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プリンタメーカー座談会2023 激変するプリンタビジネス 業務アプリ連携の強化や環境性能を訴求

2023/04/20 09:00

週刊BCN 2023年04月17日vol.1965掲載

 オフィスを中心としたビジネスプリンタの使用頻度や方法は働き方の変化によって大きな影響を受けた。主力の複合機ではプリンタ機能による出力だけでなく、「スキャナ機能を使って紙文書を読み取り、業務アプリケーションに受け渡す」といった連携機能が重視される傾向にある。また、電気料金の高騰で省エネ性能も一段と求められるようになった。今回、BCNは3年ぶりとなるプリンタメーカー座談会を開催し、コロナ禍での市場の変化を振り返るとともに、2023年に注力する分野・業界、販売戦略について、エプソン販売、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(富士フイルムBIジャパン)、リコージャパンのキーパーソンに話を聞いた。
(司会・進行:週刊BCN記者 安藤 章司)

デジタル化の流れでボリュームは減少 台数増や独自のITソリューションでカバー

――コロナ禍で働き方が大きく変わるなかで、ユーザーのプリンタに対する需要はどのように変化しましたか。販売増につながった具体的な製品やサービスがあれば教えてください。

福田(エプソン販売) オフィスプリンタについては、私たちはまだチャレンジャーということもあり、市場全体が縮小傾向でプリントボリュームも減少するなかでも、当社のシェアは拡大しました。
 
電力消費を大幅削減 圧倒的な環境価値 環境対応は待ったなし
エプソン販売
販売推進本部副本部長
福田雄一郎氏

 一方、在宅ワーク、在宅学習が増えたことで(ビジネス向け商品も含めた)コンシューマー市場が大きく伸びました。20年、21年はすぐに商品自体が売り切れとなり、インクもひっ迫する状況でした。モノの供給という点でも、生産拠点がコロナ禍の影響を受けたことで、お客様にご迷惑をおかけしたと思っています。

 コロナ禍の終息が見えてくるなかで、コンシューマー向けニーズは落ち着き、年賀状需要もかつてほどの勢いはありませんが、一方で複合機の販売は順調で、文教向けを中心にかなり受け入れられました。プリンタ全体として見ると、プリントボリュームの減少分を台数の増加でカバーできたと捉えています。

――オフィス回帰が進むなかで、今後はプリントボリュームの増加は望めそうでしょうか。

福田(エプソン販売) 増加するでしょうが、全体のトレンドとしてデジタル化、ペーパーレス化の流れがあり、元のプリントボリュームには戻らないでしょう。そこで、これまで当社の商品をお届けできていなかった方々に向けて、インクジェットの環境性能を評価してもらい、販売台数を増やすことで、カバーしたいと考えています。

大森(富士フイルムBIジャパン) 当社もエプソンさんと同様に、22年からオフィス回帰が進んできたものの、プリント需要は同様ではないと考えています。それを見据えた上で、ペーパーレス、リモートワークなど、ITソリューション商材に関わるニーズの増加に対応すべく、注力しています。
 
複合機を業務デジタル化の入り口に DX実現の懸け橋になる 地域密着のパートナーシップ
富士フイルムビジネスイノベーションジャパン
販売推進部販売促進室 室長
大森章司氏


――具体例があれば教えてください。

大森(富士フイルムBIジャパン) コロナ禍において、全国のセブン-イレブン店舗に設置されたマルチコピー機による「ネットプリントサービス」の需要が伸びました。ただ、テレワークの普及などの働き方の変化から、例えば、営業担当者が社外でプリントして、お客様に書類を届けるといったスタイルが進んできたことなどが背景にあると感じています。働き方の変化に対応し、大都市圏で展開する個室型ワークスペース「CocoDesk(ココデスク)」の設置台数も増やしています。

 3年間のトータルで見れば、プリンタと複合機の販売台数は伸びました。サプライヤーの方々の協力もあり、製品の供給もしっかりできたと思います。一つの要因として、ペーパーレス化に取り組む上でも、複合機で紙をスキャンすることなどが業務のデジタル化の入り口になっていますし、お客様がオフィス機器に求めるニーズも変化してきました。そこに向けた価値を少しずつですが届けられたと感じています。今は、お客様が保有されているクラウドサービスや業務アプリケーションと複合機連携により、機能をフルに生かし、お客様のDX化に向けての提案を進めています。

福留(リコージャパン) 当社はオフィス向けの比率が高いこともあり、事業環境の変化を強く感じました。主力の複合機の製造に関わるサプライチェーンの乱れが影響したこともあり、複合機販売に依存するのではなく、例えば情報セキュリティ関連商材やルータ、さらにITソリューションとしてリモートワーク系の商材などへとかじを切って対応しました。売り上げ全体では数字を出せていますが、内訳をみるとプリンタ系の商材の落ち込みは否めません。
 
複合機はデジタル化の入り口 業務を理解し、改善提案 業種ごとのきめ細かな対応
リコージャパン
デジタルサービス企画本部
オフィスプリンティング 事業センター
ドキュメントソリューション 企画室 室長
福留 剛氏

――プリンタの落ち込みをカバーするITソリューションとして、具体的にはどのような提案をしてきましたか。

福留(リコージャパン) リモートワーク対応に関連して、インフラ整備が遅れていた中小企業のニーズをうまく拾えました。当社はコロナ禍前から、東京五輪対応を念頭に新しい働き方の提案を進め、当社は「デジタルサービスの会社へ変革する」と宣言しています。サテライトオフィスとも提携し、場所を選ばないデジタルワークプレイスの整備を推進するとともに、中小企業ユーザー向けのデジタルサービス関連商材をそろえることで、コロナ禍でもうまくITソリューション提案に結びつけられたと思います。

 例えば、データ管理というお客様の多くに共通するテーマでは、テレワーク環境など場所に縛られずに容易かつ安全にデータの共有を可能にするオンラインストレージと結び付けたITソリューションを中心に提案しました。22年10月には「RICOH Drive」を発売し、そこに複合機でスキャンした紙文書を取り込んでテータとして管理するといった提案が受け入れられています。

電帳法はビジネスの大きな追い風にユーザーの業務に合わせた提案を推進

――22年1月の電子帳簿保存法の改正は、プリンタビジネスにどのような変化を与えましたか。

福留(リコージャパン) ビジネスの追い風になりました。当社では改正電帳法に対応した「RICOH 証憑電子保存サービス」を切り口として、提案に力を入れて取り組んだことで受注実績につながりました。複合機とも親和性が高く、サービスを入り口にデバイスと結び付けられるITソリューションになったと考えています。特に、従来の業務フローをなるべく変えたくないというお客様に対しては、業務との整合性がとれるようバリエーションのある提案を心がけ、運用をアウトソースするサービスも用意して対応しました。

大森(富士フイルムBIジャパン) 当社は、国内外で累計800万ライセンス以上を販売しているドキュメントハンドリング・ソフトウェア「DocuWorks」があり、紙文書をそのままフローを変えずに直感的に電子文書の受け渡しができる点を大きな強みとしています。このDocuWorksを核とした「10万円からできる電帳法ソリューション」といったメニューを用意したところ、お客様からの問い合わせはかなりの数に達しました。DocuWorksで紙を電子化し、文書管理用クラウドストレージの「Working Folder」や「BOX」などとも連携して保存できるサービスを提供するなど、外部パートナーとの連携強化も進めました。

福田(エプソン販売) われわれも“コト売り”を展開したいのですが、現時点では“モノ”の比率が高い傾向にあります。商品としては、大量の紙を高速処理できるシートフィーダー型のスキャナへの需要がかなりありました。最新のITを駆使した業務変革であるDXに向けた自社の取り組みや手法をお客様に示しながら、「Microsoft 365」を活用してコストを抑えた誰もが始めやすいソリューションを提案し複合機の販売につなげました。特に、中小企業のお客様と同じ目線に立った分かりやすい提案を心がけました。

環境、クラウド連携、業種向けなど各社独自の販売戦略を推進

――ここからは23年度の販売戦略をうかがっていきたいと思います。複合機を軸としたITソリューションビジネスや業種ターゲットビジネスで、どこに注力していきますか。

福田(エプソン販売) インクジェットは圧倒的な環境価値があると考えており、レーザー方式の複合機やプリンタから乗り換えていただくだけで、お客様はその価値を享受できます。2月には「エプソンのスマートチャージ」のインクジェット複合機<LM>シリーズを発売してラインアップを拡充、消費電力とCO2排出量の削減を訴求しています。

 今までも環境価値をアピールしてきましたが、期待したほどの販売にはつながりませんでした。また、プリント性能や画質もすでに高い水準にあり、メーカー間の差異化が難しいと感じています。そうしたなかで昨今の電気料金の大幅な高騰を受けて、経営者の方々の意識が変わったことを肌で感じるようになりました。18年3月に当社が実施した調査では、オフィスで使用される電力の約10%をプリント機器が占めていることが分かりました。これをレーザープリンタから当社のインクジェットプリンタに切り替えると、半減することも可能です。比較条件は当社ホームページに記載しています。

――顧客のプリント機器で使用している消費電力など見える化するサービスを行っているそうですね。

福田(エプソン販売) 当社では「出力環境アセスメント」というお客様のプリント機器に専用の調査機器を取り付けてデータを収集し、分析・レポートするサービス(無償/有償)を提供しており、非常に多くの問い合わせをいただいています。特に、学校や自治体、医療機関のようにプリント出力が不可欠な業種で、BCP対応という面からも関心が高いようです。お客様の利用状況によって異なりますが、使用時間やボリュームの多い環境であるほど効果は高く、プリント機器の電力消費を約85%削減できたというケースもあります。今は、環境コンサルや再生エネルギーの企業などと連携して、インクジェットの環境価値をお客様に訴求する取り組みを展開しています。

大森(富士フイルムBIジャパン) 当社では複合機DXをキーワードに、複合機とITソリューション、特にお客様がすでに利用されている「BOX」や「kintone」などのITツールを、より効果的に活用するための提案に取り組んでいます。例えば、複合機のタッチパネルからBOXなどのクラウドサービスに接続して文書を保存できるほか、FAX文書がMicrosoft365と連携して「Teams」で直接受けることで、利便性だけでなくペーパーレス化を図るといった提案をしていきます。

――DocuWorksを含め外部との連携強化を積極的に進められているそうですね。

大森(富士フイルムBIジャパン) はい。DocuWorks関連では、クラウドサービスへの接続を容易に可能にする「DocuWorks Cloud Connector」を用意しています。これを使うとDocuWorksから業務系アプリなどのクラウドサービスとの連携ができ、生産性向上に貢献できます。例えば、電子契約サービスとSFA(営業支援)、CRM(顧客管理)、販売/在庫管理、kintoneなどがシームレスに連携することで、販売業務のプロセスをワンストップで完了させることも可能です。

 対応サービスを増やすとともに、中堅・中小企業向けのDX推進ソリューション「Bridge DX Library」を22年5月に発表し、直近では100種類を超える品揃えに拡充しました。Bridge DX Libraryは、DXの懸け橋になるITソリューション群という意味で、こうしたアプローチが結果的に複合機の販売増につながると考えています。

福留(リコージャパン) 私たちもDXを合言葉に各種ITソリューションを立ち上げてきました。今は、その中でもお客様に刺さるものに注力しています。例えば、前述の電帳法対応がまだ終わっていない中小企業のお客様を支援したり、業務アプリと複合機のスキャナ機能を連携させたりといった提案に力を入れています。業務アプリでは、サイボウズと協業して「RICOH kintone plus」の販売を22年10月に始めています。

――注力する業種はありますか。また、22年9月にリコーグループに迎え入れたPFUとの相乗効果はいかがでしょうか。

福留(リコージャパン) PFUについては、ITソリューションとの親和性、価格帯の違いなどもあるため、お互いのソリューションを整理し、価値を高めていこうとしています。

 モノからコトへのビジネス転換を進めるなかで、今はモノ提案がややおろそかになった面もあり、当社にとって一丁目一番地である複合機の販売を、どう盛り上げていくかが大きなテーマとなっています。減少しつつあるモノ販売をできるだけ緩やかに着地させていくためにも、ITソリューションとの連携は重要で、業種ごとのきめ細かな対応がポイントになるかと考えています。

 医療や自治体、建設、流通などの業種において、紙が必ず残る業務分野にはダイレクトにモノを提案する選択肢を残しつつ、中小企業向けの業種・業務アプリをパッケージ化した「スクラムパッケージ」などとも絡めて、複合的な提案に力を入れています。

――戦略を推進する上であえて課題を挙げるとすれば、どのようなことがありますか。

福留(リコージャパン) まずは、お客様の業務をしっかり理解して、ITソリューションを軸とした改善提案をしていくことです。その上で複合機と絡めた販売につなげていきたいと思います。
大森(富士フイルムBIジャパン) お客様には、すでに利用されている複合機の機能を最大限生かすことで、生産性向上や働き方改革につなげていただきたいと考えています。そこに向けて、当社はITソリューションを絡めた複合機連携の提案を加速していきます。

福田(エプソン販売) 環境価値の訴求です。一例ですが、使用済みの紙からほとんど水を使わずに新たな紙を生みだす乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」が地域貢献活動の一つとして地方のお客様、自治体に関心を持たれています。そうしたお客様に向けてインクジェットの環境価値を訴求していきます。その結果、プリントボリュームが減るなかでも、評価して選んでもらえるプリンタになれると考えています。

パートナー連携の強化で業種、地域のさらなる開拓を進める

――プリント機器の売り方が変化するなかで、ビジネスパートナーとの連携や支援策について教えてください。

福田(エプソン販売) まず、文教分野では学校向けの月額定額を基本としたサービス「アカデミックプラン」を軸に据えています。カラーもモノクロも同額の定額で出力でき、毎分100枚の高速印刷で時間と手間を削減できることから、教職員の働き方改革にもつながると好評です。このプランを携えて、パートナーと学校、教育委員会を回っていますが、強い商材に育ってきたと手ごたえを感じています。

 オフィス向けには、引き続き環境価値を環境関連パートナーの方々だけでなく、他のパートナー含め広くお客様に届けていきたいです。医療分野にも環境価値を訴求しつつ、23年2月に発売したボリュームゾーンをターゲットとした中速度機であるエプソンのスマートチャージ<LM>シリーズを中心に展開します。

大森(富士フイルムBIジャパン) 当社は国内30社余りの販売会社などが統合して21年4月に発足した会社です。地域のビジネスパートナーとの密接なパートナーシップは当社の重要なビジネス基盤であり、パートナーとともに販売戦略を展開していくことは今後も変わりません。

 また、23年に入って大阪のショールームをリニューアルしました。ここにパートナーに来てもらい、実機やBridge DX Libraryを体験してもらう機会を増やし、当社の社内教育と同じレベルの研修も受けてもらっています。当社本社オフィスを置く東京の豊洲と大阪を基点として、Bridge DX Libraryのコンセプトのもと、全国のパートナーとの連携をさらに強化していきたいと思います。

福留(リコージャパン) 自社だけでITソリューションをつくっていくことは難しいため、「EDW(EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES)開発パートナープログラム」を用意しています。中小企業の方々の業務の自動化・省力化を実現するアプリ開発を支援し、共に開発したアプリを当社のエッジデバイスと合わせてお客様に提案します。開発パートナーとの協業を深めるのと並行して、ベンダーの方々が持つITソリューション系の商材と組み合わせて販売してもらう取り組みも進めていきます。
 
(左から)リコージャパン・福留 剛氏、富士フイルムビジネス
イノベーションジャパン・大森章司氏、エプソン販売・福田雄一郎氏


 
プリンタメーカー座談会2023に関するアンケート
https://www.seminar-reg.jp/bcn/survey_epson_ricoh/
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外部リンク

エプソン販売=https://www.epson.jp/

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン=https://www.fujifilm.com/fb/company/fbj

リコー=https://www.ricoh.co.jp/