”の要素が加わったのは、新しい動きだ。ヴイエムウェアやシトリックス・システムズ・ジャパン、マイクロソフトは、サーバー仮想化で覇権を争う御三家である。サーバー仮想化戦線で激しいシェア争いを展開すると同時に、クライアント=デスクトップの仮想化という新しい戦線でも正面から激突する。
デスクトップ仮想化で火花 サーバーの仮想化では、ヴイエムウェアが大きく先行し、シトリックスが猛追するという構図である。だが、クライアント領域では、シトリックスはターミナルサービス方式で長年の実績をもつ。米シトリックス・システムズのウェス・ワッソン・シニアバイスプレジデントは、「クライアントは当社が得意とする領域であり、ここでは間違いなく勝てる」と、鼻息を荒くする。対するヴイエムウェアは、ターミナルサービス方式でシトリックスに一日の長があることを認めつつも、新しい技術であるデスクトップの仮想化では、「ライバルと当社のスタートラインは変わらない」(ヴイエムウェアの野崎恵太・パートナーシステムズエンジニアリング部長)と、先行者利益はまだどちらにもないと冷静に捉える。

ヴイエムウェア 野崎恵太・部長
ヴイエムウェアやシトリックスなど専業ベンダーの活躍が目立つ仮想化だが、マイクロソフトも、デスクトップ仮想化でNECとの協業で合意。これまで仮想化ではヴイエムウェアとの距離が近かったNECだが、「デスクトップの仮想化では、マイクロソフトとヴイエムウェアの二本立てで行く」(NECの大塚俊治・シンクライアント推進センター長)と、マイクロソフトが得意とするビジネスパートナー戦略を積極的に推進することでシェア拡大を目指す。
なぜ、サーバー仮想化戦線の御三家が、シンクライアントに戦線を広げてきたのか。これは、シンクライアントの発展の経緯に深く関係する。
戦火はシンクラに広がる シンクライアントが実用化されたのは、90年代のターミナルサービス型による方式だった。Windows 95が爆発的に普及したが、運用管理が追いつかず、情報セキュリティリスクも高かった時期で、これを解決するためにサーバーからデスクトップの画面イメージを転送するターミナルサービス型が登場。情報セキュリティを重視する金融機関を中心にユーザーが拡大した。ここで活躍したのがベンダーの1社がシトリックスだった。
しかし、この方式は、パソコンの最大の特徴である拡張性に欠けた。デスクトップ(=Windows OS)やアプリケーションソフトを一元管理すれば、運用コストは抑制できるものの、自由度は大幅に制約される。
そこで出てきたのが、サーバー仮想化の技術を応用したデスクトップ仮想化の方式だ。ここに至る前に、パソコン1台分の機能を、ブレードPC(基本構造はブレードサーバーと同じ)1台に収納するブレードPC方式が登場した。だが、仮想化によるクラウド/SaaSの大きな流れを考えると、適用可能な領域は限定的だとする見方が大勢を占める。
売り手の動き――――SIer編
林立するシンクラ方式
SIerは腕の見せどころ シンクライアントは、ターミナルサービス型や仮想デスクトップ型など特性の異なる方式が複数林立する。そこで舞台に登場するのが、費用対効果のシミュレーション能力やシステム構築、保守運用サービスの力量に優れたSIerである。クラサバ型の単なるパソコンの箱売りとは異なり、高度なシステム構築能力を求められるシンクライアントならではの収益可能性が見出せる。
組み合わせのスキルを展開 ユニアデックスは、ターミナルサービスとデスクトップ仮想化(=仮想PC)、ブレードPCの3方式の組み合わせを主力に据える。同社のおおよその試算によれば、導入時の1台あたりのコストはターミナルサービス型が10万円なのに対して、仮想PC型は15~20万円、ブレードPCは20万円。ターミナル型は初期コストが安く、拡張性にも制約があるために維持運用の負担も少ない。

ユニアデックス 村上努・マネージャー
仮想PC型は、やや割高だが、拡張性が高く、ブレードPCはクラサバ型と同等の拡張性の高さを誇る。ところが、これらの方式は維持運用コストがかさみ、「一歩間違えると、ユーザー企業はクラサバ型の運用と同様の高いコストを負担しなければならない」(ユニアデックスの村上努・戦略商品企画室シンクライアント担当マネージャー)との指摘もある。同社では、ユーザー企業の業務形態を分析し、比較的少ない業務アプリで定型業務を行う場合はターミナル型。営業や企画、開発など複数のアプリを活用した非定型業務がメインであるなら仮想PCまたはブレードPCを推奨する方式を採る(図4参照)。
一般的な企業なら、例えばターミナル型70%、仮想PC型が25%、ブレードPC型が5%といった構成比になり、「金融機関などセキュリティ重視で、かつ定型業務が多い場合は、ターミナル型の比率がもっと増える」(同)と実状を語る(図5参照)。
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