Special Feature
複合機・プリンタ市場の激震(前編)オフィス再編・縮小に立ち向かう
2021/08/05 09:00
週刊BCN 2021年08月02日vol.1885掲載

大都市部を中心にオフィス再編・縮小の動きが加速し、オフィス市場を主戦場とする大手複合機ベンダーのビジネスには向かい風が吹いている。リモートワークを全面的に取り入れ、低い出社率を前提としたオフィスの設計が一般化すれば、複合機の稼働台数や稼働量の低下につながる可能性は高い。主要ベンダーは複合機やプリンタ、カメラといったデバイスと連動して動くITソリューションへとビジネスの領域を急ピッチで広げている。全国に張り巡らせた営業網をフルに生かし、とりわけ中堅・中小企業ユーザーの経営的、業務的な課題解決に力を入れている。
(取材・文/安藤章司)
週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。
出社率3~5割でオフィスを再編
オフィスで使われる複合機は、コロナ禍で稼働量が大きく低下した。コロナ禍が収まれば一定量は回復するとみられるが、それでも大都市部を中心に「以前の水準には戻らない」(複合機ベンダー幹部)と見られている。一例を挙げると、NTTコミュニケーションズの昨年度(2021年3月期)の複合機・プリンタの印刷枚数は全社で前年度比57%減少し、A4用紙換算で1600万枚の削減となった。一方、従業員満足度調査では、在宅勤務やサテライトオフィスなど働く場所を選ぶ自由度が飛躍的に高まったことを受けて、男女とも満足度が向上。中でも女性従業員の満足度が初めて男性従業員と並ぶ水準まで高まった。モチベーションや生産性の向上につながっているとして、同社は首都圏の主要なオフィスを3分の2に集約し、オフィスへの出社率3割程度を想定したオフィス再編に取り組む。
出社率3~5割を前提とした首都圏のオフィス面積の縮小・再編は、情報・通信系企業のみならずほかの業種でも広がりを見せており、大都市圏のオフィス市場でシェアを持つ複合機ベンダーにとって、リモートワークによる複合機の稼働量の低下はビジネスに大きな打撃となる。
リコージャパンの坂主智弘社長は、「プリントボリュームはコロナ禍に関係なくジリジリと下がることは織り込み済み。ただ、コロナ禍で前倒しになった」と、ペーパーレス化や業務のデジタル化の進展を踏まえ、手は打ってきたと話す。具体的には建設や製造、不動産、福祉・介護、流通・小売り、食品製造・卸といった業種別のITソリューション「スクラムシリーズ」の開発に力を入れており、複合機の減収分を補う役目を果たしている。
例えば建設業向けでは、遠隔地にいる担当者とリアルタイムに情報をやり取りできる仕組みや、CADデータを社内外で共有する機能など、業種ごとの課題を解決する具体的な解決策をひとまとめにしてあるのが特徴。中小企業向けには「スクラムパッケージ」として販売し、中堅企業向けにはカスタマイズができるよう部品化した「スクラムアセット」として販売することも可能だ。今年6月には自然言語処理AIを活用した「仕事のAI」を商品化。第一弾として食品業界向けに、エンドユーザーの声をAIで分析し「顧客満足度にマイナス影響が出る前の予兆を検知し、適切な対応ができるよう支援する」(リコーの梅津良昭・デジタル技術開発センター所長)サービスを始めている。
ITビジネスが複合機ビジネスを上回る
リコージャパンはスクラムシリーズや仕事のAIといった業務アプリを支える基盤としてAI-OCRやチャットボット、PDF変換ツールなどのツール群を集約した「EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES(EDW)プラットフォーム」を開発。これとスクラムシリーズを合わせたITソリューションのポートフォリオを「RICOH Digital Processing Service(RDPS)」という形で体系化している(図1参照)。その上で、リコー製の複合機やプリンタ、カメラ、マイク、プロジェクターなどを、EDWプラットフォームと密接に連携するエッジデバイスとして位置づけた。
昨年度(21年3月期)第4四半期は、国内でのスクラムシリーズの売上高が前年同期比89%増と大きく伸びた。21年3月の単月でスクラムパッケージが過去最高の1万本の販売を記録。17年10月のスクラムパッケージの販売開始から3月末までに累計14万本超の販売を達成している。
決算事業セグメントではRDPSを中核とした「オフィスサービス」事業セグメントと、複合機関連を中心とした「オフィスプリンティング」事業セグメントの大きく二つに分けているが、リコージャパンでは昨年度のオフィスサービス事業セグメント売上高が全体の49%を占め、オフィスプリンティング事業セグメントの43%を上回っている。
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)も戦略の方向性は近い。複合機やカメラなどは出入力のエッジデバイスに位置づけ、これと連動するITソリューション事業を重点的に伸ばす。23年12月期までの3カ年中期経営計画では、ITソリューション事業を年平均成長率8.2%で2650億円まで伸ばすとともに、25年には3000億円の達成を視野に入れる。今回の中計ではITソリューション事業の主要な指標も開示し、その本気度を印象づけた。
例えば、複合機やカメラと密接に関わる文書管理や映像の分野、キヤノンMJグループのSIerであるキヤノンITソリューションズが強みとする数理・需要予測、ローコード開発などを、「キヤノンMJグループの特色あるIT商材」と位置づけた。これらの売り上げを中計期間中に150億円上乗せし、330億円にする計画だ。中小企業向けにはIT支援サービスの「HOME」の拡販に努め、ユーザー数を現状から5万社上乗せして16万社に増やす。一方、セキュリティやアウトソーシングは大企業から中堅・中小企業まで横断的に伸ばしていく(図2参照)。

顧客の規模別に見ると、キヤノンMJの複合機ビジネスは伝統的に大企業と中小企業に強く、「中堅企業の領域が若干手薄になっている」と、キヤノンMJの足立正親社長は話す。ITソリューション事業にも同様のことが言え、従来個別SIで提供していた商材をSaaS化し、中規模ユーザーが導入しやすいようサービス体系の変革を積極的に推し進めていく方針だ。
全国規模の営業力で市場の隙間を埋める
富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(富士フイルムBIジャパン)の阪本雅司社長は「複合機だけで商売ができるほど世の中甘くはない」と市場の状況を厳しく見ている。その上で、「顧客の経営的、業務的な課題をしっかり解決できる提案力と、地域経済の発展とともに成長する地域密着力の二つを成長の柱に据える」と、これまで以上にソリューション指向を強めていく。
旧富士ゼロックス時代は、全国に31社の地域販社を置く営業体制だったが、1社あたりの規模が小さく、担当する営業地域をまたいで提案するのも難しかった。こうした課題を解決すべく、今年4月1日付で旧富士ゼロックスの国内営業部門と国内の全ての販売会社などを統合して、社員数1万人を超える富士フイルムBIジャパンを発足させた。従来の地域販社では難しかった複雑で高度なITソリューション提案もしやすい体制になったことから、地域密着の強みを生かしながら顧客の課題解決により深く切り込んでいく。
例えば国内外で累計777万本以上の販売実績を誇る同社の文書管理ツール「DocuWorks」と、電子契約や営業支援、顧客管理といった各種のクラウドサービスとを連携させたり、NTTアドバンステクノロジが開発したRPAツール「WinActor」と組み合わせて帳票を扱う定型業務の自動化、効率化に取り組む。DocuWorksを媒介にエッジデバイスとしての複合機と業務アプリの連携をより深めていく。
一般オフィス市場で大きなシェアを持つキヤノンMJ、富士フイルムBIジャパン、リコージャパンの強みは、全国の中小企業ユーザーに向けてローラー営業をかけられる強大な営業力にある。リコージャパンの坂主社長は「1日に何社も訪問し、課題を聞き取り、解決策を提案する営業力が最大の強み」と、全国約8000人の営業担当、約1300人のSEをフル動員してITソリューションを主軸とした新たなビジネスを伸ばす意向を示す。SIをビジネスの主体とするSIerは、個別SIの発注体力がある中規模以上のユーザー企業を主な営業ターゲットとすることが多く、「SIerが手を伸ばせない中小企業市場で強みを存分に発揮できるよう、小規模事業所の課題を解決できる商材を一段と拡充する」(坂主社長)という。キヤノンMJもグループ傘下に全国約170拠点を持つキヤノンシステムアンドサポートを持ち、富士フイルムBIジャパンも全国規模の拠点ネットワークを展開しており、類似の取り組みが目立つ。
各社がこれだけの規模の販売網を維持できるのも複合機やプリンタなどの納入や保守サービスのビジネスがベースにあるからこそだ。コロナ禍によって大都市圏を中心にリモートワークを取り入れた新しい働き方やオフィス再編・縮小が前倒しで進んだが、この動きはペーパーレス化や業務のデジタル化の流れで早晩地域の中小企業にも波及していく可能性が高い。そうした中で複合機で築いた販売網を生かした課題解決力をいかに速く高めていくかが今後のビジネスの伸びしろを大きく左右する。
「週刊BCN 創刊40周年記念特集 複合機・プリンタ市場の激震 後編」はこちら

大都市部を中心にオフィス再編・縮小の動きが加速し、オフィス市場を主戦場とする大手複合機ベンダーのビジネスには向かい風が吹いている。リモートワークを全面的に取り入れ、低い出社率を前提としたオフィスの設計が一般化すれば、複合機の稼働台数や稼働量の低下につながる可能性は高い。主要ベンダーは複合機やプリンタ、カメラといったデバイスと連動して動くITソリューションへとビジネスの領域を急ピッチで広げている。全国に張り巡らせた営業網をフルに生かし、とりわけ中堅・中小企業ユーザーの経営的、業務的な課題解決に力を入れている。
(取材・文/安藤章司)
週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。
出社率3~5割でオフィスを再編
オフィスで使われる複合機は、コロナ禍で稼働量が大きく低下した。コロナ禍が収まれば一定量は回復するとみられるが、それでも大都市部を中心に「以前の水準には戻らない」(複合機ベンダー幹部)と見られている。一例を挙げると、NTTコミュニケーションズの昨年度(2021年3月期)の複合機・プリンタの印刷枚数は全社で前年度比57%減少し、A4用紙換算で1600万枚の削減となった。一方、従業員満足度調査では、在宅勤務やサテライトオフィスなど働く場所を選ぶ自由度が飛躍的に高まったことを受けて、男女とも満足度が向上。中でも女性従業員の満足度が初めて男性従業員と並ぶ水準まで高まった。モチベーションや生産性の向上につながっているとして、同社は首都圏の主要なオフィスを3分の2に集約し、オフィスへの出社率3割程度を想定したオフィス再編に取り組む。
出社率3~5割を前提とした首都圏のオフィス面積の縮小・再編は、情報・通信系企業のみならずほかの業種でも広がりを見せており、大都市圏のオフィス市場でシェアを持つ複合機ベンダーにとって、リモートワークによる複合機の稼働量の低下はビジネスに大きな打撃となる。
リコージャパンの坂主智弘社長は、「プリントボリュームはコロナ禍に関係なくジリジリと下がることは織り込み済み。ただ、コロナ禍で前倒しになった」と、ペーパーレス化や業務のデジタル化の進展を踏まえ、手は打ってきたと話す。具体的には建設や製造、不動産、福祉・介護、流通・小売り、食品製造・卸といった業種別のITソリューション「スクラムシリーズ」の開発に力を入れており、複合機の減収分を補う役目を果たしている。
例えば建設業向けでは、遠隔地にいる担当者とリアルタイムに情報をやり取りできる仕組みや、CADデータを社内外で共有する機能など、業種ごとの課題を解決する具体的な解決策をひとまとめにしてあるのが特徴。中小企業向けには「スクラムパッケージ」として販売し、中堅企業向けにはカスタマイズができるよう部品化した「スクラムアセット」として販売することも可能だ。今年6月には自然言語処理AIを活用した「仕事のAI」を商品化。第一弾として食品業界向けに、エンドユーザーの声をAIで分析し「顧客満足度にマイナス影響が出る前の予兆を検知し、適切な対応ができるよう支援する」(リコーの梅津良昭・デジタル技術開発センター所長)サービスを始めている。
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- リコージャパン ITビジネスが複合機ビジネスを上回る
- キヤノンMJ エッジデバイスと連動するITソリューション事業を重点的に伸ばす
- 富士フイルムBIジャパン これまで以上にソリューション指向を強める
- 主要ベンダー各社 全国規模の営業力で市場の隙間を埋める
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