急成長する巨大市場・中国への日系SIerの進出が著しい。従来のオフショア開発のビジネスに加え、地場企業のIT投資を捉えたSIビジネスの拡大を意欲的に推進する。現地で活躍する日系SIerの最前線を取材した。
中国地場のIT需要を狙う
対日オフショア開発、色褪せる
質的変化に直面 日々、華々しい経済発展が伝えられる中国──。日本の情報サービス産業にとって、隣国の巨大市場は大いに魅力的である。だが、すべてがバラ色に染まっているわけではない。ガートナージャパンの調査によれば、日本からのオフショア開発は2009年、金額ベースで前年比7.6%も減少した。04年以降、毎年30%前後の勢いで拡大し、うち中国でのオフショア開発が全体の8割余りを占める。ところが、昨年は日本のSIerなどが外注費を大幅に削減。中国での、いわゆる「対日オフショア開発ビジネス」が大打撃を食らった。
「中国でのソフト開発は減らさない」と、明言してきた野村総合研究所(NRI)でさえ、10年3月期の中国オフショア開発規模は、2年連続で減少。08年3月期は160億円を超えていた発注金額が、10年3月期には130億円前後まで落ちた。中国を中心とするアジアに“第二のNRIをつくる”ことを戦略目標としている同社にとって、中国でのビジネス縮小は大きな課題だ。あるNRI関係者は、「国内パートナーへの発注量は、実はさらに大きい比率で下がっている。これでも中国パートナーには重点的に発注してきた」と明かす。
今期(11年3月期)、NRIの中国でのオフショア開発は、増加に転じる見込みだが、中国重視を明確に打ち出す同社でさえ、ここ2年はオフショア開発の規模を縮小せざる得ない状況。他の一般的な日系SIerの中国オフショア開発が、大幅に落ち込んだのは推して知るべしである。
中国でのオフショア開発人員の余剰感が強まるとともに、日本国内の情報サービス市場の飽和感も増す。日本からの発注が劇的に増える見込みが薄くなるなか、中国へ進出する日系SIerと地場の開発パートナーの多くは、急拡大する中国国内のIT需要に目を向け始めている。
新たなニーズが生まれる  |
北京コア 馬聡 総経理 |
組み込みソフト開発を強みとする有力SIerのコアは、北京エリアを中心に中国地場のビジネス開拓に力を入れる。経済危機以降の製造業不振によって、日本の組み込みソフト開発は大きな打撃を受けた。もちろんコアも例外ではない。コアの中国北京の現地法人である北京コアでは、機器に組み込んだソフトが設計通りに動作するかどうかを検証する第三者検証サービスを手がけていた。だが、携帯電話や情報家電などのIT機器の新規開発の延期や凍結が相次ぎ、北京コアへの第三者検証の発注量も減少。担当人員の配置換えや規模縮小を余儀なくされた。
そこで着目したのが、コアグループ独自で開発したIT資産管理システム「ITAM(アイタム)」だ。このシステムは、構成管理データベースを駆使し、ソフトウェアのライセンスやパソコン、ネットワーク機器などのIT資産を管理するもの。中国企業の多くは急速なIT化で、IT資産が膨れあがっている。これを効率的に管理するニーズが新たに生まれていると判断したからだ。
ポイントとなるのが、ソフトウェアライセンスの管理。正規版のソフトの使用率が低いとして、国際的な問題にもなっている中国では、政府機関の指導の下、ライセンスの適正使用に取り組んでいる。政府系の機関はもとより、民間ではまず上場企業に対処を求めている。こうしたコンプライアンス需要の高まりとの相乗効果で、「ITAMの引き合いが急増している」(北京コアの馬聡総経理)と、これまでの中国には、ほとんど水面下に埋もれていた市場が、急速な勢いで顕在化してきているのだ。
5年ほど前までは、北京コアの売上高のうち、日本向けのビジネスが約9割を占めていたが、2009年12月期は、検証サービスなど対日オフショア開発のボリュームが減ったこともあり、中国地場向けが3割余、日本向け6割余の構成比に変化。今期(2010年12月期)は、ITAMなど地場系のビジネスが伸びる傾向にあることから、北京コア全社の売り上げを前年度比で「3割ほど伸ばす」(馬総経理)と、強気の姿勢で臨む。
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