東日本大震災、欧州の債務危機、タイの洪水などの影響を受けながらも、OKIデータは、マイナス分を補って余りある「反転攻勢」をかけている。タイの洪水に遭遇した時に、生産・販売体制の立て直しで陣頭指揮を執った実績のある平本隆夫氏が、今年1月1日付でOKIデータ社長に就任。2012年度(13年3月期)は、プリンタ販売台数で前年度比40%増をうかがう。さっそく、世界市場に向けて販売担当者を大幅増員するなど、反転攻勢に向けた取り組みを矢継ぎ早に実行している。
天災をものともせずに「収穫期」へ
──OKIデータの礎を築いてきた二人のトップ(前野幹彦前々社長、杉本晴重前社長)と比べて、“平本色”をどう打ち出し、どんな役目を果たす心づもりですか。
平本 二代前の前野社長は、ものすごく積極的にOKIデータを大きくしてきました。一方、前社長の杉本社長は、拡大するプロセスで生まれた歪みの緩和と調整を行い、全社的な融和を実現しました。私の場合、強いていえば、両社長が製品や販売体制など材料を築き揃えていただいたところで、次のステップとして「収穫」する役目を負っていると考えています。
──歴代社長と比較しても、厳しい環境下での船出のようです。
平本 東日本大震災後の国内経済の落ち込みや欧州の債務危機、タイの洪水などは確かにありますが、私はそれを「厳しい」というふうにはみていません。逆に、こんな時だからこそ、当社のLED(発光ダイオード)プリンタ「COREFIDO(コアフィード)」などが顧客に評価されるチャンスが巡ってきたと思っています。
──「収穫期」の巡り合わせで就任する社長としては、明確な数値の成長が求められると思いますが。
平本 昨年、当社の重要な生産拠点であるタイのアユタヤにある生産工場が、洪水で1階部分が浸水するという被害を受けました。ややもすると気落ちするところですが、これをもう一度、盛り上げようという気運が生まれました。タイの洪水で失ったものも多いのですが、得たものもあります。生産と営業販売の両部門の一体感が強くなって、洪水から復旧・復興し、今度は「売りに行くぞ」という意気込みで動くことができました。タイの工場は、今年3月に完全復旧しました。他の生産工場と合わせて、洪水前の1.5~2倍の生産能力を発揮しています。今は多くのバックオーダーを抱えるまでになり、タイの工場だけで、通常月の2倍の生産体制を敷いているところです。次の新製品などで反転攻勢をかけたいところですが、いまはバックオーダーをさばくのに手一杯です。本格的な反転攻勢は今年後半からです。
──OKIデータ社内の“平本評”ですが、タイの洪水被害が出た際の対処として、「(常務執行役員当時の)平本さんの迅速な決断がなければ、こんなに早く復旧できなかった」という声を聞いています。
平本 東日本大震災の際は、サプライチェーンの被害にとどまりましたが、タイの洪水は自社工場のプリンタ生産に必要な金型がすべて浸水。その事実だけをみれば、とても大きなダメージです。それを目の前にすると、やる気を失いますが、私の場合、どちらかというと「引かない洪水はない」と。「もう一度立ち上がるんだ」と考えました。自分を奮起させるのと同じ気持ちで、社員にも接していました。
──今は、事の顛末を、このように語れますが、プリンタ生産がストップしたわけですから、モノ(プリンタなど)が流通できない時期のことを含めて、生産体制を見直す必要もあったのではないでしょうか。
平本 親会社と自社の財務部門に対して、「いくらお金を積み増してもいいから、お客さんとうちの営業担当者をつなぎ止めてくれ」と懇願しました。タイ洪水の浸水の影響は、半月で先がみえましたので、自らすぐにアメリカと欧州に飛んで「傷は浅い」と、グループ会社と各国の販売会社に訴えて回りました。
──実際のところ、傷は浅かったのですか。
平本 いや、傷は結構深かった。ただ、営業担当者が顧客をつなぎ止めてくれていましたし、生産系は設計も含めていち早く立ち上げることができたので、製販体制が早期にうまく機能しました。だからこそ、営業損益に与える影響も最小限ですみました。これがもう少し遅れたら大変だったでしょう。
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