オンプレミス型のシステム製品にも注力
――IT資産管理のクラウドは、技術・機能で差異化要素がなくなったと聞きますが、どう考えておられますか。
久保 いや、そんなことはありません。競合のクラウドは、私にいわせれば、オンプレミス型システムから機能を抜き出した廉価版です。IT資産を管理するのに絶対に必要な機能なのに、クラウドには備わっていないケースがあります。「ISM CloudOne」には、そうしたことがありません。
また、クラウドだからこそ必要な機能が備わっていることも、当社の強みです。ユーザー企業・団体がなぜクラウドを選ぶか。それは、オンプレミス型システム以上に、IT資産・端末の管理業務をしたくないからです。つまり、“管理をしないための管理機能”が必要なんです。それを当社はもっており、この点でも十分差異化できています。このほか、スマートデバイスのサポートとして、iOSとAndroidのどちらを搭載する端末であっても管理できること、海外にある端末にも対応していることも当社にしかない強みです。差異化できる部分は、十分ありますよ。
――「ISM CloudOne」の12年末時点での販売目標は累計3万社ですね。この1年で1万3000社増やすことになります。かなり挑戦的ですが、どう増やしますか。
久保 まずターゲットを広げます。「ISM CloudOne」のユーザー企業・団体の中心は、これまで従業員数50人未満の中小企業だった。でも、販売していくなかで、50人以上300人未満の企業・団体でもニーズが強いことがわかっています。この層への営業活動を積極的に行います。そして、プライベートクラウド向けにも力を注ぎます。一部の大企業からはプライベートクラウドで「ISM CloudOne」を活用したいという要望がありますから。
――お話をうかがっていると、クオリティソフトは今後クラウドに傾注していくのかな、とも感じます。
久保 それはない。オンプレミス型システム向けのIT資産管理の「QND Plus」と、「QND Plus」にライセンス管理機能が加わる「QAW」は引き続き拡販しますよ。すべてのニーズがクラウドになるなんてあり得ませんから。大企業の多くでニーズが強いのは、依然、オンプレミス型システム向け製品です。
――オンプレミス型システム向けのIT資産管理ツールは、成長率が鈍化しているとみられますが……。
久保 確かにIT資産管理ツールという観点でみれば、飽和感が多少あります。ただ、われわれは、それを見越してライセンス管理機能を強化しました。
ソフトウェアのライセンス管理は、法令を遵守するための企業の責任を果たすうえで必須の業務です。ライセンスを適切に管理するのは、利用条件・約款を理解しなければ不可能です。セカンドライセンスやアップグレード、ダウングレード、CPU別など、さまざまなライセンス形態があるなかで、ユーザー企業は、自社が保有する複数のソフトで、それらを照らし合わせて管理しなければならない。そんな煩雑な作業は、ツールなしでは事実上不可能です。われわれのツールは、それを可能な限り簡素化する約4500種類の約款情報を備える辞書をソフトに組み込んでいて、ユーザーのソフトライセンス管理を強力にサポートすることができると考えています。2011年は、「QND Plus」の新規ユーザーよりも「QAW」のほうが3倍多く、このソフトライセンス管理機能が認められています。今年もこの強みを武器にどんどん攻めますよ。
・こだわりの鞄 「TUMI」のビジネスバッグ。トレンドマイクロに在籍していた時、「大三川(彰彦・取締役)さんに勧められて買った」。それまで久保氏が使っていたバッグはどれも1年経たずに壊れたが、「これは10年使い続けている。ここまできたら、苦労も喜びも最後までともにする」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
久保統義社長に初めて会ったのは今から7~8年ほど前だった。その当時、久保氏はトレンドマイクロに在籍していたが、場所は、何の因果か、クオリティが主催する毎年恒例の新春イベント会場だった。それ以来、オフィスで面談する機会は数える程度だったが、宴席やイベント会場などで定期的に会い、情報交換をさせてもらっている。
記事にはストレートに書けないIT業界の裏話や、久保流のチャネル開拓術をうかがってきた。国内のIT流通構造を知り、人脈が広い久保氏の話は、記者にとっての貴重な情報だった。
長く取材活動をしているなかで、「この人は今後どんな道を進むのか」と、興味をもつ人が何人かいる。その一人が久保氏である。クオリティソフトの社長が通過点なのか、終着駅なのか。直接うかがってはいない。だが、これまで籍を置いていた企業の時とは違う雰囲気を、今の久保社長に感じている。(鈎)
プロフィール
久保 統義
久保 統義(くぼ のりよし)
1964年、愛知県生まれ。愛知工業大学工学部卒業後、愛知県のメーカーを経て、ジャストシステムに移籍。名古屋営業所長、システム営業部次長を務めたあと、シマンテックに移り、法人事業本部長を務めた。その後、トレンドマイクロでエンタープライズ営業本部長、シスコシステムズでセキュリティ&ワイヤレス営業本部長などを歴任し、09年2月にクオリティに移った。クオリティ傘下のクオリティソフトの常務取締役などを経て、2011年12月、代表取締役社長に就任。クオリティの取締役も兼務する。
会社紹介
クオリティソフトは、IT資産管理やバックアップ、PDF編集ソフトなどを開発・販売するクオリティグループの主力会社。1984年設立のクオリティからソフト開発・販売事業が分社・独立するかたちで、09年に誕生した。主力のIT資産管理・セキュリティ対策・ライセンス管理の「QND Plus」と「QAW」の累計ユーザー企業数は、およそ3500社、350万ライセンス。07年に発売したIT資産管理機能のクラウド「ISM CloudOne」のユーザーは1万7000社を超えた。