海外事業の成熟度に差
ステップに応じた支援を
SIerをはじめとする日本の情報サービス業にとって、海外ビジネスはようやく立ち上がり始めたばかりだ。だが、横並びというわけではなく、ここ数年、徐々に立ち上がりの度合いに差がつき始めているのも事実である。ここでは主要SIerの海外事業の成熟度モデルをベースに、カウンターパートナーの取り組みを紹介する。
ロールモデルが現れ始める 下図に示したのは、主要SIerの海外事業における成熟度モデルである。国内最大手のNTTデータは2012年1月から、順次、世界5拠点体制への移行を開始した。成長市場であるアジアは中国とAPAC(アジア・太平洋地域)、日本の3拠点体制、これに米州とEMEA(欧州・中東・アフリカ地域)が加わる。
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野村総合研究所(NRI) 西川義昭部長 |
中国では、昨年末までに旧NTTデータチャイナと旧北京NTTデータが合併して発足した新生・NTTデータチャイナが事実上の地域統括会社の役割を担う。約15社、およそ4000人からなるグループ会社と、5社の一部出資会社の計約20社をとりまとめる。中国では今年4月から順次、米州ではひと足早い1月から地域統括本社体制へと移行を開始した。他の地域でもNTTデータブランドで地域を統括する“One NTT DATA”体制へと舵を切る。
野村総合研究所(NRI)は、アジアで第二のNRIを立ち上げることを目標に掲げ、戦略コンサルティングとシステム構築(SI)の両面から海外法人を展開している。まず、軌道に乗ってきたのは中国における戦略コンサルティングビジネスだ。中国版スマートコミュニティや都市開発など政府系案件から製造や流通・サービス業といった民需部門まで、幅広くビジネスを手がける。
2012年1月、今年最初の部長会は上海で開いた。東京やモスクワ、インド・ASEANなどアジア各拠点から20人ほど部長が集まり、侃々諤々の議論を展開。中国ビジネスに深く関わるNRIの西川義昭・消費財・サービス産業コンサルティング部長は、「ビジネスの中心はすでに成長国に移りつつあると実感した」と話す。こうした地政学的ポジションから中国で戦略コンサルティング事業を手がける海外法人NRI上海の存在感も高まっている。
支援の腕の見せどころ  |
日立ソリューションズ 丸岡祥二担当本部長 |
NTTデータやNRIの戦略コンサルティング部門が、一つのロールモデルだとすれば、進むべき方向性は徐々にみえてくる。
日立ソリューションズは、2011年10月、中国北京に現地法人を立ち上げて、上海や広州など主要都市に営業やサポート、開発を担う拠点網の整備を進めている。NTTデータがビジネスパートナーを含めておよそ20社からなる拠点網を中国で展開していることを踏まえると、「今は拠点や開発体制を整備し、企業としての競争力を高めようとしている段階」と、日本側でカウンターパートナーを務める日立ソリューションズの丸岡祥二・グローバルビジネス営業本部担当本部長は話す。
ITホールディングス(ITHD)やJBCCホールディングス、新日鉄ソリューションズも中国・ASEANを中心に多拠点化を意欲的に推進しており、図の成熟度モデルにあてはめれば、“ステップ3”の段階に到達しているといえる。
この段階で最も重要なのは、いかにしてビジネスを立ち上げるか、だ。日立ソリューションズの丸岡担当本部長は、「企業としての枠組みはできつつあるが、日立ソリューションズが長年培ってきたビジネスモデルを、どう優先順位をつけて、海外へ移植していくかがポイントになる」とみており、日本側からの全面的な支援が欠かせないと話す。いわば、日本側カウンターパートナーの“腕の見せどころ”でもあるが、うまく優先順位をつけられず、地場顧客のニーズを取りこぼすようなことになれば、立ち上がるものも立ち上がらなくなってしまう。
国内のような成熟市場とアジア成長国の最も大きな違いは、時間感覚の違いである。年率2ケタ近い経済成長を遂げる環境下では、情報システムの完成度の高さよりも、稼働までのリードタイムの短さがより重視される。高度成長期特有のビジネス環境の変化が日々起こっており、業務アプリケーションの手直し一つをとっても「とにかく今、変えてほしいという要望が強い。成熟市場の感覚で『来年度のバージョンアップ計画に織り込みます』などといった悠長な返事は通用しない」と丸岡担当本部長は実状を語る。業務アプリケーションの開発スケジュールそのものを成長国仕様に改めなければならないのだ。
クラウドを前面に据える ビジネスがまだ十分に立ち上がっていないフェーズでは、ビジネスモデルを海外法人とともに練り上げるのも日本側カウンターパートナーの重要な使命である。成長市場では、今の成熟市場が歩んできたプロセスを飛び越えて、最新技術をビジネスに取り入れる傾向が強い。例えば、手組みの業務アプリケーションを大型汎用機で動かすレガシーシステムのステップを飛び越えて、あたりまえのようにクラウドを活用したサービス型の業務システムを取り入れるユーザーも多い。
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