Special Feature
データセンター高効率化の近未来技術 電力需給逼迫にITインフラはどう応えるか
2022/08/11 09:00
週刊BCN 2022年08月08日vol.1934掲載

今年は初めての「電力需給逼迫注意報」が東京電力管内で発出されるなど、電力不足が深刻な状態が続いている。産業界では、店舗の照明を落としたり、工場の操業時間を調整したりと、節電に取り組む企業の姿が見られた。これに対してIT業界はどうか。連続稼働が前提のデータセンターは機器を止められない以上、電力効率を高めることで処理能力あたりのエネルギー消費を抑えるしかない。さまざまな高効率化技術が近い将来の商用化に向けて開発されている。
(取材・文/日高 彰)
毎年4000億円規模の建設ラッシュ
データセンターが必要とする電力が、今後加速度的に増加するという予測が各所から出されている。IT機器の利用状況を総合的に表していると考えられるインターネットトラフィックを見ると、毎年前年比2~4割増のペースで増え続けており、3年で約2倍になる計算だ。ITインフラを収容するデータセンターの需要もそれだけ高まっている。調査会社IDC Japanによると、2022年の国内でのデータセンターの新設・増設投資は2236億円となる見込みだが、23年は4000億円を超える見通しという。データセンターの建設ラッシュはこれ以降も続き、同社では26年まで毎年4000億円規模の投資が続くと予想している。
データセンターの数・規模が拡大することが電力消費の増大を招くのは当然だが、そのような量的な伸びに加えて、データセンターには質的な変化も生まれている。代表的なのは機械学習/AI技術の普及だ。AIでは一般に、学習に用いるデータの量が多いほど高精度なモデルを作成できるため、大量のデータを取り扱う。しかも、学習を高速に行うためには高性能のGPUを搭載したサーバーが欠かせない。メモリやGPUが消費する電力が増えたことで、サーバーラック1本あたりに要求される電力や冷却性能も大きくなっている。同じ面積のデータセンターでも、消費電力の“密度”が上がっている形だ。
このような背景から、社会全体の中でデータセンターで消費される電力が増大していくことは避けられない状況となっている。科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターのレポート「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響」では、18年に国内のデータセンターが消費した電力を14TWh(テラワット時)と推計。ここから効率化が進まなかった場合、30年には90TWhになると予想しており、実に12年で6倍以上に増えることとなる。推計の前提となるIPトラフィックは、18年の0.7ZB(ゼタバイト)から30年は11ZBに拡大するという見通しだ。

トラフィックが増えているからといって、野放図にIT機器を増やし電力を消費するやり方は、昨今の産業界で許容される姿勢とはいえない。また、昨年から今年にかけて燃料価格が上昇し、電気料金は高騰している。収益性の面でも、データセンターをいかに少ないエネルギーで運営するかは大きな課題となっている。
データセンターの高効率化が国を挙げてのプロジェクトに
とはいえ、デジタル技術の社会的ニーズは高まる一方であり、電力事情が厳しいからといってデータセンターの新設・増設を減速するという選択肢はあり得ない。企業の競争力向上、ITによる社会問題の解決、経済安全保障といった観点で、国内ではまだまだ多くのデータセンターが必要とされている。50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げる政府も、経済と環境を両立するため、IT・エレクトロニクスの領域における革新が求められることを認識している。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は今年2月、新たな研究開発事業「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトを開始し、IT機器の要素技術や半導体の開発に10年間で総額1376億円の支援を行うことを発表した。
同プロジェクトの中で、「次世代グリーンデータセンター」技術の開発については富士通、NECなど7社が参画。サーバー間やデータセンター内外をシームレスに光で接続する「光スマートNIC」や、GPUに代わってAIやビッグデータ処理を高速化する「省電力アクセラレーター」、サーバーの機能を分散化し負荷に応じて最適なリソースの割り当てを行う「ディスアグリゲーション技術」の開発などが含まれる。
これらの取り組みでは、電流による通信・接続を光に置き換えることで性能向上と省電力化を実現。さらにシステム全体の効率を高めるためのチップや制御技術を投入することで、現在のデータセンターに比べ40%以上の省エネ化を目指すとしている。光技術を核として次世代のIT・通信インフラを構築するという考え方は、NTTグループが19年に発表した「IOWN(アイオン)」のアーキテクチャーとも符合するもので、光でデータセンターを革新する構想は、いよいよ国を挙げての事業という色を帯びてきた。
次世代グリーンデータセンター技術の開発に加えて、プロジェクトでもう一つの大きな研究項目となっているのが、「次世代パワー半導体」の開発で、こちらには東芝デバイス&ストレージなど4社が参画している。中でもデータセンターの高効率化に直結するテーマが、「次世代高電力密度産業用電源向けGaNパワーデバイスの開発」である。
サーバーや通信機器などあらゆる電子機器には、交流/直流の変換や電圧の変圧を行うパワー半導体が使用されているが、現在のパワー半導体で主に使われているSi(ケイ素)材料をGaN(窒化ガリウム)に置き換えることで、変換時の損失を低減すると同時に製品の小型化が可能になる。東芝デバイス&ストレージは28年度までに製造技術や周辺回路の開発を行い、サーバーなどに電力を供給する電源ユニットに応用することを目指す。
GaNパワー半導体を用いる電源ユニットは効率が高く、熱として捨てられるエネルギーが少ない。このため消費電力や冷却装置を削減できるほか、周辺部品も含めた小型化が可能なので、ラック1本の中で電源ユニットが占める体積も小さくなる。その分、ラックに搭載できるサーバーの台数を増やせるので、データセンターの高密度化にも貢献できる。
東芝グループではパワー半導体の研究開発に戦略的な投資を行っている。データセンターは、発送電や車載などと並ぶパワー半導体の重要な市場という位置づけをしており、高効率化に大きなニーズがあるとみて製品開発を急ぐ。
次世代冷却方式の本命は「液浸」
サーバーなどIT機器そのものの効率を高めるのに加えて、データセンターの省エネ化で欠かせないのがシステムの冷却である。一般的に、データセンターに設置された機器は空調設備で冷やされた空気を吸排気することで冷却されているが、従来の標準的なデータセンターが消費する電力全体のうち、空調が占める割合は3割から4割と言われている。IT機器を動作させるための電力に匹敵する量の電力を、機器を冷やすためだけに使っている形だ。
この不経済を改善するため、データセンター事業者や機器ベンダーは空調方式を改善し、できるだけ少ないエネルギーで効率よく機器を冷却できるよう工夫を重ねてきた。最新のデータセンターでは、空調の電力はおおむね全体の2割以下に抑えられているという。
しかし、前述のようにラック1本あたりの消費電力や発熱が高密度化していることから、さらに効率の高い冷却方法が求められるようになってきた。そこで近年有望視されている技術が、サーバーを冷却液の中に浸して冷やす「液浸冷却」だ。
液浸冷却では、絶縁性の油を冷却液として用いる。油槽の中にCPUやメモリを搭載したサーバーをまるごと漬け込み、冷却液を循環させる。機器を冷却して温度が上昇した冷却液は、熱交換器を介して水や外気で冷やされる。
20年から液浸技術の実証を開始したKDDIは、昨年6月から三菱重工業、NECネッツエスアイと共同で液浸冷却装置を用いたコンテナ型小型データセンターの実証実験を行っており、今年に入り、従来型のデータセンターと比較して43%の消費電力削減を実現したと発表した。24年度中に液浸冷却方式を商用提供することを目指している。
NTTコミュニケーションズも同じく20年から液浸冷却の検証を開始している。同社のシステムでは冷却液の冷却に水を使っているが、供給する水は30℃前後の常温でもIT機器の冷却には十分であることがわかったといい、空調装置で冷気を作る従来のデータセンターに比べると圧倒的な省エネルギー化が可能になるとしている。
(写真はNTTコミュニケーションズによる実証検証)
NTTデータも今年3月、米LiquidStack(リキッドスタック)製の冷却装置を活用した液浸冷却の検証を実施。冷却液の気化熱を冷却に用いる「二相式」と呼ばれる採用しており、NTTデータによれば冷却効果が特に高いことが特徴だという。23年度中に社内システムに導入し、早期の商用サービス化に向けて取り組む。
液浸冷却の実証実験については、各社とも単独ではなく、データセンター事業者、冷却装置ベンダー、サーバーベンダーなどが協業する形で実施しているのが特徴だ。現在は、既存のサーバーなどをベースとしながら独自の変更を加える形で液浸に対応している段階だが、将来的には液浸対応を製品レベルで保証するIT機器が登場する可能性もある。液浸冷却の各要素をどのように組み合わせてエコシステムを構築するか、各社はビジネス本格化の糸口を探ろうとしている。
データセンター自体の制御にデジタル技術を活用
このほか、ソフト面でもデータセンターの高効率化を実現する技術が提案されている。例えば富士通は19年度からデータセンターの空調制御にAIを導入している。サーバーや空調装置に装着したセンサーから温度、ファン回転数などのデータを収集し、事前に作成したAIモデルで分析し、今後の温度を予測して空調装置の運転パラメーターを調整するといったもので、空調エネルギーの15~20%を削減できているという。野村総合研究所(NRI)も空調の運転をAIで制御。同社ではUPS(無停電電源装置)の点検データを分析し、近い将来異常が発生すると考えられるバッテリをはじき出すことで、突然の故障による緊急交換を削減するといった取り組みも行っており、データセンター運用の高度化のためにAIを積極的に導入している。多くのIT企業がSDGsやESG経営を掲げ、「デジタル技術によって社会問題を解決する」と公言する経営者も少なくない。しかし、古いテクノロジーで構築されたデータセンターがサービスの基盤となっていた場合、実はデジタル技術を使えば使うほど社会にマイナスの影響を与えていた、ということになりかねない。冬にも節電要請があると予想される今年、増え続けるデータ量に対してITインフラはサステナブルな存在になり得るのか、あらためて注目を集めている。

今年は初めての「電力需給逼迫注意報」が東京電力管内で発出されるなど、電力不足が深刻な状態が続いている。産業界では、店舗の照明を落としたり、工場の操業時間を調整したりと、節電に取り組む企業の姿が見られた。これに対してIT業界はどうか。連続稼働が前提のデータセンターは機器を止められない以上、電力効率を高めることで処理能力あたりのエネルギー消費を抑えるしかない。さまざまな高効率化技術が近い将来の商用化に向けて開発されている。
(取材・文/日高 彰)
毎年4000億円規模の建設ラッシュ
データセンターが必要とする電力が、今後加速度的に増加するという予測が各所から出されている。IT機器の利用状況を総合的に表していると考えられるインターネットトラフィックを見ると、毎年前年比2~4割増のペースで増え続けており、3年で約2倍になる計算だ。ITインフラを収容するデータセンターの需要もそれだけ高まっている。調査会社IDC Japanによると、2022年の国内でのデータセンターの新設・増設投資は2236億円となる見込みだが、23年は4000億円を超える見通しという。データセンターの建設ラッシュはこれ以降も続き、同社では26年まで毎年4000億円規模の投資が続くと予想している。
データセンターの数・規模が拡大することが電力消費の増大を招くのは当然だが、そのような量的な伸びに加えて、データセンターには質的な変化も生まれている。代表的なのは機械学習/AI技術の普及だ。AIでは一般に、学習に用いるデータの量が多いほど高精度なモデルを作成できるため、大量のデータを取り扱う。しかも、学習を高速に行うためには高性能のGPUを搭載したサーバーが欠かせない。メモリやGPUが消費する電力が増えたことで、サーバーラック1本あたりに要求される電力や冷却性能も大きくなっている。同じ面積のデータセンターでも、消費電力の“密度”が上がっている形だ。
このような背景から、社会全体の中でデータセンターで消費される電力が増大していくことは避けられない状況となっている。科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターのレポート「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響」では、18年に国内のデータセンターが消費した電力を14TWh(テラワット時)と推計。ここから効率化が進まなかった場合、30年には90TWhになると予想しており、実に12年で6倍以上に増えることとなる。推計の前提となるIPトラフィックは、18年の0.7ZB(ゼタバイト)から30年は11ZBに拡大するという見通しだ。

トラフィックが増えているからといって、野放図にIT機器を増やし電力を消費するやり方は、昨今の産業界で許容される姿勢とはいえない。また、昨年から今年にかけて燃料価格が上昇し、電気料金は高騰している。収益性の面でも、データセンターをいかに少ないエネルギーで運営するかは大きな課題となっている。
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- データセンターの高効率化が国を挙げてのプロジェクトに
- 次世代冷却方式の本命は「液浸」
- データセンター自体の制御にデジタル技術を活用
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