Special Issue

ICT+クラウドのディストリビュータを目指すソフトバンクC&Sの戦略

2016/11/10 19:54

週刊BCN 2016年11月07日vol.1652掲載

クラウド、IoT、AI、ロボットの4領域に注力

 日本のICT市場が成熟期を迎えるなかで、ソフトバンク コマース&サービス(ソフトバンクC&S)のビジネスが大きく伸びている。同社は、ICTのディストリビュータからICT+クラウドのディストリビュータへの変換を進め、クラウド、IoT、AI、ロボットの4領域に注力する方針を打ち出す。一方で、既存のビジネスも強化しクオリティをさらに高めていくという。高瀬正一・上席執行役員エンタープライズ事業担当と草川和哉・執行役員ICT事業本部長に同社の戦略を語っていただいた。

厳しい市場環境のなかで大きく成長を遂げる

──現在の市場動向をどのようにみておられますか。また、業績への影響はどうでしょうか。
 

高瀬正一
上席執行役員
エンタープライズ事業担当

高瀬 調査会社のレポートなどによると、春先は円高などの要因で輸出企業を中心にIT投資を控えていることなどから、やや厳しいといわれています。そうした市場動向に反して、当社は順調に業績を伸ばしており、全体で二桁成長を達成しています。

 個別でいえば、サーバーやクライアントPCは年初決してよくありませんでした。しかし、現在までにかなり復調しており、前年並みにまで回復してきました。同じハードウェアでも、スマートデバイスは二桁の伸びを記録、ハード全体ではプラスです。

 また、ネットワーク系も二桁成長と大きく伸びています。ソフトウェアについては、クラウドにシフトしているベンダー、例えば、マイクロソフトやアドビ システムズを中心に大きく伸びました。

 もう一つ、仮想化では政府が掲げる「ネットワーク(インターネット)の分離」というキーワードに絡んだニーズが好調で、こちらも二桁の成長を達成しました。
 

草川和哉
執行役員
ICT事業本部長

草川 仮想化については、エンドユーザーコンピューティングやネットワーク仮想化を中心に少なくとも向こう数年はさらなる需要拡大が見込めると考えています。とくに、今年、来年はインターネット分離をキーワードにVDIやDaaSの需要があります。当社も導入に踏み切っていますが、VDIを前提として働き方を変える、その一環としての在宅勤務など、ワークスタイルの変革もキーワードの一つになっています。

――これだけの成長につながった具体的な施策について教えてください。

草川 仮想化についていえば、当社は十数年前からいち早く取り組みを進めてきたことが大きいですね。2008年にVMwareが買収したThinApp(当時Thinstall)の時代からクライアントアプリケーションの仮想化に取り組み、その強みを生かし、VDIやDaaS環境を提案できる多くの技術者が社内に育ちました。そのベースがあったからこそ、現在の成果につながっていると考えています。8年ほど前からスペシャリストによる販売推進部隊も設置して、パートナーの方々をサポートするための特化した体制を整備しました。

 以前はサーバーの仮想化が中心でしたが、今はクライアント、ネットワーク仮想化へと中心が移っています。インターネットの分離もあるので、まだまだ好調な需要が続くでしょう。

――サーバーは、仮想化やクラウドの普及が影響しているのですか。

高瀬 仮想化による統合やクラウドの普及で、単独のサーバーは影響を受けているかもしれません。一方で、企業が扱うデータ量は増えているのでストレージのニーズは増加しています。また、スケーラブルなシステム需要に対応した新たな商材がハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)であり、今後、われわれとしてはHCIに注力していく方針です。
 

ICTとクラウドのディストリビュータへ

──ICT事業本部としてはどのような方向性をお考えですか。

高瀬 当社は、ITのディストリビュータからスタートし、キャリア回線をもつICTのディストリビュータとなり、現在はICT+クラウドのディストリビュータを目指しています。ただし、既存のサーバー、PC、周辺機器、ソフトウェアといったビジネスを疎かにすることなく、より強化し、クオリティもさらに高めてパートナーの方々に提供していきます。実際、既存ビジネスも順調に伸びていますし、既存と新規、二つの柱を今後のビジネスの両軸として展開していきます。

──クラウド・ディストリビュータとして目指す姿とは、どのようなものですか。

高瀬 経営基盤を安定させるため、ストックのビジネスを高めたいと考えています。一方、月額課金となると、既存のワンショット型SI案件と比べると単価は圧倒的に小さくなる。そのため、とくに現場の理解が得られにくく、業務も煩雑になりがちです。そうしたパートナーの方々が抱えている課題を私たちが少しでも吸収していきたいと考えています。

 具体的な取り組みとして、このほど開始したパートナー様のクラウド販売を支援するためのプラットフォーム「Cloudix」があります。ディストリビュータとして、当社ならではのバリューの提供を通じて、パートナー様のクラウドビジネスをお手伝いしていくことを目指しています。

草川 Cloudixについては、複数のパートナー様からすでに事業計画に組み込んでいるので、早くしてほしいとの声をいただき、現在、すでに数十社から申し込みを受けており、とても高い関心をいただいていると自負しています。

 とくに、クラウドビジネスについては、ユーザーの方々によるクラウドファーストの意識が高くなったこともあり、より多くのパートナー様のクラウドビジネスへの取り組みが増えてきていると感じています。
 

今後の注力分野はクラウド、IoT、AI、ロボット

──今後のビジネス戦略で注目されているカテゴリや商材について教えてください。

高瀬 ソフトバンクがグループをあげて取り組んでいるのが、クラウド、IoT、AI、ロボットの4分野です。

 クラウドについては、お話ししてきた通りクラウド・ディストリビュータを目指しています。IoTについては通信と関わるものであり、ビッグデータの蓄積で新たな領域が生まれて、ストレージのニーズも高まることから、当社としてもとくに力を入れていきます。AIについては、「IBM Watson」を中心に考えています。今は社内でもどのような活用をすべきか、検討を重ねている最中であり、数年先も見据えたビジネスを考えてチャレンジしていきます。ロボットについては、「Pepper」だけでなく広くドローンも含めて考えており、さまざまな取り組みを模索しています。

――AIやIoTで、すでに行っている具体的な取り組みがあれば、教えてください。

草川 現在のAIの活用例のほとんどはコールセンター関連です。一方、当社が取り組んでいるのは、通常業務でAIを活用するものです。具体的には、見積もりデータをすべてAIに取り込んで、そこから成約率の高い見積もりの傾向を探るという取り組みにチャレンジしています。

 当社は、年間で全国のパートナー様から数兆円にもなる見積もり依頼を受け、担当者が返信しています。このデータと実際の受注データとを組み合わせると、見積もりの成約の可否がわかるようになります。例えば、8割が判明すれば、内勤営業は残りの2割の案件を追いかけたほうが圧倒的に効率がよくなり、さらなる案件の獲得にもつながるわけです。さらに、この仕組みを確立してパートナーの方々に解放すれば、一気通貫の見積もりが可能となり、業務効率の向上に貢献できるようになるでしょう。

高瀬 こうした取り組みが可能なのも、ソフトバンクがIBM Watsonの日本語版をIBMと戦略的提携を行ったのがきっかけとなり、AI関連のビジネスにC&Sとしても取り組み始めたからです。

草川 IoTでは一例としてトラックの追跡システム(ドライブレコーダー)があります。これは従来、タコグラフで行っていた運転管理を、SIMカードを使用して通信でサーバーに飛ばすことでリアルタイムの管理を可能にします。これにより、具体的な運転の状況を逐次把握し、リスク管理に役立てることができます。

 また、注目度が高いドローンがあります。販売開始からわずか3~4か月で、すでに数千台以上の販売をしております。地方自治体をはじめ業種特化で活用されているケースが目立っています。国土交通省による飛行許可基準の整備も進んでくることから、今後は活用できる業種はさらに増え、新たなサービス、アプリケーションが生まれると感じています。そういったニーズへの対応をできるようにするため、多くのベンダーの方々からアプリケーションを集めて、パッケージ化していく取り組みも進めています。
 

新しいベンダーを開拓しビジネスを創り出す

──新たに取り組まれていることがありましたら教えてください。

高瀬 今、力を入れているのは、新しいベンダーの開拓です。最近では、シリコンバレーに技術者を派遣して有望なベンダーを回って、日本でビジネス展開ができるかを検討するといった取り組みを実施しました。また、製品ではIoTに特化したベンダーに注目しています。IoTでは、PCの時代とは比べものにならないほど多くのデバイスがつながるわけですから、さまざまな製品が開発、販売されると考えています。

──最後に、販売パートナーの方々にメッセージをお願いします。

高瀬草川 常に新しいビジネスを創造して、バリューを感じていただけるようにしていきます。加えて、既存の製品・サービスに対するクオリティをさらに高めていきます。こうした取り組みを具体的に組織化して、継続していることが当社の強みであり、使命でもあると考えています。これからもぜひ、当社の取り組みに期待していただきたいと思います。
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外部リンク

ソフトバンク コマース&サービス=http://cas.softbank.jp/