Special Feature
ハイブリッドワーク時代のエンドポイント管理 変容する販売戦略
2022/03/21 09:00
週刊BCN 2022年03月21日vol.1915掲載

新型コロナ禍に端を発するリモートワークの拡大によってエンドポイント管理が課題となる中、ソリューションの販売戦略も多様化している。日本マイクロソフトは大手パートナーとのアライアンスによって提供価値の向上を図り、顧客の囲い込みを狙う。一方、これまでエンドポイント管理に活用されてきたIT資産管理ツールでは、エムオーテックスが製品をリブランディングし、昨年からクラウド版の提供を開始、新規顧客獲得を進めている。コロナ対策の急場しのぎであったリモートワークから、オフィスとリモートを使い分ける新たな働き方の「ハイブリッドワーク」への転換が急がれる中、製品の販売手法も大きく変容しつつある。
(取材・文/岩田晃久、藤岡 堯)
働き方の多様化で市場は拡大の一途
ハイブリッドワークの浸透により、働く場所のバリエーションが広がれば、従業員が使うデバイスの管理は複雑さを増すことになる。資産管理やセキリュティといった要件を押さえるのはもちろん、端末のキッティング、トラブル発生時の対応など、システム担当者には広範かつ膨大な作業がのしかかる。また、デバイスを常に最新の状態に更新し続けなければ、最高のパフォーマンスは生み出せない。調査会社のアイ・ティ・アールが2021年9月に公表した「ユニファイド・エンドポイント市場」に関する調査結果によると、20年度の市場規模は前年比25%増の277億6000万円で、25年度には429億円まで伸びるとの見通しが示された。同社は、分散して働く従業員に適切なITサービスを届けるための基盤技術として、一定の成長が続くと分析する。日々拡大するエンドポイント管理市場を前に、各ベンダーはさまざまな戦略を展開し、市場における存在感を高めようと努めている。
日本マイクロソフト
パートナーとのアライアンスで価値向上
日本マイクロソフトは2月、国内企業にエンドポイント管理手法の刷新を促進し、ハイブリッドワークを支援するため、幹事企業18社とともに「Microsoft Hybrid Workforce Alliance」を発足した。日本独自の施策となるこのアライアンスでは、Windows 11、Windows 365、そして「Azure Virtual Desktop(AVD)」と、クラウドサービスを利用した最新のエンドポイント管理ソリューションによる、「エンドポイントモダナイゼーション」の実現に向けた導入と展開を支援する考えだ。アライアンスは、ライセンス販売を主に手掛けるライセシング・ソリューション・パートナー、クラウド・ソリューション・プロバイダー、ハードウェアを含めた再販パートナー、そしてOEMパートナーの4者で構成する。既存のパートナーアライアンスを発展・拡張する形となる。
日本マイクロソフトモダンワーク&セキュリティビジネス本部の山崎善寛・本部長は「各パートナーが情報交換や情報共有をしたり、お客様に対してワンストップでソリューションを提供したりするための枠組みとして進めていく。新しいソリューションのケイパビリティ(能力)を高めてもらうほか、マーケティング施策も含めていく」と狙いを説明する。
ハイブリッドワーク時代におけるエンドポイント管理は多様なレイヤーで成り立っている。PCやモバイル機器といったデバイスは多岐に渡り、OSも種類が分かれる上、オフィスを前提としない働き方ではキッティングを働き手自身で担う必要も生じる。クラウド利用が主体となれば、データの扱いにも留意すべきであるし、故障やトラブルの把握から復旧までも遠隔で対応しなければならない。つまり、導入から運用、保守、そしてセキュリティ対策を含め、デバイスのライフサイクル全体で新たな対応方法が求められてくることになる。
マイクロソフトでは、Windows 11、Windows 365、AVDを通じて、どのような環境下でもWindowsを活用できる体制を整え、「Intune」「Configuration Manager」「Windows Autopilot」などの管理ツール群(最近ではこれらを統合的に運用できる「Microsoft Endpoint Manager」に注力している)も用意する。一方で「Windows 11はOEMパートナー、AVDはAzure系のパートナー、運用サービスはSIerと、それぞれ分かれていた」(山崎本部長)ことから、顧客の抱える複合的な課題により効果的にアプローチするため、アライアンスの設立に至ったという。
目標については、23年6月までにパートナー100社、150のソリューション、150サービス、事例30件の達成を掲げる。すでにWindows 365で35のソリューション、AVDで48のソリューションをリリースしており、これから導入本格化が見込まれるWindows 11を含め、実現性は高いと見込む。クラウドビジネスに取り組んでいないパートナーや、クラウドの導入が比較的遅れている自治体や医療関係などを顧客に持つパートナーなどの参画を期待するという。
山崎本部長は「マイクロソフトの製品をただ提供するというだけでは、新しいエンドポイント管理の実現、運用の最適化、お客様の生産性向上はできない」と強調し、多様なパートナーの強みを掛け合わせ、顧客のエンドポイント管理を底上げしていく姿勢をアピールした。
レノボ・ジャパン
二つの管理製品を発売
PCメーカーもハイブリットワーク環境の支援を強化している。レノボ・ジャパンでは、マイクロソフトが提供しているソフトウェア配布機能のWindows Autopilotを活用し、PCやサーバーを工場から出荷する際に、企業に必要なソフトウェアをあらかじめインストールして提供する「ゼロタッチデプロイメント」に注力している。端末のキッティングに課題を抱える企業が多い中、需要は拡大し、グローバルでは180万台以上を出荷した。国内でも利用企業が増えているという。そして、2月からエンドポイント管理のサポート強化を目的に「Lenovo Deployment Assistant(LDA)」と「Lenovo Manageability Commander(LMC)」の二つのエンドポイント管理製品を市場に投入した。LDAはマイクロソフトのPC管理ソリューション「Endpoint Configuration Manager」と連携し、BIOS設定、レノボ製品固有のインベントリ情報やログの取得が可能となるという。点在するデバイスに対して、最新ポリシーの適用も管理画面から容易に行えるため、デバイス管理の煩雑さを軽減し、ガバナンスの効いたクライアントデバイス管理を実現するとしている。
一方のLMCは、遠隔でのデバイス診断を可能とする管理ソフトウェア。リモート環境においては、PCの故障といったトラブル対応に課題を抱える企業が多い。LMCを利用することで、管理者はインテルの「vProプラットフォーム」を搭載したレノボのデバイスのインベントリ情報を一元管理できるほか、vProプラットフォームで提供される「Endpoint Management Assistant」との連携により、リモートから遠隔操作が可能となる。
同社サービスセールス事業部の上村省吾・執行役員は「ハイブリッドワーク時代に入りつつある中で、IT部門には従業員一人一人の働き方に合わせた業務環境の提供と、場所を問わずにガバナンスやサポートレベルを担保する仕組みが求められる」と説明。「こうした状況に対して、ゼロタッチデプロイメントで“利用面”を、LDAとLMCで“運用面”を支援していく」と力を込めた。
エムオーテックス
クラウド版での顧客獲得進む
多くの企業がエンドポイント管理に利用しているのが、IT資産管理ツールだ。ソフトウェアの管理やファイルの配布、操作ログの取得、デバイス制御、メール管理などさまざまな対策を一つのツールで実現できる点が支持されている。ハイブリッド環境では、管理すべき端末が増加したことでIT資産管理ツールの重要性がさらに増している。例えば、リモートの従業員の働き方を把握できないという課題に対しては、ログ情報を可視化することが有効だ。
IT資産管理のトップベンダーであるエムオーテックスでは、オンプレミス型の資産管理ソフト「LanScope Cat」を21年7月にリブランディングし、「LANSCOPE オンプレミス版」と「LANSCOPE クラウド版」として新たに発売した。プロダクト戦略室の中本琢也・本部長は「以前から、クラウドでの提供を求めるユーザーが多かった。加えて、リモート環境でも容易に導入できることから、現在の新規顧客はクラウド版の比率が高い」と傾向を語る。
同社では、LANSCOPEシリーズのほかにも、バックオフィス特化型チャットボットサービス「SYNCPIT」やリモートコントロールツール「REMO-CON powered by ISL Online(REMO-CON)」を提供。ハイブリッド環境における管理業務の負荷軽減を目指している。
SYNCPITでは、従業員から情報システム部門に対する問い合わせへの対応や、経費精算や勤怠提出の締め日の通知といった定期的な連絡業務を自動化する機能を提供。「Slack」や「Chatwork」といったビジネスチャットと連携できる点も特徴だとした。
一方のREMO-CONは、遠隔地にあるサーバーやPC、スマートフォンへのリモート操作や画面共有が可能となる。リモート環境でデバイスに問題が生じた際に、従業員がIT管理者に状況を説明できないといった課題を解決する。一般的なリモートコントロールツールの場合、端末数に応じたライセンス契約が必要な場合が多いが、REMO-CONは情シス担当者の人数分での契約となるため安価で利用できるという。
そのほかにも、LANSCOPEユーザーに次世代EPP(Endpoint Protection Platform)製品「BlackBerry Protect」と「Deep Instinct」を販売。運用に不安がある場合は代行するなど、最新のエンドポイントセキュリティ対策を容易に導入できる仕組みを構築している。リモート環境の端末を狙ったサイバー攻撃が増加する中で、「アンチウイルス強化は取り組むべき項目の一つだ」と中本本部長は指摘する。
LANSCOPEを中心にさまざまな製品を展開し、総合的にエンドポイントの課題を解決できる強みを生かして今後も顧客獲得を進めていく。

新型コロナ禍に端を発するリモートワークの拡大によってエンドポイント管理が課題となる中、ソリューションの販売戦略も多様化している。日本マイクロソフトは大手パートナーとのアライアンスによって提供価値の向上を図り、顧客の囲い込みを狙う。一方、これまでエンドポイント管理に活用されてきたIT資産管理ツールでは、エムオーテックスが製品をリブランディングし、昨年からクラウド版の提供を開始、新規顧客獲得を進めている。コロナ対策の急場しのぎであったリモートワークから、オフィスとリモートを使い分ける新たな働き方の「ハイブリッドワーク」への転換が急がれる中、製品の販売手法も大きく変容しつつある。
(取材・文/岩田晃久、藤岡 堯)
働き方の多様化で市場は拡大の一途
ハイブリッドワークの浸透により、働く場所のバリエーションが広がれば、従業員が使うデバイスの管理は複雑さを増すことになる。資産管理やセキリュティといった要件を押さえるのはもちろん、端末のキッティング、トラブル発生時の対応など、システム担当者には広範かつ膨大な作業がのしかかる。また、デバイスを常に最新の状態に更新し続けなければ、最高のパフォーマンスは生み出せない。調査会社のアイ・ティ・アールが2021年9月に公表した「ユニファイド・エンドポイント市場」に関する調査結果によると、20年度の市場規模は前年比25%増の277億6000万円で、25年度には429億円まで伸びるとの見通しが示された。同社は、分散して働く従業員に適切なITサービスを届けるための基盤技術として、一定の成長が続くと分析する。日々拡大するエンドポイント管理市場を前に、各ベンダーはさまざまな戦略を展開し、市場における存在感を高めようと努めている。
日本マイクロソフト
パートナーとのアライアンスで価値向上
日本マイクロソフトは2月、国内企業にエンドポイント管理手法の刷新を促進し、ハイブリッドワークを支援するため、幹事企業18社とともに「Microsoft Hybrid Workforce Alliance」を発足した。日本独自の施策となるこのアライアンスでは、Windows 11、Windows 365、そして「Azure Virtual Desktop(AVD)」と、クラウドサービスを利用した最新のエンドポイント管理ソリューションによる、「エンドポイントモダナイゼーション」の実現に向けた導入と展開を支援する考えだ。アライアンスは、ライセンス販売を主に手掛けるライセシング・ソリューション・パートナー、クラウド・ソリューション・プロバイダー、ハードウェアを含めた再販パートナー、そしてOEMパートナーの4者で構成する。既存のパートナーアライアンスを発展・拡張する形となる。
日本マイクロソフトモダンワーク&セキュリティビジネス本部の山崎善寛・本部長は「各パートナーが情報交換や情報共有をしたり、お客様に対してワンストップでソリューションを提供したりするための枠組みとして進めていく。新しいソリューションのケイパビリティ(能力)を高めてもらうほか、マーケティング施策も含めていく」と狙いを説明する。
ハイブリッドワーク時代におけるエンドポイント管理は多様なレイヤーで成り立っている。PCやモバイル機器といったデバイスは多岐に渡り、OSも種類が分かれる上、オフィスを前提としない働き方ではキッティングを働き手自身で担う必要も生じる。クラウド利用が主体となれば、データの扱いにも留意すべきであるし、故障やトラブルの把握から復旧までも遠隔で対応しなければならない。つまり、導入から運用、保守、そしてセキュリティ対策を含め、デバイスのライフサイクル全体で新たな対応方法が求められてくることになる。
マイクロソフトでは、Windows 11、Windows 365、AVDを通じて、どのような環境下でもWindowsを活用できる体制を整え、「Intune」「Configuration Manager」「Windows Autopilot」などの管理ツール群(最近ではこれらを統合的に運用できる「Microsoft Endpoint Manager」に注力している)も用意する。一方で「Windows 11はOEMパートナー、AVDはAzure系のパートナー、運用サービスはSIerと、それぞれ分かれていた」(山崎本部長)ことから、顧客の抱える複合的な課題により効果的にアプローチするため、アライアンスの設立に至ったという。
目標については、23年6月までにパートナー100社、150のソリューション、150サービス、事例30件の達成を掲げる。すでにWindows 365で35のソリューション、AVDで48のソリューションをリリースしており、これから導入本格化が見込まれるWindows 11を含め、実現性は高いと見込む。クラウドビジネスに取り組んでいないパートナーや、クラウドの導入が比較的遅れている自治体や医療関係などを顧客に持つパートナーなどの参画を期待するという。
山崎本部長は「マイクロソフトの製品をただ提供するというだけでは、新しいエンドポイント管理の実現、運用の最適化、お客様の生産性向上はできない」と強調し、多様なパートナーの強みを掛け合わせ、顧客のエンドポイント管理を底上げしていく姿勢をアピールした。
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