リーマン・ショック後、国内IT市場は大幅に冷え込んだ。ユーザー企業はIT投資を控え、ベンダーの業績にもはっきりとその影響が現れた。IDC Japanの調査によると、2010年の中堅・中小企業企業(SMB)市場のIT投資額は、全地域でマイナス成長となる見込み。一部地域を除き、改善傾向にあるとしたものの、本格的な回復基調に入るのは2011年以降となる見込みだ。もっとも、経済不況の真っ只中にあって、好調を維持したERP(統合基幹業務システム)ベンダーも少なくない。“仕込み”次第で状況は好転することの証といえるだろう。ERPベンダーは、流通・販売戦略を見直す時期を迎えている。
IT投資の“節約型”と“積極投資型” ユーザー企業がIT投資を決断するタイプは“節約型”と“積極投資型”に大別できる。“節約型”は、「インフラ面の陳腐化で、5年間のリプレースが我慢できないユーザー」(住商情報システムの井本勝也・執行役員ProActive事業部長)やシステムの保守サポート期限切れなど。“積極投資型”は、グループ企業の会計システムの統合による会計処理の効率化や、新進のベンチャー企業、製造業の企業が進める海外展開を目的とするIT投資だ。
“節約型”、最低限のIT投資で NTTデータシステムズの荒田和之社長は、「ユーザー企業は慎重になっている。明るい兆しは見え始めているが、いまだ厳しい状況に変わりない」とみる。「2009年は、節約型が主流で最低限の投資だった。基幹系は先送りされていた」と振り返るのは、OSKの田中努専務。受注案件の内訳をみると、レガシーシステムからのリプレースが少なくない。OSKでは、旧バージョンの「SMILE」からのリプレースが多くみられた。徐々に、新規率も向上しつつあるようだ。キヤノンITソリューションズの柏原誠司・ソフトウェアソリューション本部ソリューション販売支援センター副センター長ERPソリューション販売支援部部長は、「レガシーシステムのユーザーも限界に近づいている」と、需要の高まりを感じている。新しくシステムを導入するにあたっては、アドオンを極力抑えたいユーザー企業のニーズがある。「スクラッチベースのユーザーが多かったが、「安く、早く」の流れに来ている。ユーザーは、なるべく作り込まないことを意識している」(NTTデータシステムズの荒田社長)。
国内IT市場は収縮の一途をたどっているだけに、少ないパイをベンダーが奪い合う構図となっている。ユーザー企業からの価格引下げ圧力は大きく、体力勝負が続いているのが実状だ。エス・エス・ジェイの「SuperStream」を販売する日立情報システムズの菅生肇・産業・流通情報サービス事業部産業第一システム本部第二設計部担当部長は、「価格面で競合に負けている可能性がある。競合ベンダーもぎりぎりで戦っている」と、窮状を明かす。OSKでも「平均単価が下がっている」(田中専務)という状況だ。
ベンダーにとって、ハードウェア・ソフトウェアの保守サポート期限切れも案件獲得の一つのチャンスだ。すでに販売を終了している「NEXERP(ネクサーブ)」は、2012年に保守サポート期限切れを控えており、NECネクサソリューションズは、500社の「NEXERP」ユーザーのうち100社について後継製品「EXPLANNER/Ai」に移行済み。「この1年で、残りのユーザーに乗り替えてもらう」(NECネクサの安達博哲・ソリューション・サービス事業推進部ERPソリューション推進部長)と、意気込みを語る。
「SuperStream」や「Galileopt」「GRANDIT」を販売するみずほ情報総研は、「保守切れでやむなく会計パッケージだけ導入するケースが多くみられる」(井上和行・法人ソリューション第3部上席課長)と状況を語る。
“積極投資型”、M&Aなどが契機 近年、SMBに注力してきたSAPジャパンは、新規案件が伸び、成長の速度を早めている。年商100億円規模の「老舗の製造業というよりは、むしろ成長企業に受け入れられてきた」(岡村崇・地域統括営業本部・バイスプレジデント)という。「攻め」の経営でSAPを選択する成長企業が目立つようだ。同社のユーザーで、Eコマース事業やメディアビジネスを展開するゴルフダイジェスト・オンラインは、海外進出も睨んでおり、変化と成長に対応できるパッケージの選定を進めていた。結果的に白羽の矢が立ったのがSAPだった。ゴルフダイジェスト・オンラインは当初、「SAPは高価」というイメージを抱いていたが、「1億円でも導入できる。安さを求めれば、2000万円でも可能」(岡村・バイスプレジデント)という価格提示を受けて、導入を決定した。
日本オラクルの場合も、成熟した国内市場での行き詰まりから海外展開に乗り出すユーザー企業が目立つようになったそうだ。需要の様相が、オフコンのリプレースから変化し始めたというのだ。現場では、「3年後にあるべきシステム像を描いて提案するケースが増えている」(野田由佳・アプリケーション事業統括本部JDE本部ビジネス推進担当ディレクター)。
国産ベンダーに目を移すと、住商情報システムは、「ProActive E2」事業が好調に推移。製造業向けで苦戦したが、流通業のグループ企業の会計システム統合などで売り上げを伸ばし、3期連続で増収増益となった。
SMBでもM&Aが進展し、それに伴うグループ統合や生産統合、グループ内のシェアードサービスによるシステム共通化などがIT投資のトリガーとなっている。
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