SIerが海外ビジネスを立ち上げるには、日本側でこれを支えるカウンターパートナー役を担うキーパーソンの存在が不可欠である。SIerの主たる進出先である中国・ASEANのSIビジネスを中心に、最前線で試行錯誤しながらビジネスを支援するカウンターパートナーの姿を追った。(取材・文/安藤章司)
日本本社の意識改革が不可欠
ビジネスのグローバル化に適応せよ
中国・ASEANを中心とする海外の成長国での日系企業のビジネス拡大は、結果として日本本社の意識改革を促すことになる。従来の国内型のビジネス形態のままでは、海外ビジネスの成長の速度に追いつけないばかりか、足を引っ張りかねないからだ。ITベンダーは、海外ビジネスの比重拡大という変化への適応に迫られている。この特集では、試行錯誤を繰り返しながらも解決策を見出そうとしている日本側のカウンターパートナーの動きをレポートする。
三つの“関所”をなくせ  |
EnMan Corporation 今泉勝雄社長 |
SIerの海外ビジネス形態は、(1)既存顧客の海外進出をITの側面からサポートする、(2)海外地場のビジネスを開拓する、(3)海外の割安な人件費と豊富な人材を活用してのオフショアソフト開発を行う──の三つに大別できる。(1)と(3)については、国内ビジネスの延長線上にあるので難易度は高くはなく、それほど大きな問題も発生しにくい。問題は(2)の海外地場ビジネスであり、乗り越えなければならないハードルは高い。国内主要SIerは、とりわけアジアの成長国でのビジネス拡大を目指しているものの、この過程で日本側の国内指向の思考ロジックや組織形態がネックになるケースが出てきている。
アジアITビジネス研究会理事でアジアビジネスに詳しいEnMan Corporationの今泉勝雄社長は、「多くの日系ITベンダーで三つの“関所”がある」と指摘する。一の関は「言語の壁」、二の関は「日本的な思考ロジック」、三の関は「日本的な決断」。海外ビジネスの現場にある情報を100とすると、関所をくぐるごとに情報が失われていき、最終的には「10分の1くらいに萎縮することも珍しくない」(今泉社長)という。判断材料として十分でないばかりか、経営決断そのものが別のものに変質し、現場や顧客のニーズとかけ離れたものになってしまう。
言語の壁(一の関)は、海外法人のトップに外国語が堪能でない日本人社長が就くケースで発生する。当然、日本的な思考ロジック(二の関)を持ち込み、重要な経営判断を日本の本社役員会に上げても、海外法人の幹部が日本本社の役員に就いているわけではないので、極めて日本的な決断(三の関)が下されてしまう。 前述(1)の日系顧客のサポートや(3)のオフショアソフト開発のケースならさほど問題にならなくても、外貨を稼ぐために欠かせない地場の成長市場でシェアを伸ばすには、この三つの関所は致命的な壁になりかねない。グローバル市場で百戦錬磨の腕を磨いてきた欧米有力ベンダーや、急速に力をつけてきているアジア成長国のベンダーとの競争に勝つのは難しいだろう。
橋渡しという重要な役割 では、どうしたらいいのか。結論からいえば、関所をなくす、あるいは関所で失われる情報をできる限り少なくすることである。海外法人のトップや幹部に、地場市場に精通し、人脈をもつ人材を登用して権限を委譲する。日本的な思考ロジックを無理強いしない環境をつくる。最終的には海外法人トップが日本本社の役員を兼務し、役員会での経営判断に参画できるようにすることが望ましい。国内事業をみている役員だけで役員会を開くと、これから伸ばしていかなければならない海外事業の議論は、二の次、三の次になってしまうことが容易に考えられる。国内の成熟市場で汲々とした議論を繰り返す日本本社の役員会で、海外の成長市場の議論を行うことには無理があるというものだ。
とはいえ、一足飛びにそこまで海外ビジネスを拡大させられるかといえば、これも難しい。そこで活躍するのが日本側カウンターパートナーの存在である。成長途上にある海外法人と日本の経営層、事業部門との橋渡し役を担う人材だ。多くのSIerにとって、ようやくアジア成長国でのビジネスの足がかりを築こうとしているフェーズであり、「まだ独立会社としての体をなしていないケースが多くを占める」(大手SIerのカウンターパートナー)のが現状だという。海外法人のビジネスや人材育成の進捗に応じ、日本側カウンターパートナーが中心となって適切な支援を行うことで、海外法人のビジネスを円滑に推進していくことが求められている。
NTTデータや野村総合研究所(NRI)など、先行するSIerの動きをみると、海外法人の独立性、自立性を重んじる傾向がうかがえる。これを一つの成功パターンとするなら、自社の海外法人の成熟度に合わせたステップアップの道筋をつけていく必要がある。カウンターパートナーは、経営層が目指す海外ビジネスの目標や戦略に沿って海外法人を支援するとともに、こうした成熟度に応じたステップを用意することで、現地でのビジネスが迅速に運ぶ仕組みづくりも欠かせない。
次ページからは、SIer海外ビジネスの成熟度ステップに沿って、主要SIerのカウンターパートナーの動きをレポートする。
カウンターパートナーとは
異なる組織間で連絡役となるキーパーソンを指す。主に国際業務で使われることが多い用語である。SIerが海外進出する際には、海外グループ会社のビジネスを円滑に進めるために、日本側に対海外法人の支援役としてカウンターパートナーを置くのが一般的だ。例えば、海外事業推進部門や各事業部門の海外担当者、あるいはより踏み込んで担当役員を置いたり、社長を退いた会長職が自ら海外法人のビジネス支援を担うカウンターパートナー役を務めたりするケースもみられる。
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