ロシアのアンチウイルスソフトウェアベンダー、Kaspersky Lab。技術力に裏打ちされた未知・既知のウイルスの検知率の高さもさることながら、競合他社とは一線を画す独自のビジネスモデルを展開し、世界でシェアを伸ばしてきた。Kaspersky Labの日本法人であるカスペルスキーラブスジャパンの川合林太郎社長に、カスペルスキーの強みと成長戦略についてうかがった。

2007年から法人市場に本格参入
独自パートナープログラム立ち上げ

 Kaspersky Labはコンピューターウイルスならびにサイバー犯罪研究の第一人者である、本社CEOユージン・カスペルスキー氏らが1997年に創業した。ロシアのモスクワに本拠を置く、グローバルで実績を上げているアンチウイルスソフトウェアベンダーだ。日本法人は本社BODのナタリア・カスペルスキー氏と日本市場経営責任者のビタリー・ベズロドヌィフ氏が中心となり、2004年に設立された。

カスペルスキーラブスジャパン 川合林太郎社長

 カスペルスキーの市場参入は、他社と一線を画す。まずは「テクノロジーアライアンス」でその市場に参入し、コンシューマで認知度を高めたうえで、最終的にはエンタープライズの市場に展開することで、その位置づけを確固たるものにしてきた。

 「テクノロジーアライアンスはその国で活躍しているアプライアンスメーカーやソフトウェアベンダーの製品にアンチウイルスのエンジンをSDK(ソフトウェア開発キット)という形でOEM提供しているものです」(川合社長)。ジュニパーネットワークスやソニックウォールなどがその代表例。日本でも同様の戦略を展開しており、アークン、GIDEON、アイマトリックス、HDEなどの製品や、ユニークなところではシリコンウェアハースの精密加工装置(ディスコ)にも組み込まれている。またgoo、niftyといった国内主要ISP(インターネットサービスプロバイダ)が提供するサービスにもエンジンが採用されている。

 日本市場では、法人設立当初からエンタープライズ製品の提供を行っていた。しかし設立当初はコアな技術者にしか知られていなかったため、積極的な展開を行ってこなかった。その後、製品主軸をUNIX向けからWindows向けにシフト。そのタイミングでジャストシステムとの協業が決まり、コンシューマ向けのパッケージを発売したことにより、量販店で「緑のおじさんのパッケージの会社」という認知度も高まってきた。認知度、知名度が着実に高まりをみせるなか、07年に法人向けセキュリティ製品群「Kaspersky Open Space Security」を発表。エンタープライズ市場に本格参入した。

 09年の4月には、国内での販売を強化する目的で、より販社が売りやすい体制を整えるため、日本独自のパートナープログラムを立ち上げた。「これまで、当社の製品を取り扱うためには、パートナー側で製品の一次サポート窓口を構えていただく障壁がありました。これでは先行投資のリスクが発生してしまいます。そこで、必ずしもサポート部隊を抱えていなくても、流通、リセラーといった、販売を得意とする業者にも新たにパートナーになっていただけるプログラムにしました」と、川合社長はその特徴を説明する。

 パートナープログラムでは大きく分けて四つのレイヤーを設けた。ディストリビュータ、リセラーといった標準製品の販売に携わる「ディストリビューションパートナー」とxSP(ネットワークを介してサービスを提供する事業者)を対象にした「ソリューションパートナー」。マイクロソフトのようにグローバル規模で技術やマーケティングでアライアンスを結ぶ「ストラテジックパートナー」、そして四つ目が自社のハードウェア、ソフトウェアにエンジンを搭載する「テクノロジーパートナー」(OEM)だ。

 「ディストリビューションパートナー」では、サポート部隊を保有している「プラチナパートナー」、販売を中心とした「ゴールドパートナー」、「登録パートナー」の三つのレイヤーがある。「なかでも、『ゴールドパートナー』が急激に増えています。これからビジネスチャンスがあるだろうと鋭く見極めている企業からお声がけをもらっていると考えています」(川合社長)と効果を実感している。

最新の法人向け製品も提供開始
パートナーとともに成長を目指す


 カスペルスキーは、グローバルで「Save The World」というコーポレートスローガンを掲げている。川合社長は「少しオーバーな表現のスローガンなのですが、アンチウイルス専業ベンダーとして提供するものは『安全』です。インターネット上の脅威に対抗する技術を常に提供し、それをもって世界の平和を守る。製品とそれを支える技術力、そしてサポートが一番の売りです」と力を込める。

 それを裏づけているのが、ウイルスが多く発生する国でも認められている点だ。例えば中国では、ソフトウェアの海賊版が横行し、無料、もしくは正規の値段よりも格安にソフトを使うことができる。一方で、政府が自国製品の全面バックアップ体制を敷いているため、海外のメーカーが成長しづらい市場だ。そのなかにあって、中国のユーザーは「カスペルスキー」を最も支持しているのだという。「パソコンにセキュリティ製品を入れなければ危ないという危機感をもって、製品を見極めて選んでいるということでしょう。われわれはいわば同業の『プロフェッショナル』にOEMでエンジンを提供している点でも、技術、バックアップ体制は認めていただいていると考えています」と川合社長。

 各国で評価を高める同社が、09年11月に満を持して提供開始したのが、法人向けセキュリティの新製品「Kaspersky Open Space Security Release2」だ。Windowsのサーバー、クライアント、管理ツールの3製品を総称した製品群で、最新OSのWindows 7、Windows Server 2008に対応した。

 機能面では、なかなか社内ポリシーだけでは防衛の難しいUSBメモリ経由でのウイルス感染を食い止めるデバイスコントロールを実装。USBメモリに限らず、すべての外部メディアに接続や実行の許可・禁止をするかといった詳細なポリシー設定が可能。また、未知の脅威に対しては、HIPS(ホストベース侵入防止システム)で対抗する。これはそれぞれのプログラムの振る舞いを監視し、黒なのか白なのか、限りなく黒に近いグレーか、限りなく白に近いグレーか、四つのカテゴリに分類。グレーなものの監視・コントロールを行う。そのほか実に40以上にのぼる機能改良を行い、以前より定評のあったパフォーマンスもより向上。

 新しい脅威動向を見据えた設計を製品に組み入れる。こうした姿勢が、いまや日本のユーザーにも認知されている。IT業界の媒体が、450社を対象として実施した認知度調査の結果では、「先進的なイメージのある企業」として、450社中11番目、「特殊な技術をもっている会社」では6番目にカスペルスキーがランクインしたという。「われわれが目指しているのは、セキュリティのプロフェッショナル。今後もそのプライドをもち続けながら成長していきたい」と川合社長は将来像を語る。

 カスペルスキーでは、5年以内に国内市場で200億円の売り上げを目指す。そのためにはパートナーとの密な連携によるビジネスの成長が不可欠だ。最後に川合社長はパートナーに対しては「ロシアのメーカーということで冷たいイメージをもたれているかもしれませんが、実は義理人情に厚い国民性をもっています。当社は決してビジネスライクな取引ではなく、一緒にビジネスを伸ばしていくため、100%パートナー様にコミットメントすることをお約束します」とメッセージを送った。