Special Feature
新潟発 AIで地方創生 地域特化の知見から価値を生む
2025/07/21 09:00
週刊BCN 2025年07月21日vol.2068掲載
日本全体で人口減少と労働力不足が加速する中、地方はその傾向がより顕著だ。この課題に直面する新潟では、人材不足を補い経済を活性化すること目指し、異業種からAI事業に進出する動きが起こっている。地方新聞社や学校法人グループによる、組織が蓄積してきた知見にAIを掛け合わせることで新しい価値を生み出し、それを地域に還元していこうとする取り組みを紹介する。
(取材・文/堀 茜)
新潟日報生成AI研究所
新潟県内で日刊紙を発行する新潟日報社は、AI開発のエクサウィザーズと協業し、自社の記事データベースを活用したAI事業を行う子会社、新潟日報生成AI研究所を2024年11月に開設。新聞記事を活用した法人向けサービス「新潟日報生成AI」の提供を開始した。
(左から)佐藤妙子・主任研究員、鶴間尚社長、小原広紀・副所長
背景には、人口減少に伴う新聞の部数減がある。新聞の販売や広告売り上げが落ち込む中、新規事業を模索。エクサウィザーズの共同創業者である石山洸・Chief AI Innovatorが新潟市出身という縁があり、記事データと生成AIを組み合わせることで、地域に新しい価値を還元するという事業の骨格が定まったという。
同社の生成AIは、新潟日報の過去15年分の記事データを、米OpenAI(オープンエーアイ)などの大規模言語モデル(LLM)にRAG(検索拡張生成)として連携している。他社のLLMに記事は学習させないので、新潟日報社の著作権を保護した状態で活用できる。最新の記事データも数日以内に反映。利用者が自然言語で尋ねると、記事を参照し回答を生成する。
鶴間尚社長は「新潟に特化しているのが一番のポイントになる」と解説する。一般的な生成AIはインターネット上の公開情報を学習しているが、新潟県内に限ると情報量が少なく、誤った答えを生成してしまうケースが少なくない。記事データベースを参照して回答を生成することで、詳細で高精度の回答が出せるとする。
顧客が希望する用途に応じて複数のテンプレートを用意しており、主な使い方として、企業の営業担当者が、訪問先の企業について調べるシーンなどを想定している。記事全体を読むことはできないが、サマリーとして回答が表示されるため、新聞を読まなくても短時間で正確な情報をキャッチアップできる。佐藤妙子・主任研究員は「新聞を読んでいない人にも新潟日報が蓄積した正確な記事データの価値を活用してもらえる」とメリットをアピールする。
主な顧客である新潟県内の企業の意識について、小原広紀・副所長は、人口減で新卒の採用が難しくなった企業が増えているなど、経営環境の悪化を背景にAI活用への期待は高いと指摘。「新聞社にとって記事は最大の資産だが、ビジネスに生かし切れていなかった。信頼性の高い記事を生成AIサービスにすることで、便利なかたちで使ってもらうことができる」と意義を強調する。まずは使ってみてほしいとの思いから、1ユーザーからのトライアルプランを用意。ユーザー企業内のデータを専用環境でRAG連携できる「DX戦略プラン」を採用する企業も増えており、想定以上のペースで導入は伸びているという。
地方新聞社が記事データベースを使って生成AIを提供する取り組みは全国で例がなく、各地の地方紙からも注目されているという。具体的に事業化できないかという問い合わせもあるといい、「当社の枠組みを提供していくことで地方活性化を後押ししたい」(小原副所長)と、ソリューションの横展開も見据える。
同社は生成AIビジネスで10年後に売り上げ100億円の目標を掲げる。新聞事業の落ち込みを補う事業の柱に育てていきたい考えで、AIを日本酒、米など新潟県の特産品と絡めたり、人手不足が顕著な医療や介護など業界ごとのステークホルダーと一緒に新しいソリューションを開発したりすることを計画している。鶴間社長は「新潟発の仕組みを定着させ、県外、世界へ発信していきたい」と展望する。
新潟人工知能研究所
新潟人工知能研究所は、新潟県を中心に専門学校などの学校法人を幅広く展開しているNSGグループ内のベンチャーとして17年に設立された。AI開発とAI関連の人材育成の二つを事業の柱としている。
AI開発では、建設業、製造業などの企業向けに個社ごとに対応。最近は生成AIを活用したいという需要が高く、RAGやAIエージェントの開発に注力している。生成AIの先を見据え、ビジネスでの量子コンピューターの利活用も視野に入れている。
上坂高寛 社長
顧客は新潟県内と首都圏が半々程度。県内の企業からは、人手不足の中で事業を継続的に成長させるために、AIを現実的にどう生かせるのか提案してほしいという声が多く聞かれるという。上坂高寛社長は、自社の強みについて「グループ内に持つ専門人材と現場データだ」と解説する。NSGグループは、教育、医療、建設、スポーツなど幅広い分野で事業を展開しており、AI開発に必要な学習データと専門家の知見を保有。それらを製品開発に活用している。県内企業が首都圏のAI開発企業にソリューションの見積もりを依頼すると、高すぎて手が出ないというケースが多いといい、「地方ならではの現実的な価格で提案しているのも受け入れられている一因」と分析する。
現在力を入れているのが、専門人材の知識を広く活用できる仕組みの構築だ。製造業などでは職人が高齢化し、技術伝承が大きな課題の一つとなっている。そこで、熟練の職人のナレッジをデータベース化し、LLMに学習させることで、暗黙知を形式知に転換することを目指している。数社と事例をつくっている段階で、「熟練の技術をプロダクトに落とし込んでいきたい」(上坂社長)と、製品化して広く販売することを目指す。
もう一つの柱が教育の側面だ。データサイエンティストの育成で地域創生に寄与するというビジョンのもと、大学や大学院などで授業を実施。より若い世代に対する育成の取り組みとしては、中高生向けにAIやデータサイエンス教材を提供しているグループ内の企業と協業し、AI教育の教材開発にも力を入れている。また、指導者のAI知識向上も欠かせないとの視点から、専門学校の教員向けの講座も実施している。
佐藤修一 部長
取締役の佐藤修一・技術開発部部長は、以前はNSGグループ内のコンピューター専門学校で教員をしており、AI専門の学科を全国に先駆けてつくるなど人材育成に尽力した経歴を持つ。その際に感じた課題感として、「就職指導をすると、8割が東京に行ってしまった」と振り返る。同社では、AI開発のビジネスを展開することで、育成した人材の受け皿が広がるとの考えから、開発と教育を両輪に据え、自社でも積極的にインターンシップを受け入れている。佐藤部長は「育成したAI人材が地方で活躍できるフィールドをクライアントと一緒につくっていくのが重要になる」との見方を示し、AI人材を輩出し、活躍できる場を創出する良いサイクルを生み出したいと構想する。
上坂社長は、自社が売り上げを伸ばせば、AI関連の仕事で雇用できる人数を増やせると展望。事業としては開発の比率が高まっているが、「人材育成にも引き続き力を入れることで、新潟全体の底上げをお手伝いしていきたい」とした。NINNO
新潟市のJR新潟駅前に、スタートアップや地元企業が入居するイノベーション拠点「NINNO(ニーノ)」がある。商業ビルだった建物を、スタートアップ支援を強化していた新潟県の支援のもと、保有する不動産会社の木山産業が改修。イノベーションを共創する場として20年に設置された。開設時は7社だった入居企業は、47社に増えている。
木山産業 石川翔太 事業部長
木山産業執行役員の石川翔太・NINNO事業部長は、「競争型ではなく、地元融合型のイノベーションを生み出すことを目指している」とコンセプトを説明する。スタートアップは県内だけでなく、地元自治体などの支援に魅力を感じて県外から新潟市に拠点を構えるケースも多い。そこに既存産業の活性化を目指す地元企業、自治体、大学などが融合することで「産産官学」での共創を生み出そうとしている。新潟県が23年にアマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)と包括連携協定を締結して以降は、NINNOを会場にAWSジャパンを核としたセミナーなども開催され、地域企業のDXへの意識も高まりを見せている。
NINNOは、コミュニティーマネージャーのような人が企業同士をつなぐのではなく、自律的な交流を促す場という位置付けだ。毎月、入居企業の決裁者クラスの人が集まる定例会を開き「なんということはない雑談から『こんなことができるのでは』というアイデアが生まれている」(石川部長)。顔の見える間柄だからこそ、一緒に何かやろうとなった際の立ち上がりは早く、地元の大企業と入居するスタートアップとのオープンイノベーションプログラムや、新潟をフードテックタウンにしようと複数社が協業する動きが始まっているという。
NINNOの自律的なエコシステムを目指す取り組みが評価され、新潟県は6月、長野県とのコンソーシアムで内閣府のスタートアップ拠点都市に採択された。石川部長は「長野と組むことで、県の枠組みを越えて、より幅広い企業同士の協業の輪が生まれ、地域融合型イノベーションの可能性が広がる」と歓迎。長野だけでなく、それ以外の周辺自治体との連携も視野に、新潟が地方活性化の核になっていくことを目指していくとした。
(取材・文/堀 茜)

新潟日報生成AI研究所
地方紙の記事データを活用 地域特化で価値を地元に還元
新潟県内で日刊紙を発行する新潟日報社は、AI開発のエクサウィザーズと協業し、自社の記事データベースを活用したAI事業を行う子会社、新潟日報生成AI研究所を2024年11月に開設。新聞記事を活用した法人向けサービス「新潟日報生成AI」の提供を開始した。
背景には、人口減少に伴う新聞の部数減がある。新聞の販売や広告売り上げが落ち込む中、新規事業を模索。エクサウィザーズの共同創業者である石山洸・Chief AI Innovatorが新潟市出身という縁があり、記事データと生成AIを組み合わせることで、地域に新しい価値を還元するという事業の骨格が定まったという。
同社の生成AIは、新潟日報の過去15年分の記事データを、米OpenAI(オープンエーアイ)などの大規模言語モデル(LLM)にRAG(検索拡張生成)として連携している。他社のLLMに記事は学習させないので、新潟日報社の著作権を保護した状態で活用できる。最新の記事データも数日以内に反映。利用者が自然言語で尋ねると、記事を参照し回答を生成する。
鶴間尚社長は「新潟に特化しているのが一番のポイントになる」と解説する。一般的な生成AIはインターネット上の公開情報を学習しているが、新潟県内に限ると情報量が少なく、誤った答えを生成してしまうケースが少なくない。記事データベースを参照して回答を生成することで、詳細で高精度の回答が出せるとする。
顧客が希望する用途に応じて複数のテンプレートを用意しており、主な使い方として、企業の営業担当者が、訪問先の企業について調べるシーンなどを想定している。記事全体を読むことはできないが、サマリーとして回答が表示されるため、新聞を読まなくても短時間で正確な情報をキャッチアップできる。佐藤妙子・主任研究員は「新聞を読んでいない人にも新潟日報が蓄積した正確な記事データの価値を活用してもらえる」とメリットをアピールする。
主な顧客である新潟県内の企業の意識について、小原広紀・副所長は、人口減で新卒の採用が難しくなった企業が増えているなど、経営環境の悪化を背景にAI活用への期待は高いと指摘。「新聞社にとって記事は最大の資産だが、ビジネスに生かし切れていなかった。信頼性の高い記事を生成AIサービスにすることで、便利なかたちで使ってもらうことができる」と意義を強調する。まずは使ってみてほしいとの思いから、1ユーザーからのトライアルプランを用意。ユーザー企業内のデータを専用環境でRAG連携できる「DX戦略プラン」を採用する企業も増えており、想定以上のペースで導入は伸びているという。
地方新聞社が記事データベースを使って生成AIを提供する取り組みは全国で例がなく、各地の地方紙からも注目されているという。具体的に事業化できないかという問い合わせもあるといい、「当社の枠組みを提供していくことで地方活性化を後押ししたい」(小原副所長)と、ソリューションの横展開も見据える。
同社は生成AIビジネスで10年後に売り上げ100億円の目標を掲げる。新聞事業の落ち込みを補う事業の柱に育てていきたい考えで、AIを日本酒、米など新潟県の特産品と絡めたり、人手不足が顕著な医療や介護など業界ごとのステークホルダーと一緒に新しいソリューションを開発したりすることを計画している。鶴間社長は「新潟発の仕組みを定着させ、県外、世界へ発信していきたい」と展望する。
新潟人工知能研究所
AI開発と人材育成が両輪 学校法人グループの知見を生かす
新潟人工知能研究所は、新潟県を中心に専門学校などの学校法人を幅広く展開しているNSGグループ内のベンチャーとして17年に設立された。AI開発とAI関連の人材育成の二つを事業の柱としている。AI開発では、建設業、製造業などの企業向けに個社ごとに対応。最近は生成AIを活用したいという需要が高く、RAGやAIエージェントの開発に注力している。生成AIの先を見据え、ビジネスでの量子コンピューターの利活用も視野に入れている。
顧客は新潟県内と首都圏が半々程度。県内の企業からは、人手不足の中で事業を継続的に成長させるために、AIを現実的にどう生かせるのか提案してほしいという声が多く聞かれるという。上坂高寛社長は、自社の強みについて「グループ内に持つ専門人材と現場データだ」と解説する。NSGグループは、教育、医療、建設、スポーツなど幅広い分野で事業を展開しており、AI開発に必要な学習データと専門家の知見を保有。それらを製品開発に活用している。県内企業が首都圏のAI開発企業にソリューションの見積もりを依頼すると、高すぎて手が出ないというケースが多いといい、「地方ならではの現実的な価格で提案しているのも受け入れられている一因」と分析する。
現在力を入れているのが、専門人材の知識を広く活用できる仕組みの構築だ。製造業などでは職人が高齢化し、技術伝承が大きな課題の一つとなっている。そこで、熟練の職人のナレッジをデータベース化し、LLMに学習させることで、暗黙知を形式知に転換することを目指している。数社と事例をつくっている段階で、「熟練の技術をプロダクトに落とし込んでいきたい」(上坂社長)と、製品化して広く販売することを目指す。
もう一つの柱が教育の側面だ。データサイエンティストの育成で地域創生に寄与するというビジョンのもと、大学や大学院などで授業を実施。より若い世代に対する育成の取り組みとしては、中高生向けにAIやデータサイエンス教材を提供しているグループ内の企業と協業し、AI教育の教材開発にも力を入れている。また、指導者のAI知識向上も欠かせないとの視点から、専門学校の教員向けの講座も実施している。
取締役の佐藤修一・技術開発部部長は、以前はNSGグループ内のコンピューター専門学校で教員をしており、AI専門の学科を全国に先駆けてつくるなど人材育成に尽力した経歴を持つ。その際に感じた課題感として、「就職指導をすると、8割が東京に行ってしまった」と振り返る。同社では、AI開発のビジネスを展開することで、育成した人材の受け皿が広がるとの考えから、開発と教育を両輪に据え、自社でも積極的にインターンシップを受け入れている。佐藤部長は「育成したAI人材が地方で活躍できるフィールドをクライアントと一緒につくっていくのが重要になる」との見方を示し、AI人材を輩出し、活躍できる場を創出する良いサイクルを生み出したいと構想する。
上坂社長は、自社が売り上げを伸ばせば、AI関連の仕事で雇用できる人数を増やせると展望。事業としては開発の比率が高まっているが、「人材育成にも引き続き力を入れることで、新潟全体の底上げをお手伝いしていきたい」とした。
NINNO
地元活性化のイノベーション拠点 周辺地域と連携し地方発の新しい流れを
新潟市のJR新潟駅前に、スタートアップや地元企業が入居するイノベーション拠点「NINNO(ニーノ)」がある。商業ビルだった建物を、スタートアップ支援を強化していた新潟県の支援のもと、保有する不動産会社の木山産業が改修。イノベーションを共創する場として20年に設置された。開設時は7社だった入居企業は、47社に増えている。
木山産業執行役員の石川翔太・NINNO事業部長は、「競争型ではなく、地元融合型のイノベーションを生み出すことを目指している」とコンセプトを説明する。スタートアップは県内だけでなく、地元自治体などの支援に魅力を感じて県外から新潟市に拠点を構えるケースも多い。そこに既存産業の活性化を目指す地元企業、自治体、大学などが融合することで「産産官学」での共創を生み出そうとしている。新潟県が23年にアマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)と包括連携協定を締結して以降は、NINNOを会場にAWSジャパンを核としたセミナーなども開催され、地域企業のDXへの意識も高まりを見せている。
NINNOは、コミュニティーマネージャーのような人が企業同士をつなぐのではなく、自律的な交流を促す場という位置付けだ。毎月、入居企業の決裁者クラスの人が集まる定例会を開き「なんということはない雑談から『こんなことができるのでは』というアイデアが生まれている」(石川部長)。顔の見える間柄だからこそ、一緒に何かやろうとなった際の立ち上がりは早く、地元の大企業と入居するスタートアップとのオープンイノベーションプログラムや、新潟をフードテックタウンにしようと複数社が協業する動きが始まっているという。
NINNOの自律的なエコシステムを目指す取り組みが評価され、新潟県は6月、長野県とのコンソーシアムで内閣府のスタートアップ拠点都市に採択された。石川部長は「長野と組むことで、県の枠組みを越えて、より幅広い企業同士の協業の輪が生まれ、地域融合型イノベーションの可能性が広がる」と歓迎。長野だけでなく、それ以外の周辺自治体との連携も視野に、新潟が地方活性化の核になっていくことを目指していくとした。
日本全体で人口減少と労働力不足が加速する中、地方はその傾向がより顕著だ。この課題に直面する新潟では、人材不足を補い経済を活性化すること目指し、異業種からAI事業に進出する動きが起こっている。地方新聞社や学校法人グループによる、組織が蓄積してきた知見にAIを掛け合わせることで新しい価値を生み出し、それを地域に還元していこうとする取り組みを紹介する。
(取材・文/堀 茜)
新潟日報生成AI研究所
新潟県内で日刊紙を発行する新潟日報社は、AI開発のエクサウィザーズと協業し、自社の記事データベースを活用したAI事業を行う子会社、新潟日報生成AI研究所を2024年11月に開設。新聞記事を活用した法人向けサービス「新潟日報生成AI」の提供を開始した。
(左から)佐藤妙子・主任研究員、鶴間尚社長、小原広紀・副所長
背景には、人口減少に伴う新聞の部数減がある。新聞の販売や広告売り上げが落ち込む中、新規事業を模索。エクサウィザーズの共同創業者である石山洸・Chief AI Innovatorが新潟市出身という縁があり、記事データと生成AIを組み合わせることで、地域に新しい価値を還元するという事業の骨格が定まったという。
同社の生成AIは、新潟日報の過去15年分の記事データを、米OpenAI(オープンエーアイ)などの大規模言語モデル(LLM)にRAG(検索拡張生成)として連携している。他社のLLMに記事は学習させないので、新潟日報社の著作権を保護した状態で活用できる。最新の記事データも数日以内に反映。利用者が自然言語で尋ねると、記事を参照し回答を生成する。
鶴間尚社長は「新潟に特化しているのが一番のポイントになる」と解説する。一般的な生成AIはインターネット上の公開情報を学習しているが、新潟県内に限ると情報量が少なく、誤った答えを生成してしまうケースが少なくない。記事データベースを参照して回答を生成することで、詳細で高精度の回答が出せるとする。
顧客が希望する用途に応じて複数のテンプレートを用意しており、主な使い方として、企業の営業担当者が、訪問先の企業について調べるシーンなどを想定している。記事全体を読むことはできないが、サマリーとして回答が表示されるため、新聞を読まなくても短時間で正確な情報をキャッチアップできる。佐藤妙子・主任研究員は「新聞を読んでいない人にも新潟日報が蓄積した正確な記事データの価値を活用してもらえる」とメリットをアピールする。
主な顧客である新潟県内の企業の意識について、小原広紀・副所長は、人口減で新卒の採用が難しくなった企業が増えているなど、経営環境の悪化を背景にAI活用への期待は高いと指摘。「新聞社にとって記事は最大の資産だが、ビジネスに生かし切れていなかった。信頼性の高い記事を生成AIサービスにすることで、便利なかたちで使ってもらうことができる」と意義を強調する。まずは使ってみてほしいとの思いから、1ユーザーからのトライアルプランを用意。ユーザー企業内のデータを専用環境でRAG連携できる「DX戦略プラン」を採用する企業も増えており、想定以上のペースで導入は伸びているという。
地方新聞社が記事データベースを使って生成AIを提供する取り組みは全国で例がなく、各地の地方紙からも注目されているという。具体的に事業化できないかという問い合わせもあるといい、「当社の枠組みを提供していくことで地方活性化を後押ししたい」(小原副所長)と、ソリューションの横展開も見据える。
同社は生成AIビジネスで10年後に売り上げ100億円の目標を掲げる。新聞事業の落ち込みを補う事業の柱に育てていきたい考えで、AIを日本酒、米など新潟県の特産品と絡めたり、人手不足が顕著な医療や介護など業界ごとのステークホルダーと一緒に新しいソリューションを開発したりすることを計画している。鶴間社長は「新潟発の仕組みを定着させ、県外、世界へ発信していきたい」と展望する。
(取材・文/堀 茜)

新潟日報生成AI研究所
地方紙の記事データを活用 地域特化で価値を地元に還元
新潟県内で日刊紙を発行する新潟日報社は、AI開発のエクサウィザーズと協業し、自社の記事データベースを活用したAI事業を行う子会社、新潟日報生成AI研究所を2024年11月に開設。新聞記事を活用した法人向けサービス「新潟日報生成AI」の提供を開始した。
背景には、人口減少に伴う新聞の部数減がある。新聞の販売や広告売り上げが落ち込む中、新規事業を模索。エクサウィザーズの共同創業者である石山洸・Chief AI Innovatorが新潟市出身という縁があり、記事データと生成AIを組み合わせることで、地域に新しい価値を還元するという事業の骨格が定まったという。
同社の生成AIは、新潟日報の過去15年分の記事データを、米OpenAI(オープンエーアイ)などの大規模言語モデル(LLM)にRAG(検索拡張生成)として連携している。他社のLLMに記事は学習させないので、新潟日報社の著作権を保護した状態で活用できる。最新の記事データも数日以内に反映。利用者が自然言語で尋ねると、記事を参照し回答を生成する。
鶴間尚社長は「新潟に特化しているのが一番のポイントになる」と解説する。一般的な生成AIはインターネット上の公開情報を学習しているが、新潟県内に限ると情報量が少なく、誤った答えを生成してしまうケースが少なくない。記事データベースを参照して回答を生成することで、詳細で高精度の回答が出せるとする。
顧客が希望する用途に応じて複数のテンプレートを用意しており、主な使い方として、企業の営業担当者が、訪問先の企業について調べるシーンなどを想定している。記事全体を読むことはできないが、サマリーとして回答が表示されるため、新聞を読まなくても短時間で正確な情報をキャッチアップできる。佐藤妙子・主任研究員は「新聞を読んでいない人にも新潟日報が蓄積した正確な記事データの価値を活用してもらえる」とメリットをアピールする。
主な顧客である新潟県内の企業の意識について、小原広紀・副所長は、人口減で新卒の採用が難しくなった企業が増えているなど、経営環境の悪化を背景にAI活用への期待は高いと指摘。「新聞社にとって記事は最大の資産だが、ビジネスに生かし切れていなかった。信頼性の高い記事を生成AIサービスにすることで、便利なかたちで使ってもらうことができる」と意義を強調する。まずは使ってみてほしいとの思いから、1ユーザーからのトライアルプランを用意。ユーザー企業内のデータを専用環境でRAG連携できる「DX戦略プラン」を採用する企業も増えており、想定以上のペースで導入は伸びているという。
地方新聞社が記事データベースを使って生成AIを提供する取り組みは全国で例がなく、各地の地方紙からも注目されているという。具体的に事業化できないかという問い合わせもあるといい、「当社の枠組みを提供していくことで地方活性化を後押ししたい」(小原副所長)と、ソリューションの横展開も見据える。
同社は生成AIビジネスで10年後に売り上げ100億円の目標を掲げる。新聞事業の落ち込みを補う事業の柱に育てていきたい考えで、AIを日本酒、米など新潟県の特産品と絡めたり、人手不足が顕著な医療や介護など業界ごとのステークホルダーと一緒に新しいソリューションを開発したりすることを計画している。鶴間社長は「新潟発の仕組みを定着させ、県外、世界へ発信していきたい」と展望する。
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