「週刊BCN 創刊40周年記念特集 複合機・プリンタ市場の激震 前編」はこちら

 プリンタビジネスの新しい可能性を追求する動きが活発化している。大都市圏でのリモートワーク定着化で、オフィス向け複合機市場のプリントボリュームは伸び悩んでおり、前号で取り上げたように、ここを主戦場としてきた大手複合機ベンダーが急速にITソリューション領域のビジネスを拡大している。一方で、従来、中堅中小企業を主要顧客としてビジネスを展開してきたプリンタメーカー系ベンダーは、独自の新しい切り口でビジネスを伸ばすための施策を矢継ぎ早に打ち出している。
(取材・文/安藤章司)

週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。

オンラインで顧客体験を向上

 ブラザー販売はこの7月、大容量インクジェットモデルを大幅に拡充し、月額定額のサブスクリプションサービスを開始した。インクの消費量に応じたポイント還元など、新しい施策を続けざまに発表。印刷ボリュームが比較的多いSOHOでの使い勝手をよくするとともに、プリンタをオンラインでつなげることで顧客体験の向上を図る。

 大容量インクや定額サービス、オンラインサービスの組み合わせで、「ビジネスモデル転換の節目となる」と三島勉社長は話す。従来、ややもすれば“売って終わり”の売り切り型のビジネスだった小規模事業者向けのプリンタビジネスから、継続的にサービス提供して売り上げを伸ばすビジネスへと変えていく。短期的な販売台数の伸びにはつながらないかもしれないが、使い勝手や顧客体験を改善し続けることで長くサービスを利用する顧客が増え、中長期的に見てブラザー販売が主戦場とするSOHO市場でのビジネス拡大につながるとみている。
 
ブラザー販売 三島勉 社長

 一般家庭向けのインクジェットプリンタ市場は、カラープリントの一大需要だった年賀状や暑中見舞いの需要が減り、ソーシャルメディアなどを媒介にスマートフォンの画面で写真を閲覧するなど、ペーパーレス化が進行している。その一方で、コロナ禍によって大都市圏を中心にリモートワークが定着して一般家庭がSOHO化している状況もある。ブラザー販売の調査によれば、家庭において最も頻度が高いプリンタの使用目的は、従来の写真印刷などの趣味、挨拶状に続いて、在宅勤務での使用が第3位に入った。

 かねてからブラザー販売が注力市場と位置づけてきた店舗や診療所、作業所などの現場系のプリント需要は減少していないことから、コロナ禍で台頭してきた一般家庭でのビジネス用途のプリント需要を掘り起こすことで、「まだまだ(プリンタビジネスで)継続的な成長が可能だ」と三島社長は手応えを感じている。

 SOHOを主な販売ターゲットとしたブラザー販売の定額サービス「フラット12」の最も安い料金プランは、モノクロ、カラーを問わず、年6000枚で月額税込8800円。月ごとのプリント枚数が大きく変動しても料金は一定だが、上限枚数を超えると1枚5円の超過料金がかかる。設置や保守サービス込みで最低5年契約となっている。

 フラット12は国内向けサービスだが、経済成長に伴うインフレが続いている欧米主要国の市場では、インフレによる価格上昇の影響を受けない5年契約は魅力的だという声が大きいという。実質デフレ状態が続いている国内でそうした観点での評価が得られるかは不透明だが、国内向けには顧客体験の向上とエンゲージメント強化に力点を置く一方、コストパフォーマンスを前面に押し出して欧米市場でのヒットを狙う手もありうる。