Special Issue

日本エイサー 次のエマージングマーケットは「日本」 基盤固めから次のステージにコーポレートマーケット元年へ向けて始動

2008/02/06 19:56

週刊BCN 2008年02月04日vol.1221掲載

 日本エイサーは、ワールドワイドで大きくビジネスモデルの転換を図った2002年以降、日本市場においても2桁成長を続けている。コンシューマ市場を中心に「インダイレクト・セールス」を展開し、販売チャネルの拡充で着実に足場を固めてきたが、2008年はコーポレートマーケットにいよいよ攻勢をかける。ボブ・セン社長に、世界第3位のPCメーカー・エイサーの日本戦略について話を伺った。

■イノベーションを推進して成長 日本のPCマーケットに注力

 ワールドワイドで世界第3位のPCメーカーとして、着実に成長を続けるエイサーは、時代の流れに応じてコアビジネスの変革を推し進めてきた。

 日本エイサーのボブ・セン社長は、「2000年から2002年にかけて、エイサーは多製品から単一製品にコアビジネスを転換しました。2002年以降は自社生産からOEM供給に切り替え、それを機にワールドワイドで急成長を遂げています。日本エイサーも、今年で創立20周年を迎えますが、2002年に販売チャネルを整備し、LCDを中心に大きな方向転換を図りました。2004年からは体制を一新してノートPC市場にも参入。コアビジネスを限定した結果、2002年以降は毎年30%を超える成長を続け、着実にマーケットを拡大しています」と、日本市場での足跡を振り返る。

 そして現在、エイサーは、ゲートウェイを買収し、パッカードベルとの合併も秒読みの段階になっている。それを足がかりに強大な欧米市場で確固たる地位を築くこととともに、エマージングマーケット(新興市場)にフォーカスし、インドや中国などにも活躍の場を広げている。

 「世界でも有数のマーケットを持つ日本へ、2008年はエイサーの本格的なアプローチが始まります。今までエイサーが注力してきたどこよりも、日本のマーケットは本当の意味でエマージングマーケットになるでしょう」とボブ・セン氏は確信する。世界的に躍進するPC企業が、次のターゲットを日本に決めたことで、日本エイサーの動きも一気にアクセルがかかっている。

■販売チャネルを拡充 コンシューマからコーポレートへ

 日本ではエイサーをまだ知らない人も少なくないが、「かつて日本のPCメーカーにマザーボードなどをOEM供給していたこともあり、一部の間では知る人ぞ知る存在でした。しかし、昨年は販売店へ積極的にアプローチして、一般ユーザーにまでブランドは広まってきました。2008年は販売店の拡充を目指し、3倍以上の取扱い店舗にすることで認知度の向上を目指します」と、ボブ・セン氏はチャネルの開拓、ブランド向上の二つを同時に狙うという。

 日本エイサーでは、ワールドワイドの方針に沿って、これまでコンシューマを軸に、販売店や販売会社を通じて間接的にユーザーに販売する『インダイレクト・セールス』を展開してきた。ダイレクト・セールスに対抗するため、台湾に拠点を置く調達力を武器に、いち早く最新のテクノロジーを搭載。また『Empowering People』というコンセプトを掲げ、高い技術力を以って結果的に“使いやすさ”を訴求することで、エイサーブランドの知名度は確実にアップしつつある。

 さらに、2008年は、主軸であるコンシューマを抑えつつ、中小企業を中心としたコーポレートマーケットの拡大にも取り組んでいく構えだ。

 ボブ・セン氏は、「巨大なコーポレートマーケットは、知名度の低い企業が参入できるほど甘くはありません。まずは基盤を作ること、その意味でもコンシューマ市場で足場を固める必要がありました。また、販売チャネルの拡充と併せ、社内の生産革新により効率化を推し進めた結果、価格競争力も強まっています。機は熟しました。2008年はコーポレートマーケットに打って出ます」と意気込みを明かす。

■製品ラインアップを強化 使いやすいデザイン

 コーポレートマーケットでは、コンシューマ市場以上にコストパフォーマンスや使いやすさなど、より高い要求に応えていく必要がある。

 「デスクトップPCに関しては、2007年にサイズを容積で表す、“3リットルPC(ダイエットPC)”を発売しました。従来のマイクロタワーの約10分の1の大きさ、消費電源やノイズをカットしながら全体のパフォーマンスは変わらない製品で、日本市場にフィットした特長を備えています」(ボブ・セン氏)。さらに、2008年にはビジネス市場に向けて「TravelMate」の発売も予定されている。

 こうしたビジネス仕様の製品拡充を図る一方、現在のビジネス基盤であるコンシューマにおいても、「Aspireシリーズには、独自アプリケーションのAcer Arcadeを添付して使い勝手を高めています。また、滑らかなカーブと優雅さを備えたノート型PCやフェラーリモデルなど、色使い、味のあるデザインはポイントの一つです」と、コーポレートとコンシューマの双方において、ボブ・セン氏は使いやすい未来を発信する日本エイサーの機能性、デザインを強調する。そのこだわりが正しいことは、グッドデザイン賞の受賞が証明しているといえるだろう。

■地道な活動がいま結実 本格攻勢がスタート

 コーポレートにおける本格攻勢が始まる中で、「商品のスケジュールにもよりますが、LCDは2008年、コーポレートユーザーを50%以上にすることを目標にしています。デスクトップは、現在の90%のコンシューマの割合を30%から40%を法人へシフトしたいと考えています。ノートPCについては商品計画がまだ具体的になっていませんが、10%から20%のコーポレートユーザーを獲得したいと思っています」と、具体的なゴールに突き進む。

 ボブ・セン氏は続けて、「今年は順位、シェアにもこだわっていきます。まずは、日本のPC市場全体で早くトップ10に入りたいと思います。それが2008年の第一目標です。また、現在のパソコン出荷台数では、1%にも達していませんが、まずはその数字をクリアしていきます。1%という数字は低いと映るかもしれませんが、これまでは本社の注力分野があるため、我慢してきました。2008年はエイサーグループの後押しもあるので、積極果敢にトライしていきます」と、力強く抱負を述べる。

 世界第3位のPCメーカーが、活躍の場を日本に移し、いよいよ快進撃が始まる。日本エイサーのさらなる活躍に注目だ。
ページ数:1/1 キャプション:

製品ラインアップを倍増へ
インダイレクト・セールスの強み 共同マーケティング、共同営業で支援

 日本エイサーを語るうえで欠かせないのが「インダイレクト・セールス」。コンシューマ市場に注力している同社にとって、コストパフォーマンスなど市場優位性をもたらしているが、その生命線となるパートナーの役割は大きい。そこで、営業本部・小宮山智昌本部長と、プロダクトマーケティング・入沢隆弘リーダーに、販売パートナー戦略と製品について話を伺った。

■集客力のある販売店でコーナー展開 ディストリビュータを支援

 多くのPCメーカーがダイレクト・セールスを行う中で、日本エイサーの「インダイレクト・セールス」は、ユーザーのみならず、販売店、販売会社にも大きなアドバンテージをもたらしている。

 小宮山智昌営業本部長は、「ダイレクト・セールスと違い、インダイレクト・セールスは、社内の生産改革により、コストを極力抑え、販売店様や販売会社様に利益を還元します。販売チャネルを通じて製品が売れ、それにより利益が還元されるという、共存、共栄によりマーケットを作ってきました」と語る。ハードウェアの利益率が下がっている昨今、こうした取り組みは市場の活性化に一役買っている。

 その取り組みをスパイラルアップさせるため、「コンシューマに関しては、秋葉原、梅田といった集客の多い店舗にエイサーのコーナーを拡大していきたいと考えています。製品を見て、触って、ショールームのように、数多くの人に知ってもらいたいですね。2008年は、集客が多いところ以外にも、全国各地でエイサー製品に触れるコーナースペースを拡大していきたいと思います」(小宮山本部長)。

 また、コーポレートマーケットに関しては、既存の大手ディストリビュータ2社と協力して販売比率を高めていくという。ディストリビュータでは、地方の企業を集めた展示会を開催することもあり、そのイベントに日本エイサーが参加することで、認知度向上を図る計画だ。

■充実した製品力が決め手 ニーズに即した新製品を投入

 販売店や販売会社において、エイサーブランドを広めるためには、製品の充実も重要な鍵を握る。

 「既存製品では、需要の高いWindows XPとVistaの両方を揃え、さらに10万円以下で購入できるブロードバンドセットなどの充実に努めています。現在の『Aspire』は丸みを帯びたデザインで女性や初心者などを意識した使いやすい作りですが、上半期内には新しいデザインで企業向け機能を強化したノートPC『TravelMate』の発売も予定しています。TravelMateには、指紋認証などセキュリティ要素を盛り込んで、ビジネスニーズに応えていきます」と小宮山本部長。

 さらに、製品を管理する入沢隆弘リーダーも、「コンシューマに関しては、ラインアップをさらに増やし、販売店にも、ユーザー様にも購入しやすいような価格帯、付加価値の高いスペックの製品をご提供できる準備が整っています。おそらく約2倍の製品ラインアップになるでしょう。期待してください」と、ラインアップの拡充で製品の訴求を図る。

 例えば、コンシューマではオンラインゲーム向けのPCを昨年12月に発売した。CPUにはインテルのクアッドコア(Quad Core)、HDDは500GB、メインメモリは4GBを搭載し、価格もリーズナブルに抑えられている。

 現在はゲームソフトメーカーとタイアップして市場を盛り上げており、こうした今までの日本エイサーにはなかった取り組みも始まっている。「ハイスキルなユーザー様から初心者ユーザー様に対しても、ご期待に添えるように、リクエストに応えていきます」(入沢リーダー)と、今後も様々なコンセプトのマシンが、市場を賑わせることになりそうだ。

 最近は、環境問題も製品選びの重要なポイントになっているが、エイサーの製品は、環境に厳しいヨーロッパで鍛えられているため、人にも、環境にもやさしいと高く評価されている。同社のコンセプトである『Empowering People』が人と技術の懸け橋となり、使いやすい、環境にもやさしい製品の原点となっている。そのこだわりこそ、エイサーの強みといえるのだ。

■長期的に良好な関係 一緒にマーケットを開拓

 日本エイサーが、販売店、販売会社とパートナーシップを図るうえで、大切にしているのは信頼関係である。

「ディストリビュータ様とともに、共同営業、共同キャンペーンなどを通じて、コミュニケーションを図っていきます。また、在庫管理にも注力していきます。ディストリビュータ様、販売店様の実売と在庫を把握することで、さらなる拡販対策、支援を強化していきます。そのためには、ディストリビュータ様、販売店様との連携を密にしていくことが大切です」と小宮山本部長はリレーションの重要性を説く。

 これまで日本エイサーは堅実に日本のマーケットを開拓してきたが、今後は商品もさらに充実してくる。コンシューマからコーポレートへ、目標の実現に向けて視界は良好だ。2008年の同社の展開から、ますます目が離せなくなってきた。(週刊BCN 2008年2月4日号掲載)

  • 1

外部リンク

日本エイサー=http://www.acer.co.jp/corp/bcn/