日本市場でのシェアを拡大しようと躍起になっているEMCジャパン。今年1月に、販売代理店への支援制度「ヴェロシティプログラム」を設置し、間接販売の本格化で事業拡大を図っている。売上高については、市場の成長率に比べ2.5-3倍の成長率維持を目指している。ナイハイゼル・エドワード社長は、「今後3年間でトップクラスのシェアを獲得する」と意欲を見せる。
業績は順調に推移、市場成長率の2.5-3倍を
──業績が順調に伸びているようですね。2006年度(06年12月期)上期の状況は。
エドワード ワールドワイドでの売り上げは、第1四半期が前年同期比14%増、第2四半期で10%増となりました。日本も同程度に成長しています。
──売上増の要因は何ですか。
エドワード ここ数年間で企業が取り扱うデータ量が増え、ストレージ機器の顧客層がますます広がっていることが大きな要因です。しかも、単にデータを保存しているだけでなく、データの活用で自社ビジネスの拡大につなげる動きも活発化しています。ストレージベンダーにとっては良い傾向にあります。今後も当社の売上増に大きく寄与すると確信しています。
──今後は何をポイントに事業を拡大していくのですか。
エドワード 単なる箱売りの製品販売ではなく、顧客ニーズに合わせたソリューションを提供することです。ストレージ機器に対する顧客ニーズは変わってきており、自社ビジネスの拡大に直結するシステムを求めています。しかも、各顧客によってニーズは多様化しています。一方、顧客はストレージシステムに対して莫大なコストをかけられないというのが実状です。多様なニーズに対応するためには、さまざまなソリューションを用意しなければならない。さまざまなソリューションを提供していくには、当社だけでは対応できないケースもでてくる。そこで、今年1月から販売パートナーへの支援制度「ヴェロシティプログラム」を立ち上げ、多くの販売パートナーを獲得することに決めました。
──現段階でプログラム参加企業として11社を獲得しました。満足していますか。
エドワード 競合他社と比べれば、まだまだ少ないので満足していません。数の問題ではありませんが、今年中には最低でも20社程度には増やしたい。そこで、プログラムの拡充も含め支援内容を強化します。
──具体的には、どのような点で強化を図るのですか。
エドワード まずは、当社と販売パートナーの営業担当者が共同で顧客企業を獲得する体制を整えます。当社をパートナーフレンドリーな会社にしたいと考えています。わたし自身はこれまでパートナー企業の経営者との信頼関係を築き上げてきたと自負していますが、これを現場レベルまで浸透させたい。最近は少なくなりましたが、直販が中心だったことから当社の営業担当者が直接、顧客企業にアプローチしてしまうことがありました。そのことによる行き違いをなくすため、情報交換を密にするなどパートナーの営業担当者と関係を深めていくことが重要だと考えています。販売パートナーが1年間の販売目標をコミットすれば、現状よりも1─2割増し程度のインセンティブを与えるということも行っていきます。
──販売代理店の質を高めていくことについては。
エドワード これまでは、販売パートナーのSIerが技術者をトレーニングするために大きな投資を必要としていた。そこで、日本語版のトレーニングマニュアルを用意するなど新たな施策も展開していきます。「ヴェロシティプログラムに参加したのだから、これだけ売ってください」という考えではなく、あくまでも販売パートナーが売りやすい環境を当社から提供していくことが、日本市場での基盤を固めることにつながると考えています。
──日本ではサーバーとストレージの両方を持っていることが、顧客企業の獲得につながるカギとの見方があります。
エドワード 確かに日本では、サーバーのリプレース時にストレージ製品も一緒に切り替えるというケースが多いのも事実です。しかし、最近はストレージに関するニーズが高まっているため、今後は良いストレージ製品を購入したいと意識する顧客が増えると確信しています。自然と当社の製品を選択するようになるのではないでしょうか。
──国内売り上げやマーケットシェアで具体的な目標はありますか。
エドワード 日本はワールドワイドのなかでもマーケットシェアが低い地域です。そのため今後3年間は、市場成長率の2・5─3倍の伸びを目指します。これを達成すれば、トップクラスに入れるはずです。
提携強化や買収で、ビジネス領域拡大へ
──NECとの提携強化の進捗状況は。
エドワード 共同開発に関しては、非常に順調に進んでいます。予定通り、来年早々には戦略的な製品を投入できます。
──NECと改めて提携を強化したメリットは何ですか。
エドワード すべて自社で国内ストレージへのニーズに応えることはできません。NECのSI力と当社の開発力を合わせれば、ニーズに対応した製品をいち早く市場に投入できることがメリットです。NECは国内で強力な販売網があります。一方、当社はワールドワイドでトップレベルのシェアを持っている。この両社が協力関係を強化すれば、お互いのビジネス領域を広げることになると判断しています。
──このほどRSAセキュリティの買収を発表しましたね。狙いは何ですか。
エドワード ストレージシステムを提供していくうえで、今後セキュリティは欠かせない分野です。RSAの強みは、インフォメーション周りのセキュリティ技術を持っていることです。最近は、ノートパソコンが盗まれるという事件が相次いでいます。重要なデータであればあるほど、情報漏えい対策を行わなければなりません。
なかでも、日本市場では個人情報保護法の完全施行やJ─SOX法の施行予定などで、企業内のデータを守るという意識がますます高まっています。そのため、セキュリティを含めたストレージ製品の提供が重要になってきます。
──買収したことによってRSAセキュリティの技術がストレージ製品に組み込まれることになるのですか。
エドワード まだ買収が完了していないため何ともいえませんが、情報漏えい対策を視野に入れたストレージソリューションを提供することになるでしょう。
──今後もベンダーとの戦略的提携や、買収を行う計画はありますか。
エドワード 具体的なことは現段階で申し上げられませんが、ハードウェアやソフトウェア、カスタマーサポートを強化するためには戦略的な提携が重要になってきます。NEC以外でもワールドワイドでデルと提携していますし、国内では伊藤忠テクノサイエンスと戦略的な提携を結んでいます。今後も、必要となれば戦略的な提携や協業強化などを行っていきます。
My favorite 約25年にわたり愛用しているロレックス製の腕時計。普段はブランド品にこだわらないが、「妻の父からもらった」ことから、肌身離さず持っている。その義父は他界したが、「付けていると守ってくれている」という気持ちになるという
眼光紙背 ~取材を終えて~
25年間、日本に在住していることから流暢な日本語を使いこなす。商談を含めて日本語でのコミュニケーションが基本。“郷に入れば郷に従え”を忠実に行っていることからも、「販売パートナーと経営者同士の信頼関係は深まっている」というのもうなずける。「こうしたコミュニケーションを現場レベルにまで浸透させたい」。“パートナーフレンドリー”がEMCジャパンのコンセプトという。
国内ストレージ市場は、自社ブランドのサーバー製品を持つメーカーが強みを発揮しているのが現状だ。ストレージ専業メーカーとして販売代理店との協調関係を強化することが、「マーケットシェア拡大に大きく寄与する」とみている。そのため、今年度から間接販売を本格化させた。「販売パートナーとともに日本市場の事業を拡大させる」。これを達成するためには、初年度である今年度が正念場といえそうだ。(郁)
プロフィール
ナイハイゼル・エドワード
(ナイハイゼル エドワード)1952年生まれ。米国ケンタッキー州出身。米ゲートウェイのコーポレート・バイス・プレジデントおよび日本ゲートウェイ社の社長兼CEOを務めるなど、さまざまな企業で日本やアジア・パシフィック地域でトップのポジションを歴任。05年1月に米EMCに入社し、同社のバイスプレジデント兼EMCジャパン社長に就任した。
会社紹介
米EMCの日本法人として1994年に設立した。ストレージ分野の専業メーカーとして、同分野のハードウェアやソフトウェアの開発を手がけている。最近では、保守の強化やコンサルティングを中心としたサポートチームの設置などストレージサービスの提供にも力を入れている。
ワールドワイドでは、米国市場を中心にトップシェアを獲得している地域が多いが、日本では10%に達しておらず、ほかの地域と比べてシェアが低いのが実状。昨年度(05年12月期)までは、直販を中心にビジネスを展開してきたが、今年1月から間接販売を本格化。中堅企業市場で新規顧客の開拓を図っている。このほどNECとの提携を強化し、日本市場に合った製品開発や販売を行うことにも取り組んでいる。 今年度の売上高については、第1四半期と第2四半期ともに前年同期と比べ2ケタ増を達成するなど順調に推移している。このほど、ワールドワイドでセキュリティ専業メーカーのRSAセキュリティの買収を発表。ストレージビジネスの領域を広げることにも力を注いでいる。