Special Feature
複合機・プリンタ市場の激震(後編)プリンタの新しい可能性を追求 ニューノーマル時代の新需要を掘り起こす
2021/08/12 09:00
週刊BCN 2021年08月09日vol.1886掲載

「週刊BCN 創刊40周年記念特集 複合機・プリンタ市場の激震 前編」はこちら
プリンタビジネスの新しい可能性を追求する動きが活発化している。大都市圏でのリモートワーク定着化で、オフィス向け複合機市場のプリントボリュームは伸び悩んでおり、前号で取り上げたように、ここを主戦場としてきた大手複合機ベンダーが急速にITソリューション領域のビジネスを拡大している。一方で、従来、中堅中小企業を主要顧客としてビジネスを展開してきたプリンタメーカー系ベンダーは、独自の新しい切り口でビジネスを伸ばすための施策を矢継ぎ早に打ち出している。
(取材・文/安藤章司)
週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。
オンラインで顧客体験を向上
ブラザー販売はこの7月、大容量インクジェットモデルを大幅に拡充し、月額定額のサブスクリプションサービスを開始した。インクの消費量に応じたポイント還元など、新しい施策を続けざまに発表。印刷ボリュームが比較的多いSOHOでの使い勝手をよくするとともに、プリンタをオンラインでつなげることで顧客体験の向上を図る。大容量インクや定額サービス、オンラインサービスの組み合わせで、「ビジネスモデル転換の節目となる」と三島勉社長は話す。従来、ややもすれば“売って終わり”の売り切り型のビジネスだった小規模事業者向けのプリンタビジネスから、継続的にサービス提供して売り上げを伸ばすビジネスへと変えていく。短期的な販売台数の伸びにはつながらないかもしれないが、使い勝手や顧客体験を改善し続けることで長くサービスを利用する顧客が増え、中長期的に見てブラザー販売が主戦場とするSOHO市場でのビジネス拡大につながるとみている。
一般家庭向けのインクジェットプリンタ市場は、カラープリントの一大需要だった年賀状や暑中見舞いの需要が減り、ソーシャルメディアなどを媒介にスマートフォンの画面で写真を閲覧するなど、ペーパーレス化が進行している。その一方で、コロナ禍によって大都市圏を中心にリモートワークが定着して一般家庭がSOHO化している状況もある。ブラザー販売の調査によれば、家庭において最も頻度が高いプリンタの使用目的は、従来の写真印刷などの趣味、挨拶状に続いて、在宅勤務での使用が第3位に入った。
かねてからブラザー販売が注力市場と位置づけてきた店舗や診療所、作業所などの現場系のプリント需要は減少していないことから、コロナ禍で台頭してきた一般家庭でのビジネス用途のプリント需要を掘り起こすことで、「まだまだ(プリンタビジネスで)継続的な成長が可能だ」と三島社長は手応えを感じている。
SOHOを主な販売ターゲットとしたブラザー販売の定額サービス「フラット12」の最も安い料金プランは、モノクロ、カラーを問わず、年6000枚で月額税込8800円。月ごとのプリント枚数が大きく変動しても料金は一定だが、上限枚数を超えると1枚5円の超過料金がかかる。設置や保守サービス込みで最低5年契約となっている。
フラット12は国内向けサービスだが、経済成長に伴うインフレが続いている欧米主要国の市場では、インフレによる価格上昇の影響を受けない5年契約は魅力的だという声が大きいという。実質デフレ状態が続いている国内でそうした観点での評価が得られるかは不透明だが、国内向けには顧客体験の向上とエンゲージメント強化に力点を置く一方、コストパフォーマンスを前面に押し出して欧米市場でのヒットを狙う手もありうる。
サブスク化で選択肢拡大
定額サービス「エプソンのスマートチャージ」で先行するエプソン販売は、プリンタのサブスクリプションサービス化がユーザーの選択肢を着実に広げていると見ている。例えば学校では、本来ならカラープリントのほうが理解が進みやすい教材でも、現場にモノクロ機しかなかったり、費用節約のためにモノクロ印刷しかしないケースが垣間見られた。しかしスマートチャージによって「カラープリントの活用割合が増えた」と子田吉之・販売推進本部スマートチャージMD部部長は話す。
定額サービスはインクの消費量をオンラインで把握するため、常にユーザーとつながっている状態になる。ユーザーの実際のプリント量に合わせて最適なプランを提案できるようになるなど、顧客体験の維持向上に役立つサービス提供の重要なチャネルと言える。
エプソン販売では、スマートチャージユーザーの稼働状況を分析する専門の部署があり、不具合の予兆を検知し、実際に不具合が出る前に部品交換に出向いたり、使用状況の変化に合わせて料金プランを提案したりといったきめ細かいサービスを提供して、顧客満足度向上やユーザー拡大につなげているという実績がある。
オンライン活用は定額サービスだけにとどまらない。エプソンの強みである写真画質のプリンタは写真愛好家の御用達機材にもなっており、「これまでオフラインが中心だった写真愛好家との情報交換も、オンライン化の比率を高めていきたい」(中野雅陽・取締役販売推進本部長)とする。ビジネス層、写真愛好者層など顧客の属性別にデジタル化を進めて顧客の定着、シェア安定につなげていく。商業印刷の分野においても、「PORT(ポート)」の名称でのオンラインサービスを提供しており、機器の稼働状況や異なるプリンタ同士で色合わせの設定情報を共有し、プリント品質に差が出ないよう支援するサービスも始めている。
“令和型オフィス”へ変革支援
大都市圏の一般オフィス向け複合機のプリントボリュームは、コロナ収束後も、リモートワークの定着で「8割程度しか回復しない」(複合機大手幹部)との見方がある。エプソン販売は環境性能や共創をキーワードに、既存のレーザープリント方式の複合機のリプレースや、店舗や学校、病院・診療所、自治体などリモートワークの影響が及ばない現場系の市場、商業印刷分野でのシェア拡大に努める。インクジェットの消費電力はレーザープリンタに比べておおよそ20%程度に抑えられるという環境面でのメリットを強くアピールする。また、「業種に強いSIerやユーザー企業との共創によって、価値の高い成果物を出力できるよう努めていく」(中野取締役)としている。一方、コニカミノルタジャパンは別の角度からこれからのオフィス需要にアプローチする。複合機ビジネスの発展形としてオフィスそのものの変革を提唱する戦略だ。
大都市圏のオフィスは、「毎日通う場所」から「必要に応じて利用する場所」へと変わろうとしている。誰かと打ち合わせをしたり、集中できる場所として利用したり、外回りの合間にオンライン商談するスペースの確保であったりと多様だ。事務机で島をつくって肩を寄せ合って黙々と作業をする“昭和型”のオフィスから脱却し、コロナ後に求められる“令和型オフィス”のモデルとして、コニカミノルタジャパンはこの7月に「つなぐオフィス」を発表(写真参照)した。
相互理解を深めるエンゲージメント、オンライン商談・会議、周囲の雑音を遮断した集中スペースなど、複数の異なる目的の空間を組み合わせたオフィス設計を意図しているという。入退室から複合機、パソコンのログインなどは全て顔認証で行い、非接触化も進める。
同社はつなぐオフィスに、複合機ビジネスとの大きな相乗効果を期待しているという。オフィスでのプリントボリュームを回復させるには、「働き方が変わったあとでも、オフィスに来たくなるオフィス変革が欠かせない」と、コニカミノルタジャパンでデジタルワークプレイス事業を担う松野克哉・取締役営業本部長は話す。
プリンタとエッジ/IoTを融合
小型化が容易で消費電力が少なくて済むインクジェットの強みを生かすブラザー販売やエプソン販売、オフィスを丸ごとアップデートして複合機も目下の需要に最適化した提案をしていく方針のコニカミノルタジャパンに対し、沖電気工業(OKI)はより尖った戦略を打ち出す。一般的なオフィス市場と距離を置き、店舗や工場などの現場業務に焦点を当てるとともに、プリントエンジンの技術とAIエッジ/IoT端末との融合を進めている。
OKIはAIエッジコンピューティングや各種センサーを使ったIoT端末で強みがあり、これらから操作者・作業者に情報を受け渡す役割をプリンタに担わせる。そのほか、病院や自治体のキオスク端末に組み込むプリントエンジンを、小売店舗の棚札作成に応用することなども想定している。「AIエッジ/IoTシステムの構築と歩調を合わせてプリンタエンジンを売り込んでいく」(井上崇・情報機器事業部事業部長)構えだ(図参照)。

OKIのページプリンタの光源はLED方式を使用しており、「熱がこもりやすいキオスク端末への組み込みにも適している」(大槻重雄・情報機器事業部シニアスペシャリスト)と技術的優位性もある。直近のプリンタエンジンのOEMや組み込みはプリンタ事業全体の2割弱を占めるに過ぎないが、向こう3年で4割程度に拡大させていく。

「週刊BCN 創刊40周年記念特集 複合機・プリンタ市場の激震 前編」はこちら
プリンタビジネスの新しい可能性を追求する動きが活発化している。大都市圏でのリモートワーク定着化で、オフィス向け複合機市場のプリントボリュームは伸び悩んでおり、前号で取り上げたように、ここを主戦場としてきた大手複合機ベンダーが急速にITソリューション領域のビジネスを拡大している。一方で、従来、中堅中小企業を主要顧客としてビジネスを展開してきたプリンタメーカー系ベンダーは、独自の新しい切り口でビジネスを伸ばすための施策を矢継ぎ早に打ち出している。
(取材・文/安藤章司)
週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。
オンラインで顧客体験を向上
ブラザー販売はこの7月、大容量インクジェットモデルを大幅に拡充し、月額定額のサブスクリプションサービスを開始した。インクの消費量に応じたポイント還元など、新しい施策を続けざまに発表。印刷ボリュームが比較的多いSOHOでの使い勝手をよくするとともに、プリンタをオンラインでつなげることで顧客体験の向上を図る。大容量インクや定額サービス、オンラインサービスの組み合わせで、「ビジネスモデル転換の節目となる」と三島勉社長は話す。従来、ややもすれば“売って終わり”の売り切り型のビジネスだった小規模事業者向けのプリンタビジネスから、継続的にサービス提供して売り上げを伸ばすビジネスへと変えていく。短期的な販売台数の伸びにはつながらないかもしれないが、使い勝手や顧客体験を改善し続けることで長くサービスを利用する顧客が増え、中長期的に見てブラザー販売が主戦場とするSOHO市場でのビジネス拡大につながるとみている。
一般家庭向けのインクジェットプリンタ市場は、カラープリントの一大需要だった年賀状や暑中見舞いの需要が減り、ソーシャルメディアなどを媒介にスマートフォンの画面で写真を閲覧するなど、ペーパーレス化が進行している。その一方で、コロナ禍によって大都市圏を中心にリモートワークが定着して一般家庭がSOHO化している状況もある。ブラザー販売の調査によれば、家庭において最も頻度が高いプリンタの使用目的は、従来の写真印刷などの趣味、挨拶状に続いて、在宅勤務での使用が第3位に入った。
かねてからブラザー販売が注力市場と位置づけてきた店舗や診療所、作業所などの現場系のプリント需要は減少していないことから、コロナ禍で台頭してきた一般家庭でのビジネス用途のプリント需要を掘り起こすことで、「まだまだ(プリンタビジネスで)継続的な成長が可能だ」と三島社長は手応えを感じている。
SOHOを主な販売ターゲットとしたブラザー販売の定額サービス「フラット12」の最も安い料金プランは、モノクロ、カラーを問わず、年6000枚で月額税込8800円。月ごとのプリント枚数が大きく変動しても料金は一定だが、上限枚数を超えると1枚5円の超過料金がかかる。設置や保守サービス込みで最低5年契約となっている。
フラット12は国内向けサービスだが、経済成長に伴うインフレが続いている欧米主要国の市場では、インフレによる価格上昇の影響を受けない5年契約は魅力的だという声が大きいという。実質デフレ状態が続いている国内でそうした観点での評価が得られるかは不透明だが、国内向けには顧客体験の向上とエンゲージメント強化に力点を置く一方、コストパフォーマンスを前面に押し出して欧米市場でのヒットを狙う手もありうる。
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- エプソン販売 サブスク化でユーザーの選択肢拡大
- コニカミノルタジャパン “令和型オフィス”へ変革支援 複合機ビジネスとの大きな相乗効果を期待
- 沖電気工業(OKI) プリンタとエッジ/IoTを融合
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