“伏兵”DaaSの現実味 課題として浮き彫りになるのが、仮想PC型の運用コストの問題だ。ユーザー企業にとって、シンクライアント導入の動機のトップに位置するのは“運用コストの削減”。コストが膨らんでしまっては意味がない。NECは仮想PCの拡張性、柔軟性のメリットを生かしつつ、独自に開発した仮想PCの統合管理ツール「VirtualPC Center(バーチャルPCセンター)」を開発。大規模システムの運用を得意とするNECのノウハウを応用し、自律的な運用管理まで視野に入れた高性能管理機能を売りにする。ヴイエムウェアの「VMware View」に相当する位置づけだが、NECはヴイエムウェア製品を扱うライバル他社との差異化要素の一つとして「VirtualPC Center」を前面に打ち出す(図6参照)。
そして、仮想PCを一歩進めたのが、DaaS=デスクトップのサービス化である。業界に先駆けてシンクライアントビジネスを立ち上げ、仮想PC方式でも受注実績を急速に伸ばす伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、DaaSの実用化に向けた取り組みに着手。まずは「社内向けDaaSを検討」(CTCの井出貴臣・インフラソリューション推進部長補佐)している。

伊藤忠テクノソリューションズ 井出貴臣・部長補佐
DaaSとは、仮想化したデスクトップをサービスとして提供するタイプ。通常の仮想化は単一のユーザー企業グループ内で行うものだが、DaaSは複数のユーザー企業にデスクトップサービスを提供するものだ。すでに丸紅やソフトバンクが、米シトリックスが一部出資するデスクトーンのソフトを活用したDaaSに着手しており、CTCなど大手SIerもDaaSの研究に意欲的である。
シンクライアント未来予想図 課題はもう一つある。前述の通り、ターミナルサービス型では自由度が限られ、仮想PC型を自社で導入できるのは大手ユーザーに限られる。大規模ユーザーならスケールメリットを生かしやすいが、そのメリットを生かしにくい「中堅・中小企業ユーザーをどうするか」(中堅・中小企業向けSIに強いJBCCホールディングスグループ・JBアドバンスト・テクノロジーの石川匡幸・製品推進部長)という課題は残されたままだ。

JBアドバンスト・テクノロジー 石川匡幸・部長
この点、DaaSは敷居が低い。丸紅のDaaSの値付けは月額1ユーザー6500円(税別)から。業務アプリの値段は含まれていないが、例えばセールスフォースやグーグルなどクラウド/SaaSベンダーと組むことで、中小企業ユーザーはデスクトップシステムの一括購入の負担から解放される可能性がある。また、デスクトップやアプリはiPhoneなどのモバイル端末からでも呼び出せる技術開発が進む。いつでも、どこでも、好きなだけOSやアプリを利用できるクライアント環境が実現される未来予想図が描ける。そこに至る過程では、ソフトベンダーやSIerの激しい技術開発競争やシェア争い、あるいはグーグルやセールスフォースなどのクラウドベンダーの参入も考えられる。“脱クラサバ”は一筋縄ではいかず、グローバル規模の大戦に勝ち抜く戦略が求められそうだ。
シンクライアントとは クライアントパソコンに導入されているアプリケーションソフト(アプリ)やOS(基本ソフト)をサーバー側に移して、管理する技術。パソコンの高性能、低価格化によって、大量のアプリや、必要以上の機能を備えたOSが企業内にあふれることになった。クライアントの肥大化と呼ばれる現象で、とくに大企業ではクライアントの運用管理コストの増大に直結。これを解決するため、サーバー側でアプリやOSを一括管理し、管理コストを削減するのがシンクライアントである。方式別に大別すると、(1)ターミナルサービス型(2)仮想デスクトップ型=仮想PC型(3)ブレードPC型(4)DaaS型=デスクトップのサービス化などに分かれる。
シンクライアントのトピックス◇NECは、東京海上日動火災保険に3万台の仮想デスクトップ型のシンクライアントを納入する。2010年度に向けて順次納入予定(9月29日発表)
◇日本IBMは仮想デスクトップ型のシンクライアント環境仮想化サービスを三菱東京UFJ銀行に提供する。09年12月から稼働予定(10月19日発表)
◇日本ヒューレット・パッカードがシンクライアント技術から派生したクラウド・コンピューティング専用端末を11月から発売(10月5日発表)