Special Issue

<GreenIT特集> 世界中の課題である温室効果ガスの削減 「グリーンIT」をキーワードとした市場が立ち上がる

2008/02/05 19:56

週刊BCN 2008年02月04日vol.1221掲載

 「地球温暖化」。産業や森林開発により、二酸化炭素やメタン、亜酸化窒素などの温室効果ガスが大量に放出され、その結果として地球全体の平均気温が上昇し続けている。地球温暖化は、自然の生態系などに悪影響を及ぼすおそれがあるとして、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目的とした「気候変動枠組条約」など、国際的な枠組みを設定する動きも出てきている。今、地球環境に配慮した製品・サービスの提供が求められている。

基準年比マイナス6% 温室効果ガスの削減目標

 「気候変動枠組条約」の目的を達成するため、第3回締約国会議で採択されたのが「京都議定書」だ。「京都議定書」は先進国に対し、第一約束期間(2008年から12年)の間に、温室効果ガスを基準年(90年)比で一定数値の削減を義務づけている。京都議定書により、日本は温室効果ガスの排出を6%削減しなければならない。

 しかし、温室効果ガスの排出量は増加傾向にある。経済産業省が07年12月6日に発表した「グリーンITイニシアチブ」の資料によると、05年における日本の温室効果ガスは13.6億トンで、基準年比7.8%増になっている。

 地球温暖化対策は、すでに全世界的なプロジェクトとして動き始めている。日本においても、07年5月24日、国際交流会議「アジアの未来」の晩餐会で、当時の安倍内閣総理大臣より「美しい星50」という提案が行われた。これは、温室効果ガスの「世界全体の排出量を現状に比して50年までに半減する」という長期目標を設定。「革新的技術の開発」に加えて「低炭素社会づくり」を実現し、生活様式や社会システムの変革にまで踏み込んだ改革を打ちだすというものだ。さらに、京都議定書の目標達成に向けた国民運動を展開し、制度的な対応を含めた取り組みを強化するとしている。

 また、このスピーチの中で公害やオイルショックに起因する環境規制や省エネ対策により、「過去30年でエネルギー効率が37%改善され、GDPが2倍となるなか、石油消費量が8%減少した」という実績が語られている。燃費に優れた自動車や省エネ型の電化製品の開発により、国際競争力も実現した。過去の経験から、技術革新を実現すれば、温室効果ガスを削減するだけでなく、国際競争力の強化にもつながることがわかる。

 環境負荷の低減が求められるなか、大きく注目されているのが情報通信技術分野である。現在、生産・流通・消費といった経済活動や行政の効率化を飛躍的に進展させている情報通信技術。これらの情報通信機器は、今後、さらに増加・高機能化することは想像に難くない。しかし、それに伴い、これらの機器が消費する電力も増大する。つまり、環境負荷の増大が危惧されているのである。経済産業省の試算によれば、社会で扱う情報量は、25年にはおよそ200倍、消費電力はおよそ5倍、2400億kWhになると予想している。

 環境問題は日本だけの問題ではない。08年7月には、日、米、英、仏、独、伊、加、露の8か国の首脳および欧州連合(EU)の委員長が参加するG8北海道洞爺湖サミットが開催される。このG8サミットの主要テーマとして世界経済だけではなく「環境・気候変動」が話し合われる予定だ。議長国である日本が目指しているのは「環境立国日本」としてリーダーシップを発揮し、ポスト京都議定書と言われる13年以降の国際的な枠組みに関する国連での議論の後押しすることなどである。特にポスト京都議定書においては、(1)途上国を含む主要排出国が全て参加すること、(2)柔軟かつ多様性があること、(3)省エネなどの技術を活かし、環境保全と経済発展とを両立することを重視する、としている。

グリーンITは新しいビジネスチャンスか

 情報通信技術は、電力を消費するというマイナスの面だけではなく、業務効率化による資源・エネルギーの効率化を実現し、温室効果ガスの削減をもたらすというプラスの効果も高い。マイナスの効果を減らし、プラスの効果を高めるようにシステムを利用することが求められ始めている。つまり、「グリーンIT」は新しいビジネスチャンスのカギを握っているのだ。

 例えば、テレワークや電子会議、物流・配送管理支援システムなどにより、生産・流通の効率化を図り、物や人の移動を削減するだけでも、温室効果ガスを大幅に削減できるだろう。これはユビキタスネットワーク社会が進展すれば、意識しなくても自然に省エネ化できる。さらに電子決済システムの導入によりペーパーレス化を進め、節電などによりエネルギー利用効率を改善することで、その効果はさらに高まる。これらの活動は無駄な運用が削減できるため、運用コストの低減を実現するという効果も得られる。

 グリーンITが求められるなか、ネットワークの重要性は増している。現在も、企業には多くのネットワーク機器が導入・運用されている。それらの多くは、24時間365日稼働が前提となり、信頼性が何よりも求められている。ネットワークに障害が起きれば、ビジネスの停止も余儀なくされ、生産性が著しく低下するためである。しかし、今後は信頼性に加え、低消費電力が求められることになる。この流れは止まらないだろう。また、経済産業省は「環境保護と経済成長が両立する社会」の構築に向け、日本の強みである「もの作り」と「環境・省エネ」の技術力を背景に、生産・社会・国民生活といったあらゆる局面の変革を行うため「グリーンITイニシアティブ」を展開。産学官の連携を強化し、先進的な省エネ技術開発を推進していく。また、中長期を見据えた革新的IT技術を開発する「グリーンITプロジェクト」もスタートする予定となっている。

 さらに、製造プロセスの省エネだけではなく、製品・サービスの提供を通じたサプライチェーン全体で、社会への環境負荷低減に貢献する取り組みも検討されている。地球温暖化防止は、全世界に課せられた課題だ。新しい技術を開発し、製品・サービスに生かすことで、新規市場の開拓も可能となる。


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ディーリンクジャパン 「グリーンIT」を柱に育てる
環境に配慮した新シリーズ「Green Ethernet」を投入

 京都議定書で決まった温室効果ガスの排出削減を実現すべく、世界をあげた運動が活発になっている。IT機器による消費電力の増大も問題視されており、企業として無視できない問題になりつつある。ディーリンクジャパンでは、2007年12月、環境に配慮した省エネ エコロジー・ギガスイッチ「Green Ethernet」シリーズを投入。「グリーンIT」をキーワードとして、新たな訴求を行っていく。

京都議定書を受けて温室効果ガスを6%削減へ

 地球温暖化問題は、いま、世界全体で取り組むべき最重要課題として認識されている。二酸化炭素など温室効果ガスについての排出削減義務などを定めた「京都議定書」は、140か国の国々や欧州共同体が締結し、05年2月16日に発効されている。

 京都議定書により、日本は温室効果ガスを1990年代比で6%削減するとし、その実現に向けて官民共同で多くの取り組みを行っている。その中の1つ、国民的プロジェクトである「チーム・マイナス6%」に、ディーリンクジャパンも参画している。

 しかし、目標実現への道のりは平坦ではない。05年の日本における温室効果ガスの排出量は基準年比7.8%増となっており、すでに産業界における自主行動計画の強化を含めた追加対策を検討しなければならない局面にきている。

 そのような状況のなか、07年12月、第1回「グリーンITイニシアティブ会議」が開催された。ここでは、21世紀型の「環境保護と経済成長が両立する社会」の構築に向けて「ITの省エネ」および「ITを活用した省エネ」を進めるための枠組みなどについて議論されている。

 「経済産業省の試算によると、IT機器による消費電力量の増大も試算されており、25年には現在の5倍に達するとしています。実際、IT機器による消費電力の増大という問題は深刻化しており、対策は急務となっています。それらの課題解決に貢献するため、07年12月に省エネルギー化の実現とネットワークの運用に必要なエネルギーコストを削減する製品ラインアップを揃えました」と、マーケティング本部・プロダクトプランニングの澤太一マネージャーは語る。

 ディーリンクジャパンでは、07年12月14日より省エネ エコロジー・ギガスイッチである「Green Ethernet(グリーン イーサネット)」シリーズを展開。第一弾として、アンマネジメントのギガスイッチがリリースされ、順次上位クラスの製品にも対応していく予定だ。

環境に優しく運用コストも削減へ

 ディーリンクグループは、61か国に114拠点を設け、ワールドワイドで展開している。06年の実績で約300万ポートのギガビットスイッチを提供している。非常に巨大な市場に対して製品を投入していることが、この数字からも明らかである。

 ディーリンクグループが「Green Ethernet」を展開することで、世界各国で消費している電力を大幅に削減できる。機器1台1台での効果は微々たるものかもしれないが、まとまることによる効果は計り知れない。グリーンITをキーワードとしたディーリンクの取り組みは、世界各国で注目されている。

 「Green Ethernet」は、使用されていないポートを自動的にスリープ状態にし、消費電力を大幅にカットするほか、信号出力も実際のケーブル長に合わせて調整し、必要最低限に制御することができる。

 「通常のスイッチは、ポートのアクティブ/非アクティブにかかわらず、常に電力を消費しています。深夜など誰もネットワークを使っていなくても、電力は無駄に消費されているのです。当社の試算によれば、使っていないポートの電力をカットすることで、最大約80%の消費電力をカットできます」(澤マネージャー)。

 「Green Ethernet」は、ケーブル長に合わせた電力出力ができるという特長を備えている。Ethernetでは100mまでの伝送を保証しており、信号出力も100mの伝送を前提に設計されている。しかし、ほとんどのオフィスでは、もっと短いケーブルが使用されているため、ここでも必要以上の電力が消費されていることになる。また、消費電力を抑える二次的な効果として、発熱量が抑制され、結果として製品寿命を延ばすといった効果も期待できる。

 「アンマネジメントのギガスイッチは、企業でもっとも導入されているネットワーク機器だと思います。その部分を“Green Ethernet”に変更するだけでも、かなりの効果が得られます。特に、中堅企業や大企業など多くのスイッチを利用しているケースでは効果が高くなります。また、価格帯も、通常のアンマネジメントのギガスイッチの価格帯に合わせてありますので、購入しやすい製品だと思います」(澤マネージャー)。

 「Green Ethernet」が発売されて間もないが、すでに官公庁や企業からの問い合わせが多いという。この事実からも、無駄なコストを削減し、環境負荷を低減させたいというニーズが高いということがわかる。また「グリーンIT」という付加価値を高めているだけではなく、価格帯も市場にフィットさせ、導入を促している。08年上半期には、「Green Ethernet」シリーズをマネジメント系のスイッチに拡大する予定で、製品の開発を行っている。

 「エントリーからハイエンドまで、“Green Ethernet”を展開することを目標とし、すべてのラインアップで省電力化を実現していきたいと思っています。障害もありますが、地球環境負荷を低減する活動は、ディーリンクグループとしても非常に重要だと考えています」(澤マネージャー)。

 今後、同社は「セキュリティ」「グリーンIT」を二本柱に、ソリューション展開を行っていく。(週刊BCN 2008年2月4日号掲載)

ディーリンクジャパン=http://www.dlink-jp.com/

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