メーカーの動向
NEC
DCと仮想化の両睨みで需要開拓へ  |
NEC 吉泉康雄 ITプラットフォーム マーケティング本部長 |
販売台数の落ち込みが必至となるなか、メーカーはサーバーの需要喚起に向けた取り組みに乗り出している。
10年以上にわたり、国内サーバー市場でトップシェアを維持するのはNECだ。「今後も、ナンバーワンは絶対に死守する」(矢野薫社長)と鼻息が荒い。
トップシェア維持に向け、同社が納入先として有力視するのがデータセンター(DC)だ。「クラウド時代が本格到来し、DCの利用が活発化すればサーバーの台数も増える」(吉泉康雄・ITプラットフォームマーケティング本部長)との読みがあるからだ。
NECは、「省電力」をキーワードにした省エネ性能の高いDC専用サーバーで需要を開拓する狙いだ。DC専用サーバーでは、グループ会社のISP、NECビッグローブと連携し、省電力だけでなく、リモート管理機能を拡充した機種を投入するなど、市場攻略の準備に余念がない。
「他社よりも早く、5年前からDC用サーバーを手がけており、先行している」と、吉泉部長は自信をみせる。
また、サーバーだけでなく、DCの施設や設備などにまで踏み込んで運用コストの低減まで提案することによって、ビジネスチャンスを拡大する。DC同様の大規模なサーバー利用という点で、通信事業社や携帯電話のコンテンツサービス会社への販売強化も視野に入れている。
足元の販売では、主に企業を対象に仮想化ソリューションを推進していく方針。仮想化ソリューションは「販売店が売りやすいようにパッケージ化することが重要」(同)とみており、ラック、ブレードといったサーバーとネットワーク機器や電源などを組み合わせたパッケージを開発。キャンペーンを打って拡販につなげる。
ただ、仮想化ソリューションによるサーバー統合は、販売台数の低下につながりかねない。これに対して、吉泉本部長は「仮想化でサーバーの販売が減ることはない。ソリューションであればサーバーだけではなく、メモリなど関連機器も売れることになり、サーバーの単価下落を補い、サーバー単体の販売よりも収益が高まることが多くなる」と断言している。
デル/日本HP
商流の変革、価格競争力を武器に 外資系メーカーでもサーバー拡販に向けた布石を打ち始めた。
デルはチャネル販売の強化でシェア回復を目論む。「デル・モデル」と呼ばれる、同社が得意とした直販は、もはや昔の話。今はパートナー経由の間接販売の伸ばすための専門部隊を設置。デルのサーバーの拡販につながるようなパートナーのリクルートを水面下で始め、チャネル網を着々と整備している。
デルでは中堅企業向けビジネスに強いパートナー開拓をミッションとする新部門「SMBセールス本部チャネルセールス本部」が陣頭指揮を執り、有力SIerに協業プランを提案して、パートナーとして囲い込む考え。
「サーバーの潜在需要が眠る中堅・中小企業(SMB)を開拓するには、パートナーの力が欠かせない」と、同部門の鈴木謙彰本部長はパートナー網の拡大に全力で取り組んでいる。「最低でも(サーバーは)昨年に比べて2倍にする」と勢い込む。
国内シェア2位の日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、富士通やデルのように新たなチャネル施策ではなく、強みのスケールメリットを生かした価格競争力を武器に販売拡大を図ろうとしている。
09年12月にはPCサーバー「HP ProLiantサーバー」の76製品で平均7%、最大25%値下げした新価格を設定。オプションの164製品については最大71%、平均17%も価格を下げており、低価格を前面に押し出した販売戦略を推進している。
需要先となる開発系SIer
DCが新たな市場生み出す サーバーの新たな需要先として浮上しているのが、開発系SIerだ。クラウドコンピューティングの普及を見据え、自らのDC設備を相次いで増強していることが背景にある。
開発系SIerは、これまでメーカーから仕入れたサーバーや通信機器を顧客の電算室などに納品・設置する案件が多かった。
だが、顧客企業とSIerのDCがセキュアなネットワークでシームレスに結ばれ、仮想化されたクラウド環境を共有できるようになれば、顧客側は情報システム部の人件費をかけて自社の電算室を運用するよりも、SIerのDCで安価に運用してもらったほうがメリットが大きくなる。開発系SIerは、こうした需要を見込んで積極的にDC投資を行っているわけだ。
サーバーメーカーにとっても開発系SIerの需要を取り込めるかどうかが、今後の市場シェアを左右する一因となる。求められるのは、一般的なDC用モデルよりもさらにSIerの要望を汲み取った専用機種だ。キーワードとなるのは、「低価格」「空調コストの削減が可能なサーバー形状」「大幅な省電力性能」。
価格については、運用設備の整ったDCで運用する場合、サーバーは簡素な機能な機種で済む。クラウドサービスのように、SIerがサーバーを所有し、顧客がサービスだけを利用する形態であれば、サーバー価格はSIerにとって“コスト”と同義になる。そのため、低価格なサーバーへの要望は強まると予想される。
「空調費用の削減」では、DCの電力消費のおよそ3分の1を、機材の発熱を冷却するための空調が占めるといわれ、SIerにとってコストに直結する。空調問題の解決は急務なのだ。
開発系SIerの日本ラッドでは、DCの建物の外気を直接サーバーの発熱部に吹きつけて除熱し、実質的に空調機を使わないDCの実証実験を進めている。空調機を使うことを前提としたサーバーではなく、「風を吹きつける方式に適した新しいサーバーの形状が求められている」(岡田良介・日本ラッド執行役員)と話す。こうしたニーズに対応できるかどうかがカギを握る。「省電力」で求められるのは電源にまで踏み込んだ消費電力削減の機能だ。SIer最大手のNTTデータは、従来計3回行っていた「交流と直流の変換」を1回に抑えて機器に直接直流を供給するDCの高電圧直流給電システムの実験を実施。電源や空調、IT機器の合計で最大18%の消費電力削減を実現した。こうした動きをみても、従来よりもさらに電力を削減したモデルが求められているといえそうだ。
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