JBCCホールディングスグループで付加価値ディストリビューターのイグアスが業績を伸ばしている。IBM製サーバーからサプライ用品までワンストップで調達できる利便性が評価され、全国のビジネスパートナーに向けたディストリビューション事業が拡大。今年度(2009年3月期)はグループ会社との合併により合算ベースで年商400億円近くまで拡大する見通し。景気低迷によるIT投資の抑制が懸念されるものの、調達コストの削減や効率化を訴求していくことで、2年後には年商500億円を目指す。
安藤章司●取材/文 ミワタダシ●写真
物品の調達代行サービス 特約店の調達インフラに
──ハードウェアビジネスの厳しさが増しています。単価下落は避けようがなく、メーカーやハードウェア販売比率が高いSIerにとってビジネスの抜本的な見直しが急務の状況。そんななかでイグアスのモデルは一つの回答になり得るでしょうか。
矢花 JBCCホールディングス(JBHD)グループは、ハードウェアの販売手法として「付加価値ディストリビューター(VAD)」の道を選びました。これを具現化したのがイグアスであり“物品の調達代行サービス”ともいえます。つまり、ハードウェアの粗利益が低くなるなかで、SIerはできるだけ手間をかけずに売りたい。売ったあとの追加的な製品情報やソフトウェアのアップデート情報も自動的に入手でき、アフターサポートに役立てたい。そういうニーズに応えるのがVADであり、米IBMではVADを使ったビジネスが大いに伸びています。
日本IBMでは、これまでメーカーが直接販売パートナーに製品を卸す仕組みが中心だったのですが、これをVAD経由に切り替える施策をここ数年推し進めてきました。こうした追い風もあり、実質創業初年度にあたる2007年3月期の売上高が150億円、昨年度(08年3月期)が207億円と順調な伸びを実現してきました。
──SIerであるJBCC本体は、ハードウェアなどのシステム販売で、やはり苦戦していますよね。ただ、イグアスを伸ばすことでJBHDグループ全体としてIBM製品を“売る”というパワーは落としていない。
矢花 当社は、日本IBMのトップソリューションプロバイダとして、全国約200社からなるIBMビジネスパートナーを支えるという使命を負っています。SIerであるJBCC本体だけでは、IBMパートナーの力を結集できない。そのためにイグアスをつくって、全国のパートナーの調達インフラとして活用してもらおうという狙いです。地方のIBMビジネスパートナーのなかには、年商5億円くらいの小規模なところもありますし、営業担当者が3人しかいない会社もある。イグアスは、事業規模や地域に関係なく支援していきますし、日本IBMからも全国区の流通網を強化していく点を最も期待されています。
VAD事業でライバル関係にある日本情報通信(NI+C)は、大規模なソフトウェア開発に長け、先進的で特化したノウハウを多数もっている実力派ですが、わたしの知る限りでは大都市に偏る傾向が見受けられます。JBHDグループ全体で全国89拠点を展開し、津々浦々を網羅する流通網こそが、当社がライバルに打ち勝つ重要な差別化の要因の一つだと認識しています。
──単純に考えて、メーカーから直接仕入れるよりも、間に1社入るわけですから割高になるような印象を受けます。
矢花 そこで“付加価値”の部分が出てくるんですよ。ITシステムはサーバーだけでは組めませんよね。パソコンもいるし、プリンタやネットワーク機器も必要です。IBMはパソコンやプリンタはすでに事業売却しているので、この部分は当社が一括して調達。規模のメリットが生かせますし、販売パートナーはあちこちから見積もりをとらなくても、ワンストップで商品を仕入れられる。
仕入れた製品のファームウェアやソフトウェアのアップデート情報、不具合の修正などの情報は、販売店へ迅速に送るシステムもありますので、ユーザー企業へのアフターサービスに役立つ。集中購買による効率化で、付加価値を高めようという戦略です。こうした動きに賛同してくださるSIerも増えており、直近ではIBMビジネスパートナーを含む約460社が当社を利用しています。
グループ再編で相乗効果 年商500億円を目指す
──JBグループの再編も盛んです。この10月にはサプライ用品のサプライバンクとイグアスが合併しましたし、4月にはJBCCのソフトウェア部門と先進技術部門、プリンタメーカーのアプティが統合してJBアドバンスト・テクノロジー(JBAT)が発足しました。
矢花 旧サプライバンクは6200社のユーザー企業にITサプライやOA機器、オフィス用品を販売しており、サーバーやパソコンを販売するイグアスとの相乗効果が高い。例えばネット通販サイト「JBマルシェ」の仕組みを使って、ビジネスパートナーがユーザー企業のサプライ調達の仕組みを提供することも可能です。ユーザー企業との取り引き接点が増え、パートナーにはいくらかマージンが入ります。パートナーがユーザー企業に対してワンストップでサービスを提供するインフラになることもイグアスの重要な役割です。
また、JBATは、JBHDグループの独自商材を開発する会社です。ソフトウェア部門とハードウェアメーカーのアプティを融合させたことで、ソフトとハードを一体的に開発する能力が大幅に高まりました。ここにきて、オリジナルで開発したBI(ビジネスインテリジェンス)ソフトを専用ハードに組み込んだり、シンクライアントソフトをUSBメモリに組み込むなどしたアプライアンス製品を相次いで商品化。ソフトだけではインストール作業や設定に手間取ることも考えられますが、アプライアンス製品ならば格段に手離れがよくなる。JBATでは、イグアス経由で広く一般のビジネスパートナーに売ってもらいやすくする製品づくりを強化していく方針で、イグアスの付加価値戦略の一翼を担います。
──サプライバンクと合併したことで、年商はどのくらい増えそうですか。
矢花 旧イグアスの今年度(09年3月期)の売り上げ見込みが250億円で、旧サプライバンクが135億円ですので、通期の合算ベースで400億円弱に達する見通しです。「刺身の舟盛り」の“舟”のようなもので、舟が大きければそれだけ多様な商材を扱える。小さいままでは、ありきたりのものしか乗せられませんから、ある程度の規模は必要です。2年後の2011年3月期には年商500億円に拡大させることをイメージしています。
──IBMはパソコン事業を売却するなどハードウェア商材の選択と集中を積極的に進めてきました。ベンダー間の競争は激しく、マルチベンダー化も進んでいます。
矢花 当社はこれからもIBM製品を主軸としますし、パソコン事業を継承したレノボはIBMと同列に扱います。東芝のノートパソコンなど顧客の要望に沿って他社製品も扱いますが、サーバー・パソコンについての基本路線は変わらない。これはイグアスの差別化要素でもあります。他のディストリビューターと変わり映えしないような品揃えでは逆に不利になってしまいます。
──今夏以降、景況感が急速に悪化していますが、どう乗り越えますか。
矢花 2009年は、より厳しい年になるのは間違いありません。ただ、経済指標がいい時には、それに比例してJBグループの業績もよかったかといえば、そんなことないわけで、逆に悪い時でも伸ばすことは可能なはず。全国100万社の中堅企業のうち、仮に半分が悪くなっても、残り半分をターゲットにするなど方策はある。価格競争は激しさを増すでしょうけれど、一方で調達コストの削減や効率化を進めるパートナーやユーザー企業が増えることも予想される。当社が力を入れるワンストップサービスへの需要も高まりますので、この部分は大きなビジネスチャンスになると捉えています。
My favorite 社名の由来である南米・イグアスの滝。IBMパートナー幹部らとともに実際に行ってみた。世界最大の水量を誇る大滝に圧倒され、規模のメリットを体感したとか
眼光紙背 ~取材を終えて~
JBグループは、もともとPower Systems(旧iシリーズ)をベースとしたシステム構築に強い。既存の強みを伸ばしつつ、さらにPCサーバーをベースとしたオープンシステム事業を伸ばすことで成長を加速させる。そこでカギを握るのが「レノボの動向」。PCサーバーへの参入を表明したものの、IBMへの気遣いか、「どうも態度がはっきりしない」と、矢花社長は苛立ちを隠さない。
「先日も中国にあるレノボの工場を見てきたのですが、IBMの工場と同等かそれ以上のレベルでレノボのほうが充実している」と、その生産体制に舌を巻く。レノボのトップは、「グローバルに比べて日本のビジネスは苦戦気味」と実状を語ったそうだ。
サーバーについては、ローエンドとハイエンドでIBMと棲み分けたらいいわけで、「もっと伸びるよう全力で応援する」と、能力を備えている“問題児”だけに、気になって仕方がない様子である。(寶)
プロフィール
矢花 達也
(やばな たつや)1954年、東京都生まれ。78年、立教大学経済学部卒業。同年、日本IBM入社。98年、GB事業部首都圏第一事業部長。03年、理事・ビジネスパートナー事業部長。06年、イグアス社長(現任)。07年、JBCCホールディングス取締役(現任)。
会社紹介
2006年4月1日、付加価値ディストリビューター(VAD)として営業開始。日本IBMのVAD戦略の一環であり、日本情報通信(NI+C)のVAD事業とはライバル関係にある。日本IBMのビジネスパートナーを含む約460社のSIerがイグアス経由でサーバーやパソコンを仕入れる。08年10月にはグループ会社でサプライ販売を手がけるサプライバンクと合併。サーバーからITサプライ、オフィス用品までワンストップで仕入れられる体制を強化した。昨年度(08年3月期)の年商は207億円。今年度はサプライバンクとの合併もあり、通期合算ベースで年商400億円弱に達する見通し。2011年3月期には年商500億円へ拡大させる計画。