検証3 ソフトバンク
メーカーやSIerとの協業強化へ
クラウドコミュニティの拡大を図る
ソフトバンクグループがクラウド・サービスを提供するうえで最も重要視しているのは、メーカーやSIerなどへの支援制度「ホワイトクラウドコミュニティ」の拡大だ。なかでも、サービス創造と提供の両方を手がけられるベンダーをパートナー企業として確保することに力を注いでいる。販社網の整備がクラウド・サービス拡大のカギを握ると判断しているのだ。
「ホワイトクラウド」でHaaSを投入
5月までに全サービス提供を計画 2009年11月、ソフトバンクグループはユーザー企業がネットワーク経由で必要なITサービスを組み合わせることが可能な「ホワイトクラウド」構想を発表、10年2月に、第一弾としてHaaSの提供を開始した。
現段階でHaaSとしてメニュー化しているのは、月額4725円からに設定した「シェアード・スタンダード」と、サーバーシステムを要望に合わせて基本料金と従量料金で提供する「プライベート」の2種類。10年4月には、シェアード・サービスとして「プレミアム」を提供開始する。同サービスは、これまで提供していた仮想化技術を取り入れた次世代型オンデマンドホスティングサービスの「バーチャルホスティング」を進化させ、ディスク容量などスペックを向上したもの。しかも、月額料金を月額2万円からと「バーチャルホスティング」の半額以下に設定している。
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| 立田雅人部長は、「SMBのデファクトスタンダードになり得るクラウド・サービスを提供していく」と意気込みを語る |
ソフトバンクテレコムでクラウドサービス事業を担当するクラウドサービス開発部の立田雅人部長は、「HaaSの引き合いがSMB市場で多い。しかも、基幹システムで利用する傾向がある」としている。コスト面を踏まえ、「今後は、SMB市場でクラウド・サービスのニーズがさらに高まるだろう。『ホワイトクラウド』をSMBのデファクトスタンダードとして確立させる」と意気込む。
今後もHaaS以外のサービス型モデルの提供を計画していることに加え、「ユーザー企業が求めるニーズを踏まえると、オペレーションを含めたサービスが重要になってくる。そのため、“XaaS”といった概念ではなく、ITインフラをはじめ業務に必要なものはネットワークなどを経由して何でも揃うという考え方でサービスを提供していく」との方針を示す。今年5月には、ほとんどのサービスメニューを揃え、ユーザー企業が自由にサービスを選択できる環境を整える。
協業ベンダーと事業プランを創造
他社DCとの連携も増加に積極的 ソフトバンクグループは、クラウド関連を「ホワイトクラウド」というブランドに統一してビジネスを手がけているわけだが、「ユーザー企業にとって必要なものは何かを考えた場合、1社だけではニーズに応えることが難しい。そのため、『ホワイトクラウド』をメーカーやSIerなどとの協業を積極的に進める共生型の事業と位置づけている」と、立田部長は語る。その裏づけとして、パートナー企業を募る「ホワイトクラウドコミュニティ」を提供することになった。
コミュニティに参加するベンダーは、現時点で20社程度に達している。そのほとんどが「ソリューションパートナー」に位置づけられるサービス開発のベンダーだという。今後は、「販売面でのビジネスモデルを創造するパートナーも確保したい」。とくに、アプリケーションを開発しながら自社でユーザー企業を開拓するSIerとのパートナーシップを深耕したい考えだ。また、PaaSベンダーとのアライアンスについても「積極的に連携を図っていく。実際、複数のDC事業者から話が来ている」という。さらに、「アーカイブに手間がかかるという事業者もいることから、このようなニーズにも対応しながら協業案件を増やしていく」としている。
ソフトバンクグループでも、クラウド・サービスを提供する狙いは、「通信回線ユーザーを増やすこと」。固定電話と携帯電話の両方を法人に売り込んでいき、「アプリケーションサービスの利用を促すことでARPU(月間電気通信事業収入)の上昇につなげる」としている。クラウド・サービスという新しい市場の確立で、回線の付加価値化を目的としているのが通信事業者というわけだ。同社では、グループ内にディストリビュータのソフトバンクBBが存在するということからも、ベンダーとの協調関係に重きを置いている。
【結論】 今回のOpinion特集では、通信事業者のクラウド戦略は、ITベンダーにとって、“新たな刺客”となるのではないかという推論のもとに取材を重ねた。その結果、みえてきたのは、大手通信事業者は、ITベンダーらと敵対するのではなく、“協調路線”を歩もうとしている姿だった。通信インフラという、基盤となる技術を武器としながらも、自らにアプリケーション開発のノウハウがないという弱点をよく認識しており、その弱点を「協業」によって補おうというスタンスが浮き彫りになった。SaaS/クラウドが本格化するにつれ、両者の蜜月度合いはさらに深まる様相を示している。