パートナーと長期的な関係築く
──国内での認知が高まり、販売パートナーからみても非常に注目度が高まっていますが、現状のビジネスの課題は?
川合 これまでは、場当たり的にプロモーションやマーケティング施策を実施してきた面がありました。その点はパートナーも同じで、売りやすい場合は当社製品を売るけれど、そうでないときは、他メーカーの製品を売るということがあったと思います。プロモーション、マーケティングにおける長期的なビジョンに基づいた戦略を打つ必要がありますね。
──具体的な取り組みはありますか。
川合 サポートする際に尋ねられたことに即時に対応するだけでなく、日本で多くの企業が使っている製品と当社製品との整合性、バッティングの情報、導入するときのサイジングといった検証や、トラブル時の対応窓口を強化しています。日本のソフトは国内でしか使っていないものが多いので、われわれが情報を精査してロシア本部にエスカレーションしたり、日本で今後伸びるモデルに対応したり、日本法人の技術をロシア本部に送って、製品開発から携わることを昨年末から実施しています。また、グローバルではSLA(サービスレベルの保証)において、サポートなどの面で、日本でも海外でも均一なサービスレベルを保証しています。
一方、当社では「グローバルホワイトリスト」という新サービスを開始しました。海外の有名ソフトメーカーだけでなく、国内から海外に進出するメーカーに対してプログラムやドライバを提供してもらい、それを製品の機能であるホワイトリストに登録していくものです。あらかじめ「白」を増やしておけば、誤検知がその分少なくなり、迷惑もかかりません。
日本法人はいかに販社に安心して売っていただくか、いかにユーザーに安心して使っていただくかを担保し、フォローするのが一番の役割ですね。
──今後の方向性をお尋ねします。
川合 一時期、「クラウド」という言葉自体に拒否反応があったのですが(笑)、世の中はまさにクラウドありきの方向にシフトしています。アンチウイルスでいうクラウドは、インターネット上に評価型データベースを置き、クライアントから疑わしいプログラムをデータベースに問い合わせることによって、マルウェアの判別を行って定義ファイルがクライアントに配信するものです。
従来型は、定期的に定義ファイルをクライアントに配信するパターンマッチングが主流でした。クラウドでは定期的な配信時間がない分、短い時間で安全を提供できますが、それだけにフォーカスして「クラウドがいいですよ」と勧めるのはちょっとずるいと思います。クラウド上のサーバーに参照するものを作るまでのプロセスは、セキュリティベンダーによって違います。定義ファイルを作るまでに1日、3日、1週間かかるところもあるかもしれません。
当社の強みはマルウェアの調査力、定義ファイルの作成にあり、ずば抜けて速いと評価されています。例えば作成に2~3時間、配信含めても3~4時間でできます。従来のパターンマッチングにも引き続き力を入れますが、順次クラウド対応も進めることで、パターンマッチングとクラウドを使ってよりメリットを高めることができます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
飄々とした印象がある川合社長。インタビューではビジネスの話を聞かざるを得ないが、もともと武士の家系に生まれた川合社長は、「実は商売の話が嫌いなんです」と、ぽつりと一言。
アンチウイルスについても、「本当は私企業の商売にしてはいけないと思うんです。警察とかの機構と同じなので、最終的には国が防御すべきもの」との持論を展開する。
幼少のころ、父親が本の虫で家中の壁が本に覆われていたという体験から、本アレルギーだったという。モスクワに行って日本語が恋しくなり、何十回と読んだ本が実は司馬遼太郎の「坂の上の雲」。「もう何十回と読みました。日本の真の姿とは何かを追い求めていくようなところがあり、こういう時代の本を読むと、今の日本はダメだと思ってしまう。当社はロシアの技術ではあるけれど、少しでも日本をよくするのに貢献できたらいい」と意気込んだ。(環)
プロフィール
川合 林太郎
(かわい りんたろう)1971年、東京都生まれ。89年6月に乗馬クラブクレイン入社。99年6月、モスクワ国立大学言語学部スラブ言語学科修士課程修了。2002年6月、同科博士課程修了後、同年8月に住友商事ロシア現地法人入社を経て、05年10月、カスペルスキーラブスジャパンに営業部長として入社。06年1月より現職。
会社紹介
モスクワに本社を置くセキュリティベンダー、KasperskyLabは1997年、サイバー犯罪研究の第1人者であるユージン・カスペルスキー氏により設立された。2004年に本社100%出資の日本法人、カスペルスキーラブスジャパンを設立。エンジンのOEM提供によって大手ISPの採用が進む。その後、コンシューマ製品の展開によって一般的な認知が高まり、07年には法人製品を本格展開している。